第13話 あなたが気になる理由
────ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ
「……昨日、急に百均に行きたいと言い出した時は謎だったが、まさかこれに使うとはな」
ピコピコと大量に音を鳴らしながら、眺めていると、カメラを構えている須貝さんからそう聞こえた。
元々、昨日からこういう流れにしようとは思っていた。だが、なぜピコピコハンマーなのかというと、たまたまか知らないが、百均におもちゃ武器がこれしかなかったからである。
あとは、無限の武器庫に放り投げて、これを量産するように設定するだけ。
「はい、おつかれさん。今日はゆっくり体を休めて、明日からやってくぞー」
地面に着地したあと、倒れている五人に向かって、俺はそう言った。
「綺麗なものね。実家の庭も見事ではあったけれど、下郎が手入れをしていると考えると、途端にクソ以下にしか思えなかったわ」
「俺以外の男に対する恨みが強すぎる」
ピコピコハンマーの落下から回復したゆかりを連れ、現在俺たちは約束通りに、皇居外苑デートを行っていた。
なんでか知らないが、彼女の方から手を繋いできたので、そのままゆっくりと一周するルートを歩いている。
いや本当になんでなんだろうな?断る理由もないし、役得だからそのまま繋いでいるけど。
「ゆかり」
「何かしら」
「聞いてもいいか?ゆかりからに対する謎の好感度の高さについて」
「好感度……?」
あれ、好感度が通じない……?結構アレって一般的にも使われると思うけど……あれゲーム用語じゃないよな?
「あー……俺と、俺以外の人間に対する態度とか、言葉遣いとか、かなり違うじゃん。それがなんでか気になってな」
適正検査のあの日、ゆかりをチャラ男の毒牙から守ったあのやり取り。傍目から見ても、主観的に見ても、あれでゆかりとの中が深まったのは事実だろう。だが、俺以外の男に対しては下郎呼びだし、そもそも喋ろうともしない。
毎日おはようからおやすみまでメッセージが飛んでくるし、「各務くんの声が聞きたくなったの」っていう第一声から始まる電話もしたことがある。
もう俺のこと好きじゃん。異世界行ってたから、俺はよくいる鈍感系主人公とは違うぞ。
だけど、その割にはあんまりゆかりは照れない。不意の触れ合いとか、ちょっと目が合うと頬を染めたりすることはあるが、それだけだ。
「ゆかりが良いなら、教えて欲しい。あ、別に言いたくないなら言わないでいいんだけど」
「わたしの家、男尊女卑の家なの」
「へぇー、男尊女卑………え???」
待って。そんな重そうな事軽々しく言う?
「実家の男衆はクソを下水で煮詰めたような性格の人しかいないし、縁談を持ちかけたいい歳したおっさん達は、わたしのことを性処理の道具としてしか見ない……味方はいつも、お母様と少数の使用人だけ」
「悪口のワードセンスが独特すぎる……聞いていいの?」
「えぇ。別に、この程度の事はとっくに乗り越えたわ。何の問題もないわ」
男尊女卑……ねぇ。異世界にいた頃も、少なからずそういう貴族の家があった。
生まれた子供を、政治道具としての利用価値しか見出さず、政略結婚をさせて、権力を高めるためのダシにする。まぁあるあるだな。そんな奴らに限って、裏ではえげつない事してるから、いくつか家を勇者仲間でぶっ潰したんだよな。懐かしい。
そのパターンで当てはめると、実はゆかりの家って相当でっかいお家柄なのか?普段の口調も落ち着きがあるし、どことなく品性も感じるし。
「わたしもそろそろ、実家から強制的に結婚をさせられそうになって……それが嫌で、実家から離れられれば何でもいいと思って政府主導の適正検査に参加して────あなたに、出会ったの」
ゆかりが真っ直ぐに俺のことを見つめる。
「最初は、ふしぎな人。そういう印象だけだった。でも、あなたには何故かは知らないけれど、他の殿方とは違うと……そう、思ったの。あなたの事を知りたいと……心からそう思ったの」
告白かな。聞く人が聞けばそう勘違いしても仕方がない言い方をするな。
「でも、殿方の知り合いどころか、同性のお友達さえいないわたしに、各務くんともっと仲良くなる方法なんて思い浮かばなかった」
「ちょっと待て」
さっきからちょいちょいと聞いてて悲しくなるようなことを平然と言うね。もしかして君、メンタルやばい事になってない?
「だからわたし────お母様に相談したの」
「おっと、空気変わってきたな」
そこはかとなく嫌な予感がするな。余計なこと吹き込んでそうな気がする。
「どうすれば、殿方と仲良くなれるのか。お母様は言ったわ。普段、私があなたにしていることをすればいいのよ、と」
…………………………………。
「つまり、今日会った時に抱きついてきたのは?」
「お母様は、会う度にわたしのことを抱きしめるのよ」
「おはようからおやすみまで毎日メールするのも?」
「家族とは毎日挨拶はするものでしょう?」
「……………声が聞きたいと電話してくるのは?」
「あれは………わたしがしたいと思ってしているわ」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……………」
なるほど。完全に理解した。
つまりあれか?友愛=家族愛と認識しているから、そこら辺の距離感がガバガバになっていると。そういうことだな?
「……とりあえずゆかり。君のお母さんが言ったことは全て無視しよう。俺が正しい友達付き合い教えてやるよ」
「????」
このままだと、ずっとこのことを勘違いしたゆかりが、俺以外に出来るかもしれない友達がすんごい目にあう。
ひとつ言っておくぞゆかり。君のその顔面偏差値でやってはいけない。死人が出るぞ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Q.つまり、どういうことだってばよ?
A.天然勘違い量産機……ってワケ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます