第8話 冰剣遣い

「────突っ込んでこなかったことは正解だったが、たった三人でやれるのか?」


「やってみせるさ。それが今回の俺の仕事だ」


 二人の攻撃を躱しつづけた自衛隊の人は、もういいとばかりに、二人の頭を掴んで床に叩きつけて気絶させた。レベルという概念が存在するようになり、少しは頑丈になっていることは霧矢で確認済みなのだが、流石にやりすぎでは……?


「うっわ……音えぐ……本当に大丈夫か?」


「大丈夫だ。上手く行けばああいう風にはならない────ま、あんなことになってもゆかりの事だけは守るから、安心して逝ってこい直樹」


「いや俺も守って!?」


 大丈夫だって。ある程度のあの人の実力も把握出来たから、万一にもそんな可能性は無い。


「そら行ってこい。お前が要なんだからな」


「ちくしょうめぇ……叩きつけられたら恨むからな各務ぃぃぃ!!」


 ハルバードを掲げながら突っ込んでいく直樹。それを見て、少し遅れてからゆかりも追随する。


 立てた作戦は簡単だ。お互いがお互いを邪魔しないように、直樹が最前線で戦って、その隙を縫うようにちくちくゆかりが攻撃していくというだけ。


 そして俺は、それが上手くいくように三つの冰剣を操りながら戦況をコントロールしていく。


 懐かしいな。俺がまだ『勇者』と呼ばれる前、拾われた師匠の元で修練を積んでいた時は、こうしてちまちまと師匠と一緒に魔法を放っていたものだ。


 恐らく、あの自衛隊の人のスキルは、体の一部を硬質化させるもの。でなければ、木刀を腕で受け止めれるわけないし、人体から出ていい音は出ない。


 それに、見ていた限り────


「おらァ!」


「おっと……!流石に、少しは連携も意識してきたか」


 ────恐らく、硬質化は1箇所しか出来ない。レベルを上げれば、もしかすると全身も可能かもしれないが、今はまだそこまで至っていない。


 なれば、直樹がヘイトをちまちまと稼いでいる間に、ゆかりがタイミングを見て薙刀で攻撃を仕掛ける。それを続けていけば勝てる。


 冰剣を三つ作る。直樹とゆかりの影に隠しながら移動させ、視線に入らないように。


 二人は、対人戦は恐らく初。ゆかりはワンちゃん薙刀の習い事で型的なもの(あるかどうかは知らない)をやっているかもしれないが、それでも一手先を読むのが関の山と言ったところだろう。


 だから俺は、全員の動きを予想し、ゆかりの望む未来へ手助けするのアシストをする。


「────ぬおっ!?」


 直樹の振るうハルバードの影から冰剣が一つ、髪先をなぞるように飛来する。二つ、逃げ場を誘導するようにわざとらしく心臓を狙う。


 三つ、大げさに避けようとする退路の先に、ゆかりの影に隠すように飛来する冰剣が道を塞ぐ。反対側からは、その硬直の隙を狙った、ゆかりの薙刀が────


「ぬんっっっ!!!」


「なっ!?」


「マジか……!取ったと思ったのに……!」


「ふーん」


 ────しかし、強化された身体能力を活かすバク宙。ゆかりの攻撃は、背中を掠めるのみとなった。


 いやはや、俺もアレで取ったと思ったがな。自衛隊の執念のなせる技か。


「危ない危ない……1本取られる所だった」


 首をコキコキ鳴らしながら、ゆかり達との間合いを測る自衛隊。アレは……少しギアを上げたな。所詮一般人という驕りを捨て、本気でかかってくる目だ。


「……下郎。各務くんに怪我をさせたら、例え各務くんが許しても、わたしが許さないわ」


「うわ何それえげつねぇ……一体何されるんだろ俺……」


「それはもちろん────下郎の心が完全に折れるまで、罵って差し上げます」


「全力でやらせて頂きまぁぁぁす!!!」


 俺はMじゃねー!!と言いながら突っ込んでいく直樹。あ、おいバカ。


「厄介な相手は、先に倒すに限るな」


「「っっ!!」」


 パンっ!!!と大きな拍手音。予想外の音により、思わず硬直してしまった二人は、隙を晒す。


 猫騙しか。しかも、音からしてピンポイントに硬質化した部分をクラップしたなあれ。部位ではなく、面積の方だったか……。


「君を削れば、戦力は大幅ダウンだろ?」


「確かに、普通だったらそれが正しいな────


「各務くん!!」


「各務!!」


 焦る2人の声が聞こえる。しかし、俺はそんな状況でも、ニヤリと口元を大きく歪ませていた。


「残念。俺は近距離も超一流だぜ」


「ぬっ!!」


 こちとら勇者やってたんだ。魔法バカスカ撃つだけじゃ、それは勇者じゃなくて賢者だからな。


 左ジャブ、右ストレートと襲いかかってくる拳をひらりひらりと躱す。そして、その間にゆかりとアイコンタクト。


「!」


 突っ込んでこい。そんな意味を込めた後、パシん!と拳を受け止める。


「あんまり眩しくはしないけど────一応、目を瞑った方がいいぞ」


 パチン。指を鳴らすと、そこから光が溢れ出した。


 指パッチンフィンガースナップ×閃光魔法=簡易的閃光弾スタングレネードだ。大体眩しさ的には懐中電灯の光が急に目に当てられる位の眩しさだから、失明はしないだろう。多分。


「チェックメイト。まだ続けるか?」


 首元には、自衛隊の背後から伸びてる薙刀が。その周りには、俺が作った冰剣が浮いている。


「……いや、降参だ。参った参った!天晴れだ三人とも!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る