幕間 俺の名は銀次
しかし参ったな。
気が付けば周囲は砂礫ばかりの場所である。
こんな訳のわからんところに放り出されてどうすりゃいいんだと思いながらも、通常通りにいつでも開店できるように屋台を引いていたら、どえらいものが現れた。
馬に乗った3人組。
いずれも外人の娘さんたちである。
そのうちの1人が目に入ったときは胸郭の中で心臓が跳ねまわったぜ。
身長180センチはあろうかという体に軽々と鎧をまとった女性は金髪を編み込んで後ろに垂らしていた。
少し太い眉の下の目は鋭く周囲を見回している。
槍を手にしたその姿はとても凛々しい。
俺の好みにドンピシャだった。
なんだか知らない世界に放り出されたことに文句たらたらだったが、初めて神様に感謝する。
最初は言葉が通じなかったが、すぐに意思疎通ができるようになった。
俺が見初めた女性のハスキーがかった声も最高である。
ぶっきらぼうな話し方も見た目にマッチしていた。
俺が銀次と名乗ったもののラーメン屋とは何だと言い出すし警戒を解かないので、お呼びでないコントの真似をしたが全く受けない。
殺気のようなものが膨れ上がったところで救いの手が現れた。
いかにも女の子って感じの胸のでかいネエチャンがラーメンについての説明をしたうえに食べていこうと言い出す。
店の支度を始めるともう1人のお姫様という雰囲気の女性を誘っていた。
ボーイッシュな女性は渋っている。
さすがだ。
得体の知れない店での食事は警戒しなくちゃいけねえ。
2人は俺の作ったラーメンを褒めてくれたが、肝心のコンスタンスと呼ばれる女性は席につこうとしなかった。
デカ乳のネエチャンがコンスタンスさんに食べるように勧める。
俺としてはこのネエチャンには興味が湧かないが、なかなか活躍をしてくれた。
コンスタンスさんはさも慣れているかのようにラーメンを箸でつかむがするりと落ちて汁が頬に飛ぶ。
クールに見えて、こういう小さな失敗をして恥ずかしそうにするギャップがたまらない。
その後の豪快な食べっぷりは胸がすくようだった。
誉め言葉はいらない。
この様子で十分に伝わった。
しかし、3分の1ほどを残したところで席を立ってしまう。
味に満足しなかったのかとがっかりしたところで周囲の気配に気づいた。
やばい。コンスタンスさんに見とれていたせいで、この連中の接近に気づかなかった。
この俺としたことが、と反省している間にコンスタンスさんは大立ち回りを始める。
コンスタンスさんの戦う姿は恍惚とするほど美しかった。
この瞬間、俺の第2の人生の目的が決まる。
ファラーラとかいうお嬢さんを人質にしようとした野郎を叩きのめした。
敵の大将らしいのが懐柔しようとしてきたが耳を貸すことはしない。
「助力感謝する!」
早速ご褒美をもらってしまった。
俺に感謝の言葉を残してコンスタンスさんは敵を蹴散らしにでかけ、しばらくすると戻ってくる。
お姫さんに謝罪をしていた。
いやあ、謝る必要はないぜ、と喉から言葉がでかかったが我慢する。
お姫さんはコンスタンスさんを労わって抱きついていた。
いい主じゃねえか。合格。
ただ、その抱きつく役は俺と変わってくれないかな。
「姫様を助けて頂いて感謝する」
重ねてお礼を言われてしまった。
その後、コンスタンスさんは冷めて伸びたラーメンも残さず食べる。
マジでイイ女だ。
支払いができないということにかこつけて屋台の手伝いをお願いするとあっさりと引き受けてくれる。
俺とお揃いのエプロンをした姿に将来を夢見てしまった。
コンスタンスさんと夫婦になって2人で店を切り盛りする。
でへへ。
思わず緩みそうになる頬を引き締めるのが大変だった。
運良くたどり着いたタンシルという町でその予行練習をする。
コンスタンスさんの口上に聞きほれた。
やっぱり客寄せが美人だからか滅茶苦茶に客の入りがいい。
嬉しいような残念なような複雑な気持ちになる。
俺の商売に興味を持ってくれたのか、食材の保管方法の話をしていたのに無粋な奴らがやってきた。
まあ、こういう奴らの登場は計算の内ではある。
ただ、いいところで邪魔をしたことは正直に言えばムカついた。
コンスタンスさんを嫌らしい目で値踏みしたときは、マジで殺そうかと思ったが我慢する。
照れて気のないフリをする雑魚のくせに生意気だ。
まあ、俺も言いだせないんだけどよ。
奴らのアジトに着くと臆面もなくコンスタンスさんに欲情をむき出しにする野郎がいた。
ふざけんな。こいつだけは許さん。
ボスとの交渉は当然決裂した。
三下の相手はコンスタンスさんに任せて俺はボスの相手をする。
投降しないので始末した。
組織の乗っ取りをする必要上、素直に従わないからには殺すしかない。
三下を脅して忠誠を誓わせ残りの連中も配下に入るように説得してこいと命ずる。
俺も監視のために出向こうとするとコンスタンスさんが助力を申し出てきた。
我が巴御前にはこの部屋で待っていてもらうことにする。
なんか順調に進んでる気がした。
どこかで聞き覚えたメンデルスゾーンの結婚行進曲を口笛で奏でる。
コンスタンスさんに劣情をむき出しにしていた男は投降を拒否したので後ろから忍びよって眠らせた。
気が付けば2階の階段の上からコンスタンスさんが督戦してくれていたので気合が入りまくる。
破落戸どもをぶちのめして大半を傘下に組み入れた後で、コンスタンスさんと少し突っ込んだ情報交換をした。
渾身の『がちょーん』はやっぱり受けない。
それでも俺が殺し屋稼業をしていたことを告げても眉一つ動かさなかった。
俺の今の境遇を心配してくれる。
「それに、こんな絶世の美女と知り合えたから」
さり気なくいってみたが後半は蚊の鳴くような声になってしまったので恐らく聞こえていない。
情けないが、これだけの美女相手だから仕方ねえよな。
コンスタンスさんが仕えるお姫さんも色々事情があって大変なようである。
俺とコンスタンスさんの2人の店の食材が気になって氷のことを聞いた。
そこからの話の流れで、引き続き俺の店を手伝ってくれることになる。
リーシャさんには個人的にはこれっぽっちも興味が湧かないが本当にいい仕事をいた。
よく分からない魔法みたいな方法で氷も確保できる。
「すげえ、すげえ。最高だ」
コンスタンスさんとこの先も一緒に居られる目途がたって本当に最高だった。
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