第5話 水瀬ゆかり
「……っ!」
その事に驚いたチャラ男は、息を呑み少しだけ下がった。
「……チッ、しらけたわ」
そして、舌打ちをしながら荒々しくどこかへ行くのだった。
なんだアイツ。イキってる割には、少しビビらせたらズコズコ引き下がるなんて。異世界の奴らは「なんだァ……テメェ……」とか言いながらガンつけてくるからな。
人の集団に消えるのを確認してから魔眼を解き、くるりと後ろを振り返る。
「大丈夫だった?」
改めて、女性の姿を見る。制服を着ていることから恐らくは同い年。腰を少しすぎるくらいに長く、光の当たり加減により若干青く見える濡れ羽色の髪。
宝石のように、きらりと輝く薄紫色の瞳。目鼻立ちもキリッとしており、高校三年生にしては若干豊かなプロポーション。
確かに、絶世の美女とは彼女のことを言うのだろう。先程のチャラ男が何とかして繋がりを持とうとするのも分かる。異世界のみんなとも充分に張り合えるな。
「……えぇ。お陰様で助かったわ。ありがとう」
「ん。それなら良かった。それじゃあ────?」
騒ぎにより、若干の注目も集めていたため、別の場所へ移動しようと踵を返そうとすると、肘あたりに違和感。
振り向くと、彼女の腕が俺の裾を引っ張っていた。顔を見ると、彼女も目を見開かせていたため、なぜ彼女もこうしたのか分からないように思える。
「どうしたの?」
できるだけ優しく、彼女に笑いながら問い掛ける。「いいかい各務。君の笑顔はあまりおいそれと見せてはいけないよ」と、かつての勇者友達に言われたことを思い出したが、まぁ大丈夫やろ!
あまりにもぶっさぁ……という意味だったらさすがに泣いてしまうが。
「あ……そ、その……な、名前」
「え?」
「貴方の名前を……教えて欲しいのだけれど」
裾を離し、行き場の無くなった手をキュッ、と握りながらそう聞いてきた彼女。そんな様子に、思わずくすりと笑ってしまい、彼女の手をまるで姫様の手を握ったかのように、下からすくい上げる様にして握手した。
「御神楽各務。縁があるなら、よろしく。お嬢様」
「
「いいの?俺は別に大丈夫だけど、君と同年代の女子って名前で呼ばれるの嫌がるんじゃ?」
「さぁ?あまり、人に名前を呼ばせることは無いから、分からないわね」
そういうもん………?異世界だったら名前で呼び合うのはデフォだったから、俺としては別に構わんが……。
「それなら、俺も名前で大丈夫。よろしくな、ゆかり」
名前を呼ぶと、彼女は徐々に頬を朱に染まらせ、若干目を逸らした。
「っ……え、えぇ……か、各務……くん」
え、何この子かわいい────。
『それではこれより、適正検査を行います。受験票の下一桁の数が1~5、6~0の五人で一組となって、対応するアルファベットの前にお並び下さい』
しばらく、ゆかりと談笑していると、規定の時間となったためにアナウンスが流れた。
なるほどね。俺の受験票に書かれている番号は『178』だ。ゆかりは────
「私は176だけれど、あなたは?」
「178……どうやら、縁はまだまだ続くようだな」
「えぇ、そのようね」
────運がいいことに、どうやら俺達は同じグループのようだ。一斉に動き出す人の波から、少し遅れてから歩き出す。A~Jの計10個のアルファベットの下には、0~5、55~60のように、対応する番号が表示されているので、俺達はFの前に並ぶ。
「────お、さっき注目集めていた騎士とお姫さんが同じグループか」
「「?」」
該当のグループに近づくと、こちらに気づいた学生がそう言った。騎士?姫?なんのこっちゃと思った俺とゆかりは揃って首を傾げた。
「ま、強そうな人が一緒なら心強いか。俺は
「────触らないでもらえるかしら、下郎」
「────え、痛……えぇ?」
「ワ、ワァ……」
え、君俺の時と反応違くない?思わずち○かわ出ちゃった。
彼なりの挨拶なのか、はたまた、美人な女の子に触れたかっただけなのか。肩に手を伸ばした西条何某は、パシンと手を払われた。
「……え、何。君と大分反応違くない?下郎て」
「……いや、俺もそんな反応するとはおもわなんだ」
こしょこしょと肩を寄せ合い、思わず話始める俺ら。先程まで、俺と話していた時のような雪解けのオーラは消え去ってしまい、全方位話しかけんなオーラが漂っていた。
「……まぁいいか。別にオンナノコと仲良くするためにここに来たわけじゃないし。よろしく」
「御神楽各務。よろしくな直樹」
「え、いきなり名前呼び?距離感詰めるのえぐ……」
あ、すまん。クセになってんだ。名前で呼ぶの。
でもさ、お前も初対面で肩組んでくるのは中々距離感詰めるのエグイとは思うぞ。異世界でもこんな絡みは中々ないからな。
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