勇者
「お披露目式?」
「あぁ。お前達の事を全世界に発信したいらしいな、上は」
強化合宿四日目。毎日毎日全員をボロ雑巾になるくらいに鍛えに鍛え上げ、全員のレベルが300を超えたころ、須貝さんが珍しく俺達を広間に集めるとそう言った。
遂に、ダンジョンが発生が明日に迫ったXデーに対し、何をのんきな事をと正直思う。
「そんなことしてる暇あるのか?」
「ダンジョン発生は明日でござる。できたと同時に、攻略しに行くのが最善では?」
俺と同じことを思った直樹と浩紀が須貝さんに言う。須貝さんもそう思っているのか、後頭部をポリポリとかきながらバツが悪そうな顔で言った。
「俺もそう思うがよ……残念ながら、首相からの命令であればやらなきゃやんねぇのよ」
「め、めんどくせぇ……」
裏に政治の臭いがプンプンしやがる。須貝さん、あなたレベル200オーバーまで育てたんだから、ちょっとは抵抗を……。
「ということで、今日はお前達ダンジョン挑戦者のことをなんて呼ぶかの会議をする」
「呼び名?そこはラノベよろしくの冒険者とか、探索者でいいんじゃねぇの?」
「いや、その呼び名は相応しくないな」
霧矢がそう言ったのを、俺が即バッサリと斬る。
「冒険や探索……まぁ間違ってはいないが、そこには少なからず『楽しさ』というものが存在する。未知の光景や、魔物との戦闘を『趣味』として行う。だけど、俺たちは違うだろう?」
俺達がダンジョンに潜るのは、世界を救うためだ。そこに、楽しさなんて求めていない。
これは『義務』なのだ。力を受け取った俺達が行わなければならない、生きるための『戦争』である。
「魔王を倒し、世界を救う────そういう人物が、ゲームでなんて言われるか知っているだろう?そういうのをな──────」
七月二日。皇居には、沢山の人と報道ヘリが押しかけていた。全テレビ局は、これから行われるお披露目式を中継しており、果てには政府公式アカウントで
「少し様子見してきたでござるよ主殿」
「おう、どうだった浩紀」
お披露目ということなら、それなりにちゃんとした格好でやんなきゃなぁ、とめんどくさがりながらも異世界で勇者やってた時の格好に着替えた各務。音もなくシュタッと現れた浩紀に驚くことなく、外の様子を聞いた。もはや主と呼ばれることに違和感を持っていない。
「皇居外苑までびっしりと人が集まっていたでござる」
「最後までチョコたっぷりみたいだな」
「それはト〇ポでござるよ霧矢殿」
コントのような会話を繰り広げた二人に、須貝か苦笑いをしながらも、パンパンと手を叩いて視線を集める。
「お前達、そろそろ時間だ」
「やっぱめんどくさいなぁ……」
「おめぇ昨日までノリノリで打ち合わせしてたろ」
じとっ、と直樹が各務を睨む。確かに、演出がどーのこーのと誰よりもはっちゃけてたのはコイツである。
「いやほら、やるまでは楽しいけど、いざやるとなったら途端にめんどくさくなることない?」
それにプラス、めんどくさい政治の臭いも加味して、各務のテンションはダダ下がりである。
「分かった分かった。式が終わったら焼肉奢ってやるから。気合い出してくれ各務」
「よし、行くぞお前達」
「肉で買収されたぞこいつ。それでも異世界勇者か」
「やっぱり、男の子だね~」
シュタッ!と立ち上がった各務に対し、のほほーんとした目で見る朱里と、対照的にマジかこいつという目で見る霧矢。
はぁ、と言いながらも全員各務の後について行く。この中でも圧倒的強さを持つ各務は、いつの間にかリーダー的立ち位置になっていた。
「あっ!姿が見えました!ご覧下さい!」
どこかのリポーターが、各務達の姿を捉える。
「あの方達が!我が国が誇る最高戦力である────」
バルコニーに姿を現すと、どよめきと驚きの声が響き渡る。
『────そういうのをな、勇者と呼ぶんだ』
「────『勇者』達です!」
魔眼が、各務の目から迸った。
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