幕間 私は転生者リーシャ
本当にびっくりするわよね。
前世の記憶がどっと流れ込んでくるんだもん。
ただ、思い出したことで何かが変わったわけじゃない。
令和の日本でのほほんと生きてきた女子高生の記憶が役に立つわけがなかった。
もともと私は第2王女のファラーラ様のメイドだし、魔法も使えるから割と恵まれている立場だったというのもある。
でも、その魔法も大活躍できるって感じじゃないんだよね。
色々と便利ではあるものの、暴力の前には私は無力だった。
その点、騎士のコンスタンスさんは凄い。
ファラーラ様を酷い目に遭わせるため送り込まれてきた男たちも、みかじめ料を取り立てようとした犯罪組織の人たちもなぎ倒していた。
コンスタンスさんが助けてくれなかったら私は悲惨なことになっていただろう。
どうせ転生するならコンスタンスさんのような人が良かったな、なんて考えてしまう。
まあ、臆病者で流されやすい性格の私が身体だけ強くなっても意味はないか。
いかにも胡散臭い銀次さんが現れたときも、懐かしさのあまりラーメンを食べようと提案してしまったぐらいだし。
私の記憶にあるものと比べると随分とあっさりしていたけど、銀次さんのラーメンは美味しい。
元々あまり男の人と接するのが得意ではなかった私ではあったが、日本のことを話せることができるというので銀次さんと何度か話してみる。
転生者としての記憶が役に立つときがついにきたと思ったものの、すぐに話題が合わないことが分かった。
推測が正しければ銀次さんは私より数十年早く生まれたはずである。
千円札に描かれている肖像画が決め手になった。
コンビニでバイトをしていたときに偽札だと騒いで恥をかいたので、私は伊藤博文が描かれた千円札があることを知っている。
そして、昭和のオニーサンがコンスタンスさんに気があるのはバレバレだった。
ちょっとだけ揶揄ってみたけれど、とても分かりやすい。
ただ、アプローチの仕方は不器用過ぎて見ているこっちが目を覆いたくなる。
まあ、男は黙ってとか、背中で語るとか、不器用さがウリだった昭和の人だから仕方がない。
そして、肝心なギンジさんがチート能力を持っているかの検証は難航を極める。
本人曰くこっちの世界に来る前後の記憶がないらしい。
私は前世の記憶が戻った際に、治療や補助を司る魔法の才能と状態異常耐性を授かっていることを知った。
確かに貴重ではあるものの大活躍というほどのパワーはない。
妙齢で身分が高くなく外見が魅力的な女の子という属性がすべてを台無しにしていた。
それとファラーラ様のメイドということもマイナス方向に作用している。
女王の手の者に捕まったらと思うと想像するだけで震えあがった。
銀次さんは転移者なので事情は違うが何らかの力は貰っているんじゃないかと疑っている。
でも、すぐに分かった。
銀次さんは元から能力が高い系の人なのだ。
畳針のような細身の刀を使って殺し屋稼業をしていたらしい。
素手での喧嘩も無茶苦茶強かった。
とはいえ、コンスタンスさんには及ばなそうな感じがする。
まあ、コンスタンスさんが規格外すぎるんだけれどね。
そういうわけで、ギンジさんは私やファラーラ様に対して下心がなさそうな強い男という貴重な存在である。
元犯罪組織の男たちも配下に収めてしまったし、追われる身としては頼りになる存在だった。
ラーメン作りの手伝いをすることを条件にファラーラ様の味方をしてくれるように頼んだ私は褒められていいと思う。
こうして銀次さんと共にドワーフのところまで無事にたどり着くことができた。
今のところ貞操の危機を感じることもない。
背の低い屈曲な体つきのドワーフを見たときは、本当に異世界なんだということを強く実感してちょっとだけテンションが上がる。
そのドワーフは私たちの到着に対して凄く迷惑そうな顔をしていたけれど、ラーメンを食べると態度が変わった。
とりあえず不足しているものについての調達に協力してくれることになり、安全でプライバシーも保てる部屋も提供してもらう。
ベッドは彼らの体型に合わせたもので少し寸足らずだったが、それはやむを得ないだろう。
ファラーラ様がベッドに腰掛けて期待に満ちた目で見上げてくると抑えが効かなくなった。
久しぶりの甘いキスに頭がクラクラする。
凄い勢いで運命が暗転したけれど、まだそこまでは酷い目にあっていないことを寿ぐようにファラーラ様と激しく求めあった。
私は前世のときから綺麗な女の子が好きである。
だから、最初にファラーラ様から控えめに誘われたときはためらわずに応じた。
義務感からではなく進んで相手をしていることをファラーラ様はとても喜んでくれたし、お仕えできて本当に良かったと思っている。
なので、城から追い出されでもファラーラ様さえ一緒なら平気で、それほど辛くなかった。
ただ、ファラーラ様がエロ爺に嫁がされることになったときは2人で悲嘆にくれたことを覚えている。
それを思えば漂泊の身の上になったことなど、まったく堪えなかった。
私に不安があるとすれば、それはコンスタンスさんの存在である。
ファラーラ様はコンスタンスさんのことも好きなのは間違いない。
もちろんこの場合の好きは抱かれたいという意味も含んでいる。
しかし、肝心のコンスタンスさんは王子様キャラにも関わらず、完全にストレートだった。女子高にいたら2月14日は机の上にプレゼントの山ができそうなタイプなんだけどな。
ファラーラ様と私の関係について一切批評めいたことは言わないが、自分が巻き込まれることは固く拒んでいる。
私たちの安全はコンスタンスさん次第という面があるので、邪険にするわけにはいかないが、ファラーラ様は取られたくなかった。
相手にその気はなくてもファラーラ様はコンスタンスさんへのスキンシップを繰り返しているし、いつ新しい世界に目覚めるか分かったものじゃない。
まあ、もしそうなっても私がファラーラ様に捨てられるということは無さそうだけど、可能ならファラーラ様を独占したかった。
こうなったら銀次さんとコンスタンスさんがくっつけばいい。
出汁を取るための肉の調達に恐ろしいコカトリスを狩りに行くぐらいだから、コンスタンスさんも銀次さんのことを嫌いではないはずだ。
転移者なんだから気に入っているヒロインと一緒になるぐらいの特典はなくっちゃね。
私は秘かに2人が恋仲になるようにこっそりと動くことにした。
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