第40話 ギンジの秘密
ラーメンを堪能した後にファラーラ様が切り出す。
「それじゃあ、ギンジさんの活躍を聞きましょうか」
「活躍ってほどのことでもないんですけどね。あの、なんとかってクソ野郎がやって来たときなんですが、やっぱり千人はコンスタンスさんでも荷が重いだろうなって思ったんですね。もちろん俺も手伝いますが、正面からの白兵戦はそれほど得意じゃない。それで、相手の大将をやっちまえばいいんだって考え付いたんですよ」
「どうしてそういう発想になるんだ?」
思わず反応してしまった。
「いやあ、一応俺は暗殺は得意にしてるでしょ。それにほら、あの妖精の森で凄い指輪をもらったんだ」
「そうなんだよ~。どんな力があるかは秘密だけどね」
セラムが自分だけは知っているという優越感丸出しで言う。
「そんなわけで、俺は砦を抜け出すと女王を探しに行ったんだ。最悪、都まで出かけるつもりだったんだけど、話に聞く性格的に近くまで来ているんじゃないかという期待はあった。そしたら、この館に滞在してるって情報が手に入ったんで、がっと乗り込んで、さっと女王を探して、がつんと言うことを聞かせた」
「ちょっと待て、途中も端折り過ぎだが、最後はなんだ?」
ギンジは首の後ろをさすりながら上目遣いに私の方を見てきた。
「それ言わなきゃダメかなあ?」
うん。もう何も言わなくていいよ。
そう言いたいところだけど、ファラーラ様がなんと言うか……。
「1つだけ聞いていい? 姉は近くに来た若い男は普段隠れている肌を見せることで誰でも魅了しちゃうことができるんだけどよく抗えたわね」
「ああ、不意を突いたときに、確かになんかボロンとはだけてたな。変なもの見せるな、ってしか思わなかったけど。いや、本当に全然見たくない。見るんだったら俺は……」
「はい、はい。惚気話は後で2人だけのときにしてね。ユニコーンの加護の方が強かったってことかしら」
ファラーラ様が軽く受け流す。
「たぶん、そうだね~」
「単にギンジの趣味じゃなかったというだけじゃろ」
セラムとダールが別々の反応をした。
「じゃあ、その両方ってことで」
ファラーラ様は如才なく諍いになりそうな雰囲気の芽を潰す。
「それから、ギンジさんはどうやったのか、姉を説諭して退位させたというわけね。どうやったのかとっても気になるわ」
「そいつは勘弁してください」
「色々気になることは残っているけど、当分口を割りそうにないわね。まあいいわ。そうそう、私は姉のことはもう気にしなくていいのよね?」
ギンジは凄味のある笑顔を見せた。
「もう、今後煩わされることはないはずです。ここの近くの要塞にある尖塔に閉じ込めてありますから。どうしてもというなら眠って頂くこともできますけどね」
「いいわ。ギンジさんが折角私を白い手のままにしてくれた気遣いを無にしたくないもの」
それから私たちはファラーラ様と一緒に都へと向かうことになる。
ナルトを求めていたはずのギンジも同行することを了承した。
夜間はファラーラ様の側を離れることはできなかったが、日中はときどき自由な時間を与えられる。
そんな時間を与えられたある日、ギンジが私を遠乗りに誘った。
扈従の列を離れて小高い丘まで駆けていく。
遠くまで見渡せる丘の上には私とギンジの2人だけだった。
馬を下りて岩の上に横並びで座る。
都の側を流れる川の向うには家々が立ち並び、その向こうには聖アッサンデール王国の象徴たる優美な王城の姿も眺めることができた。
「実はコンスタンスさんに話しておかなければならないことがある」
「そうか。今日誘ったのはそのためか」
「それもある。単に2人きりになりたいというのもあったけどな」
少し照れた様子のギンジに私は話の続きを促す。
「コンスタンスさんにだけ本当のことを言います。俺はこっちの世界に来たときに世界を救って欲しいと頼まれたんすよ。そのための特別な力もくれるってことで」
「そうか。世界を救うか。それは大変だな」
「まあね。正確にはね、コンスタンスさんが仕えているファラーラさんが非業の死を遂げるととんでもなく危ない魔王とかいうのになるそうなんです。出会ったときはびっくりしましたよ。こんなにすぐに出会えるとかご都合主義もいいところだなって。まあ、この際だからはっきり言っちゃいますけど、コンスタンスさんを見た衝撃の方が大きかったんですけどね」
顔を赤くして照れまくりながら打ち明けるギンジの姿に胸が熱くなった。
慣れないことをしているということも、精一杯誠実に話をしようとしてくることも伝わってくる。
「それで、まあ、楽しく過ごしていたわけなんだけれど、あの古い砦に追いつめられたときはこれはマズいと思ったんだ。それで特製のラーメンを作って、前の女王に食わせた。こいつを食うと何でも俺の言うことを聞かせられるようになる」
なるほど。
こいつが話さなければならないことか。
「そいつはなんというか強力ではあるが微妙だな。相手によってはラーメンを食べさせるのが大変だろう。まあ、そこは暗殺者として優秀なギンジさんだから活用できたということか」
「いやあ、優秀ってほどでもないけどな」
ほりほりと指で頬を掻いている。
少し揶揄いたくなった。
「その特製ラーメンを私に食べさせようとは思わなかったのか? なんでも言うことを聞かせられるのだろう? 破廉恥な望みでもなんでも思いのままだ」
ギンジは大慌てで否定する。
「とんでもねえ。そんなことを俺がコンスタンスさんにするなんてありえねえ。そこまで下品な人間じゃないですよ」
ショックを受けたように青ざめるギンジの手を握った。
「すまない。冗談でも口にしていいことではなかった」
「いえ、まあ、ラント隊長とか、フェなんとかとかのことを考えると、ちょびっとばかりは他の男に取られたくないと、特製ラーメンのことが脳裏に浮かんだのは確かですから」
「でも、良かったのか、その秘密を私に話して」
「そうですね。どっちかというと、話さないでいる方が心が重いっていうか、そんな感じなんで。自分が楽になるためでもあるんですが、コンスタンスさんに隠し事をしたくないかな」
「まったく正直なやつだな。そうだな。私はギンジが話してくれて嬉しいよ。聞いたことは秘密にする」
ギンジは私の手を握り返してくる。
それから、この先のことについて2人で話し合った。
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