第8話 みかじめ料
「この町の役場に事前に聞いた。露店を出すのは自由と聞いたんだけど」
まずはとりあえず静かに返事をする。
3人組は品なくゲハゲハと笑った。
「何をとぼけてやがる。届出が必要なのはそっちじゃねえんだよなあ」
「それはどういうことだ?」
「この町で商売するにはステイブル一家に手数料を払わねえと。そんなことも知らねえのか?」
「他所からやってきて知るわけがないだろう。それで手数料というのはいくらなんだ?」
「売り上げの3分の1だ。つまり、もし売り上げが銀貨3枚なら、そのうちお前たちが2で俺たちが1ってことだ。分かるか?」
馬鹿にすんな。
と思ったが、こいつらは私が騎士であり、それなりの教育を受けていることを知らない。
それにゴンドーラ王国は教育水準が比較的低いからこのレベルの初等の計算もできない者が多いのだろうな。
とりあえず、計算は理解したということを伝えた。
チラリと雇用主であるギンジの顔を見ると目玉をぐるりとして剥きだしている。
まあ、そうだよな、
利益の3分の1でもぼったくりだが、売り上げだと話にならない。
ギンジは色々と頭がおかしいが、商売人としてはかなり良心的だった。
ラーメンの売値に対してかなりの率の金をかけていい食材を使っている。
売上の3分の1も第三者に持っていかれたら確実に赤字だった。
ギンジのラーメンが評判になったのも無理はない。
他の店はステイブル一家の手数料のせいで、お客さんの満足する料理を出したくても出せない状況ということのようだった。
「売り上げの3分の1というのはさすがにちょっと高くないか?」
とりあえず感想を述べてみる。
「商売ができなくなるよりはいいだろう?」
3人組は嫌らしい笑みを浮かべた。
実に分かりやすい恫喝である。払わなければ俺たちが商売の邪魔をするということを宣言していた。
「まあ、現金が無いと言うなら、他のもんで払うっていうのも……、ギリギリなくはねえな」
「俺にはちと厳しいが世の中には色んな趣味のやつがいるからな」
くそ。
マジでぶん殴りてえ。
こんなカスのようなやつらに女としてどう思われようが関係ない、というほど私も人間ができちゃいないんだ。
実際問題として私も愛をはぐくむ相手の選択肢としてこいつらはない。
でも、女として見られないというのは別問題なのだった。
それでもぐっとこらえてしおらしい声を出す。
「親分さんと手数料についてご相談させていただきたいのてすけど」
幸か不幸か三下どもは物わかりが良かった。
「ああ、いいぜ」
「ついてきな」
「おっと、その前にそっちの2人の顔を見せてもらおうか」
3人組の中では1番の兄貴分と思われる男が三白眼を光らせる。
「俺のカンがいい女って告げてるんだ」
私は無駄に察しがいい男にため息をついた。
「やめておいた方がいいと思いますが」
「うるせえ、さっさと顔を見せろ」
三白眼はドスのきいた声を出す。
仕方なく肩をすくめながら、ファラーラ様とリーシャの2人にフードを上げるように言った。
「仕方がない。顔を見たいとの仰せだ。フードを上げろ」
ファラーラ様とリーシャが夕暮れの光に顔を晒す。
「おえー」
「兄貴、こいつはさすがに」
子分2人が奇声を発し、三白眼も顔をしかめた。
「……くそったれ。もう、戻していいぞ」
2人はいそいそとフードを元に戻す。
私はリーシャが魔法で2人の顔に酷い火傷と刀傷があるように見せかけてあった細工をフードで顔が隠れる前に鑑賞した。
焼き討ちされて酷い目にあったのだと一目で想像できるなかなかの力作である。
残念ながら強盗団による村の焼き討ちというのは稀に発生していた。
だから、リアリティということでは全く問題がない。
この幻影を創り出したリーシャは初対面のギンジのラーメンを食べようと言い出すぐらい頭のネジが緩んでいるゆるふわ女だった。
だが、痩せても枯れても魔法が使える。
人目を引くことが多いファラーラ様を変装の魔法で保護する術は心得ていた。
「まあ、一応確認はしねえとな。元の顔の作りは悪くないのにもったいねえ」
三白眼は部下への手前の照れ隠しなのかそんなことを言っていた。
「それじゃ行くぜ。ついてこい」
3人組が先導して歩き出す。
テキパキと屋台を畳んで移動の準備をしていたギンジが屋台を引いてそれに続いた。
ファラーラ様と一緒になって馬を引いたリーシャが次に位置し私が
愛用の槍と剣、肩当てと胸甲は屋台の底にくくりつけてあり、ほとんど丸腰なのでどうも落ち着かない。
タンシルの町はそんなに大きくはなく、少し歩くとそこそこ立派な門構えの屋敷に着いた。
敷地内に入ると庭に屋台と馬を置いて建物の中に入る。
1階の広間にはここまで誘導してきた3人組と似たようなのが10人ばかり屯していた。
「ヒューイ、なんだそいつらは?」
スキンヘッドの質問に三白眼が答える。
「勝手に商売してたので手数料の話をしたら、金以外で払いたいんだと。それでボスは?」
「まだ、上にいらっしゃる。そろそろお出かけの時間だ。早くした方がいいぜ。あ、その女、仕込むんなら俺がやろうか? 気の強そうな女、俺の好みなんだ」
うえ。
気色悪すぎるな。
後ろからのスキンヘッドの視線を遮る位置にすっとギンジが移動した。
ギンジはそういう気遣いをしそうなタイプには見えない。
首を捻ってギンジを見ると大口を開けた呆けた顔で内装を見上げている。
広間に面している大きな階段を使って2人階に上がった。
廊下を右手に進んだ部屋の前で三白眼のヒューイが両開きの扉をノックする。
「ボス。ヒューイです。忙しいところすいません。新たな商売人が手数料で話があるってことです」
ヒューイが声を張り上げた。
ちょっと間が空いて中からくぐもった声がする。
「入れ」
「失礼しやす」
下っ端2人がさっと動いて扉を開けた。
ヒューイが私たちを先導して部屋の中に入る。
壁を背にでかいデスクを前にして一見すると紳士然とした50がらみの男が座っていた。
半白の髪の毛の下の紳士というには険のある目がこちらに向けられる。
「おう。よく来たな。派手に開店したラーメン屋とかいう店のオーナーさんたちかい。商売繁盛は結構だが社会のルールは守らなくっちゃな。で、手数料の割合は聞いたよな。それで、いったい何が問題なんだ?」
ギンジがすっと前にでると会話の矢面に立った。
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