第16話 必殺技

「忍法、霧隠れの術!」


「!」


 霧矢が突っ込んでくると同時に、浩紀が自身の体から霧を出し、皆の姿を隠す。おい、これじゃあ配信を見てる視聴者に俺たちの姿が見えねぇじゃねぇか。


 考えたのはいいけど、それはこの配信の趣旨から外れる。きりばらいしてもいいけど、問題なく見れるようにはしてやるか。


・見え……見え……見えた!

・急にクリアになったぞ!

・霧が出てきて見えねぇ!と焦ったはいいが、見えても別に姿は捉えられねぇな……

・かろうじて剣閃だけ見えるな。全員が全員瞬間移動してるように見えるんだわ


「おらァ!」


「合わせる!」


 後ろからハルバードの横振りと、霧矢の上段斬り。後ろのだけ躱して、霧矢には武器を射出し仰け反らせる。


「え~い!」


「隙ありよ」


 ハルバードを躱すタイミングに合わせ、美作さんの気の抜けた声が聞こえる。しかし、これは今俺重力が制御されているということ。ガクン、と最初喰らった時よりも進化してるこのスキルに合わせ、ゆかりが薙刀を振り的確に喉へと狙いを定めている。


「にんにん!」


 更にそこに、手裏剣も飛んでくる。成長をしていることに満足感を覚えつつ、全ての攻撃を対処。


 まだ、当たってやらない。


「クッソ!本当に当たらねぇな!どうなってんだ!?」


「単純に、慣れの違いさ霧矢。異世界にいた頃なんて、これよりも速い奴と戦っていたんだから」


 洗練された霧矢の剣捌きを、ひょいひょいと軽く躱しながら言葉を交わす。実際、新幹線ぐらいの速度だったら余裕で出せるヤツいたからな。味方でよかったよアイツが。


「美作殿!」


「うん!せーのっ!」


「おっ」


 ガクッ、と。身体に掛かるGと、何かが足に触れている感覚。見やると、俺の影からぬるりと黒い腕が生え、俺の足を掴んでいた。


「今だ霧矢!」


「行くぞ直樹!ここで決める!だ!」


「!」


 彼らがこの五日間で開発した『必殺技』。ゆかりと美作さんは欲しがらなかったが、ロマン大好きな野郎どもは、普段の訓練とは別に必殺技の開発を行っていた。


 スキルの組み合わせ。それは、スキルなんて概念のない異世界では考えることもしなかった武器×武器の新兵器。


 つまり、俺が知らない未知の技術。頑なに俺に見せようとしなかったのはこの時のためか!


「いくぜ各務!『スターバ〇スト・ストリィィィィィィィム!!』」


「アウトぉぉぉぉぉぉ!!!」


 それは既にある技だバカ!無駄に剣を光らせるという技術を惜しみなく発揮し、ゲーム版のスターバースト・スト〇ームを発動させる。


 だが残念だったな霧矢!それは俺が一度異世界で再現済みだ!


「叩き崩せ!『大切断』!!」


 前後から、日本の剣とハルバードが迫る。霧矢達の顔には、『流石に取ったろ!』という確信が浮かんでいる。


「────あめぇよ」


「はっ!?」


「なっ!?」


 ガキン!!と俺のすぐ近くで剣戟音。二人の武器を止めているのは、波紋から半身ほど出ている武器庫の剣。


「そんな使い方ありかよ!?ずっりー!!」


「何言ってんだオメー。戦場にズりぃもクソもあるかよ」


 あと、そういう使い方も出来るってだけだ。ようは発想だよ発想だよ。思考をもっとトばせ。


 思わずジト目になって言い返していると、チラリ、と見慣れた濡れ羽色が霧矢の影に隠れて見える。瞬間、俺の目でさえも一瞬反応が遅れるほどの銀閃が襲ってきた。


「……っぶね」


「あら、流石に取ったと思ったのだけれどね、各務くん」


 的確に首を狙った一撃は、ギリギリ首を傾げることで躱す。少し髪が切れたか。


 しかし、さっきの一撃は明らかに今までのゆかりの素の実力とは二回り以上の速さだ。手加減しているとはいえ、この俺だぞ?


「……『いらないわ』って、スンとした顔で言ったよなゆ……ゴホン」


「あら、男の子はこういうのが好きと調べたら書いてあったわ」


 うん。間違いでは無いよ。ゆかりの事だ。本心から別に必殺技なんて要らないと思ってはいたんだろうが、男が好き=俺が好きと解釈したんだろうな。会得したら、俺が喜ぶと。


 うーん、恐ろしいなこの天然勘違い製造機。俺でなきゃ惚れてるね間違いなく。


 あと、律儀に最初にあった時の連携を実直に守ってるのもエグイな。破壊力が高い。


「ま、あと一歩惜しかった────な!」


「ぐっ」


「チッ」


 体から魔力を放出させて、強制的に吹き飛ばす。その間にいつまでも俺の足に触れている不届き者の手を剥がしてから踏み潰す。


「五分経過。ここからは俺も攻撃するぞ」


「!全員さんか────ぐはっ!?」


 ピコピコハンマー高速射出。ピコピコピコピコ!と四つ分の音を────ん?四つ分!


「まだでござる!」


「良く避けたな浩紀」


 まだ皆の目では見きれない速度でやったはずなんだがな。


「忍法、影分身の術!」


「まだ甘いな、氷槍陣」


 魔法を発動させる。俺の周囲を埋めつくしながら現れる分身を全て掻き消すために、円形状に氷の槍(先端は丸い)を出現させる。


「む、無念……」


「はいおつかれ。まぁまだまだこんなもんだな。もっと精進するように」


・つ、つぇぇ……

・何が起こっているのか全く分からんが、この勇者は想像を超えるバケモンということは分かった

・Oh……crazy……

・外国人ニキもよう驚いとる

・これは紛うことなき魔王

・味方でよかった。いやまじで

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