餐夜(さんわ)

 薄暗い神殿で身を隠すことはそれほど難しくはありませんでした。祭壇の上で祀られるように仰向けになっていたリゼは、使徒によって銀色の台車に乗せられました。


 彼女は眠っているのか、仰向けのまま運ばれていきました。


 神殿の最深部にある神の扉に使徒が軽く触れると巨大な扉が滑らかに開き、彼女は黒い輪に銀のハブが嵌められた四つの車輪が付いた大きな白い箱―――、上手く説明することが出来ませんが、それはまるで馬車の荷台のような形状をしています。その白い箱に取り付けられた両開きの扉から仰向けに寝るリゼは箱に乗せられました。


 僕は二台ある白い箱のうち、リゼが乗せられた箱とは別の箱に身を潜め、気付かれないように静かに扉を閉めました。すると箱の中は真っ暗になり、なにも見ることができませんでした。


 しばらくすると箱が馬車のように動き始めたのが分かりました。


 この白い箱は一定の唸り声を上げながら進んでいきました。箱には窓のようなものが一切なく外を窺い知ることができなかったため、どれくらいの時間、どれくらいの距離を移動したのかは分かりません。


 いつ終わるとも知れない闇の中で不安に押しつぶされそうになりましたが、リゼと離れたくない想いを糧に僕は自分を保つことができました。


 果たしてリゼが乗る箱と目的地は同じなのか、リゼをどうやって村まで帰すのか、様々な疑問や懸念が頭を巡っていたとき、白い箱から鳴り響いていた唸り声が途絶え、ついに絶え間なく続いていた振動が止まったのです。


 箱の壁に耳を近づけると外から使徒たちの話す声が聞こえてきました。何を話していたのか内容は分かりませんでしたが、彼らがこの場所から離れていくことが分かりました。


 僕はさらに息を潜めて、完全に彼らの気配が消えてから箱の扉を内側から開けました。


 眩い光に眼を窄めたのを覚えています。天井から煌々と降り注ぐ豊潤な光は確かに眩いものでした。ですがそれらは太陽よりも冷たく、どこか寂しかったと記憶しています。


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