第32話 まさかの時の友こそ真の友

「a friend in need is a friend indeed」という英語の格言がありますが、一般的な日本語訳は「まさかの時の友こそ真の友」でしょうか。「困った時に助けてくれる友が本当の友達だ」という意味で使われていると思います。


 大学時代、あるお友達が、この格言の少し違う解釈を教えてくれました。彼の解釈では「『助けて』と頼ってきてくれる人が本当の友達」だそうな。


 二十年近く前の会話なんですが、腑に落ちるものがあり、ずっと覚えています。


 助けを求める際の人選って、かなり大事ですよね。その人のスキルやロジスティック的なこと(子どものクラスが同じとか、近所に住んでるとか)も大事ですが、性格も重要だと思います。


 子どもの送り迎えだとか、比較的簡単なお願い事は、まずはスキルとロジスティックの観点から、一番負担にならなさそうな人を選びますが、その中でも「信頼できて、かつ気持ちよく引き受けてくれそうな性格の人」に頼みます。


 そういう、日々の細々したことではなく、本当にピンチの時はどうでしょうか。精神的にものすごく落ちているとか、明日食べるお金がないとか。


 そういうガチのピンチの時、私の場合は夫や家族に相談すると思いますが、理由があって家族に頼れないとしたら。


 そういう時に相談する友達の人選は、「自分の醜態をさらしても引かない人」っていうのが重要なポイントになりますね。正直に心を開いて話せる人。それから「この人だったら力になってくれる」と信じられる人。


 私はたまーに想像するんですよ。夫に「離婚してくれ」なんて言われたら、誰に相談するのかなーとか。夫が凶暴化して(しませんけど)子どもを連れて逃げるとしたら、誰のとこに行けるかなーとか。


 意外な人が脳裏にパッと浮かんだりして、「最近会ってないけど、あの人って本当に性格が良くて頼りになるな。久しぶりに会おうかな」なんて思い出すこともあります。


 誰かが自分に助けを求めてくれるということは、その人は自分のことを「信頼に足る人間」と認定してくれているわけですよね。そういう人こそ真の友だ、というのは、すごくいい考え方だなと思ったのでした。


 さて、最近ママ友の一人(仮にケリーさんとします)が私が所属する合唱団に入ったんですよ。シングルマザーのケリーさん、毎週の練習時に娘さんの面倒をみてくれる人を探すのも大変です。


「どうしよっかなぁ」と独り言の延長のような感じで、カジュアルに相談されたので、「ウチに置いてけばいいよ。練習場からすぐ近くだし(徒歩3分の距離)、長女が喜んでベビーシッターやるよ」とこちらも気安く答えたら、びっくりするほど喜んでくれました。


 ちなみに、私の合唱の練習時に、夫が出かけることもあるので、ときどき長女に長男とお留守番をしてもらっていたんです。妹のような存在がかわいくてたまらない長女の方が、夫よりもベビーシッターに適役でした。


「◯◯(←娘の名前)がベビーシッターやってくれるんだったら、お金払うよ。ちゃんとしたお仕事として扱おう」とケリーさん。


 ケリーさんは、若い頃はアルバイトでベビーシッターをやっていたのですが、初仕事をゲットしたのが、ちょうど娘と同じ年齢の頃。


「初仕事をまかせてもらった時の誇らしい気持ちは、今でも覚えてるよ」とのこと。


 そのほうが、ケリーさんも頼みやすいかもと思い、一回約2時間につき10ドル(約千円)娘に払ってもらうことにしました。オーストラリアの最低賃金が約二千四百円なので、ちゃんとした大人のシッターさんを雇うよりもずっと安いですが、娘にとったら大金です。


 娘は「えー! そんなにもらっていいの?」と大感激でした。


 親ケリーさんの娘さんが、ほんっとに素直でいい子な上に、短時間なので仕事内容は楽勝です。


 そんな大事な仕事を任せてもらえて、ちゃんと報酬がもらえるということが、娘にはすごく嬉しく誇らしいようです。親の私としても、娘にそんな経験をさせてくれたケリーさんに、むしろこちらがありがたいです。


 さらには、ケリーさんの娘ちゃんも年の離れたお姉さんのお友達ができてうれしかったそうな。四方向にウィンウィンの結果になりました。


 ケリーさんが、大事な娘さんをウチの娘に任せてくれたことが、「信用してくれてるんだ〜」って感じがして、感無量でした。こういう人が、いわゆる『真の友』なんじゃないかとしみじみ思います。


 いざという時に、「あの人に頼んでみよう」と思ってもらえるような関係を築いていきたいものだなと思いますし、自分が困った時も、ちゃんと人に助けを求められる人でいたいなと思います。


 なんか、今回真面目になっちゃったな。

 

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