死夜(よんわ)

 目が慣れてくると、そこが室内であることに気付きました。


 石材の様な素材で造られた巨大な灰色の部屋の中にいたのです。規則正しく並んだ柱に模様はなく、どれも単調で無機質でした。


 僕が身を隠していた箱の中に使徒が着ていたのと同じ服、丈の長い白い法衣を見つけました。神の使者と同じ法衣を身に付けるなど恐れ多いことだと思いましたが、怪しまれないためにも僕は法衣に袖を通しました。


 慎重に白い箱から降りた僕は前方に停まっていた白い箱の扉を開き、中を確認しました。しかしそこには既にリゼの姿はなく、リゼが乗せられていた銀色の台車もありませんでした。部屋の床には台車の車輪が通ったと思われる跡が残っていました。


 その跡を辿っていくと鏡のように磨き上げられた金属の扉を見つけることができたのですが、僕の力では開けることができませんでした。


 どこかへ連れていかれたリゼを探すため、僕は周囲を見渡し他の扉を探しました。

 そして部屋の隅にあった緑色に光る長方形の付いた入口から階段を上がり、階段を上がった踊り場で新たな扉を見つけたのです。


 ドアノブに触れた僕の指は震えていました。

 そこから先に足を踏み入れてはいけないという気がしました。二度と戻って来られないだろうという予感がしました。


 ですが、それは僕を引き留める理由にはなりませんでした。

 僕はドアノブを押して手前に引きます。

 扉の先に広がっていたのは、ほとんどの物が白で統一された白亜の神殿でした。その完成された造りに僕は神々の世界にやって来たことを実感したのです。

 

 神殿と言いましても岩盤をくり抜いて造った神殿や切り出した岩を積み上げて建造した神殿ではなく、長い廊下に沿って等間隔に仕切られた箱のような部屋を繋ぎ合わせた不思議な空間です。


 天井には眩く光る棒状のガラス管がはめ込まれていて、廊下に沿って続く等間隔に隔てられた部屋の中には金属製のベッドがいくつも並んでおり、ベッドを覆う白い布の上で人々が談笑したり寝転んだりしていました。


 みんな同じような薄水色の衣を着ているのは、なにかの儀式ではないかと僕は思いました。

 

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