第27話 女子だけの密談
「コンスタンスさん。それでですね、2人に同時に求愛された感想はどうなんです?」
ウッキウキのワックワクという感じでリーシャが声を弾ませる。
ギンジの告白の後の混乱をなんとか沈め、私を含めた女性3人は就寝するためにいつものように馬車の中にいた。
「そんなことよりも、ファラーラ様ご迷惑をおかけしました」
私が詫びるとファラーラ様は鷹揚に手を振る。
「いいのよ。ラント殿も若いから一途すぎるわね。あの場から引かせるには私が言うしかなかったでしょ」
ファラーラ様は角突きあわせる2人にこれ以上しつこくするようなら王女として護衛騎士との交際を認めないと引導を渡したのだった。
そんなファラーラ様は含み笑いをする。
「それで、どちらを選ぶの?」
「いえ、私はファラーラ様にお仕えしている立場ですから」
「あら、ついに私を受け入れてくれるの?」
息を弾ませてにじり寄ってきた。
あああ。あの颯爽とした姫様はどこに?
「ファラーラ様にはリーシャがいるでしょう?」
「ええ、もちろんリーシャのことも大好きよ。でも、コンスタンスのことも欲しいの。私って欲張りみたい。でも、無理強いはしないから安心して」
人として立派なんだかそうじゃないのかファラーラ様のことは判別しがたい。
ファラーラ様は私の頬に手を伸ばしてくる。
「急に衆人環視の中であんなことを言われたら困惑するわよね。コンスタンスも気の毒だわ」
指が横に滑り唇の端に触れた。
あの。気遣ってくださるのは嬉しいのですが、それは別の意図があるのでは?
「ねえ、2人の間で迷っているなら、わたしとちょっとだけ試してみない?」
私の唇を割った指を戻すとファラーラ様はその指に口づけをする。
「ここは馬車の中ですよ。外に聞こえてしまいます。これ以上はやめた方が」
「大丈夫よ。リーシャが静音の魔法を使ってるもの」
いやいや、そういう話じゃないでしょ。
私はリーシャに向き直った。
「リーシャ。お前はいいのか?」
「んー。ファラーラ様が私のことも愛してくれるなら、それでいいわ。私はあるがままのファラーラ様が好き」
だめだコイツ。
愛が深すぎて私には理解不能だった。
ファラーラ様に向き直る。
「姫様、お願いです。あの2人に急にあんなことを言い出されて戸惑っているんです。これ以上私を混乱させないでください」
ファラーラ様は唇を尖らせた。
「私も気持ちではあの2人に負けないわ。ぽっと出の2人にあなたを取られるなんて我慢ができない。でも、これ以上迫るのは地位の濫用ね」
残念そうにしながらも身体を引いてくれたファラーラ様にほっとする。
「私のことよりも、姫様の今後のことを考えなくては」
「そんな。私の保護を頼むためにコンスタンスが犠牲になる必要はないわ。気持ちはとても嬉しいのだけど」
身体をクネクネさせていた。
「姫様、どうかいつもの聡明な姫様に戻ってください」
「何も変わらないつもりだけど。まあいいわ。実際問題として私がかなり追いつめられているのは事実よ。女王が本気で潰しにかかったら抵抗は難しいわ」
「それでどれくらい本気を出してくると思います?」
「まだ私たちの正確な足取りはつかめていないと思うの。ゴンドーラ王国での襲撃が失敗したという報告が入ってリアクションするのにも時間は必要だわ。それに私とリーシャは変装していたし」
「私のせいで注意を引いてしまってすいません」
「あれは仕方ないわ。あれはラントさんだから気付いたんだと思うの。あとは彼が黙っていてくれるのを願うしかないわね。いずれにせよ、まだ気付かれてはいないはず」
「でも、発覚したらとても目立ちますね。ラーメン屋というだけでも跡をたどるのは容易です。しかし、疑問があります。どんな理由でファラーラ様を咎めるのです? 輿入れ先の王は死亡していたのだし賊に追われて避難しただけです。命に背いたわけでもないファラーラ様の罪は問えないのでは?」
「そんなのは簡単よ。私のことは既に非業の死を遂げた妹の名を騙る大悪人ということにすればいいのだから」
「え? まさか、そこまでのことは……」
「いいえ、あの人はするわよ。だからね、私も現実から目を背けるのはやめにしたの。女王は私にどうしても死んで欲しいんでしょう? だったらそれぐらいはでっち上げるわ」
「私とリーシャも居ますが……」
「そう。だから、あなた達が黒幕になるのよ。事故で主を失った近侍の2人が替え玉をでっちあげたってことにするの。先に私を亡き者にしてから、2人を拷問して証言を取れば誰も覆しようがないわ。リーシャは拷問に耐えられないでしょ? そして、そもそも誰も疑問を呈したりはしないでしょうね」
リーシャは拷問されるところを想像しているのか既に泣きそうな顔になっている。
「ミーナシアラ女王にそれだけの策を考えつくだけの頭はないと思います」
「女王になくても宰相ならお家大事でこれぐらいのことは考えつくでしょう」
頭の中がピンク色の思考にとらわれていないときは、ファラーラ様は優秀だった。
「ジシュカル王国に直接兵を入れないと思いたいけれど、今は魔族の活動が活発よね。通例であれば援軍要請はあるでしょうから、それに乗じてというのはあるでしょう」
「ドワーフ族と事を構えるのは避けませんか?」
「そこはある程度は抑止力になると期待したいわね。あまり期待しすぎるのは禁物だけど」
私は今の話を整理して考える。
「総合的に考えればギンジさんと離れてラント殿を頼る方が良さそうですね」
「あら、コンスタンスはラントさんの方が好きなの?」
「ですから! その話はどうでもいいんです。それに今は姫様の安全の話をしているんですから」
「どうでも良くは無いわ。それにラントさんを頼る方がいいとも限らないわよ。ラントさんはともかく父親の総騎士団長は現実主義者に違いないわ。裏で私を売り渡す可能性もあるでしょうね。ある日突然私とリーシャだけが消えるの。さっきも言った私が偽者というシナリオにコンスタンスは必須じゃないから」
「私がそんなことをさせません」
「イェルパさんは若くてまだ経験が足りないわ。素直でいいと思うけど為政者としては甘すぎる。私たちを切り捨てる利が分かってないから危なっかしいわね」
「それほどファラーラ様と年は離れていないのでは?」
「私は苦労しているもの」
おどけてそう言うファラーラ様が気の毒でならなかった。
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