第15話 お金持ちの憂鬱

 夫がオギャーと生まれた時からお付き合いのある、血はつながってないけどほぼ親戚みたいな双子の女性がいます。


 そのうち一人はヒッピーっぽくて、前にエッセイで書いたことがあります。もう一人のほうは、ヒッピーなお姉さんよりもずっと資本主義よりで、贅沢嗜好なきらいがあります。


 先日、その妹さん(仮にサラさんとします)の家にお招きいただきました。南半球では冬至だったのですが、オーストラリアでは、冬至にみんなで集まって焚き火をしたりします。サラさん家でも焚き火パーティーをするということで、私たち一家も招待されました。


 メルボルン市内から一時間くらいの田舎にある新居は、ものすごーく広くて、私の一軒家の敷地の五倍は軽くあったと思います。裏庭で野球とサッカーと鬼ごっこが同時にできそうな広さでした。


 そんな広い庭で焚き火をするんですが、焚き火の燃料になるのは、庭を剪定したときに出る枝や枯れ葉など。モリモリと木が生えている敷地で、集まった枝や枯れ葉の量がこれまたすごい。大きな木三本分くらいあったんじゃないでしょうか。


 参加した大人たちで、じゃんじゃん燃やしつつ、みんなで持ち寄った料理を食べて、お酒を飲みました。どの料理も感動的においしくて、空には満月が美しく輝いていて、特別な時間を過ごせました。


 さて、新居にお邪魔したのは始めてだったので、家の中を案内してもらったんですが、セレブか! と突っ込みたくなる豪華さでした。


 二階建てで、ベットルームが六つ、トイレとバスルームが三つ。十歳の息子さんの個室はオンスイートのバスルーム付き。サラさん夫婦が眠るマスターベッドルームも、もちろんオンスイートのバスルームが付いていて、そのバスルームだけで、私が大学生の時に借りてたアパートくらいの広さ。


 ウォークインクローゼットがあり、こちらもベッドルームとして申し分ないくらい広々としてました。


 家全体に床暖房が付いていて、寒い夜だったのですが、足元からポカポカ。大きな窓からは、美しい丘や山から遠くにある街の光まで一望できます。


 もちろん、キッチンも最新式で大きなオーブンやらインダクションのコンロやら何でもそろっていて(サラさんはとても料理上手です)、全体的にテレビでしか見たことのないようなゴージャスさでございました。


 サラさんに私が出会ったのは、サラさんがまだ二十代の頃。1DLKの小さなアパートメントで、その頃のパートナーさんと男の子の赤ちゃん(今は成人しています)と一緒に住んでいました。


 あの頃のサラさんも、キラキラして幸せそうでしたけどね。あのあと、そのパートナーさんとお別れした時は、揉めに揉めて地獄を見たそうですが。


 あれから二十年、サラさんは事業で成功し、新しい男性と二人目の男の子をもうけ、今では推定三億円の豪邸に住んでいます。とは言っても、二十代の頃と変わらず、気さくでおもしろい女性です。


 サラさんって、びっくりするくらいオープンな性格なんですよ。


「最近どう?」と聞いたら、いきなり「二百五十万ドル(約二億五千円)の住宅ローン、月々の支払いがきつくて。お金のストレスがすごい」と。うへえ。


「贅沢な悩みだとはわかってるんだけどね……。毎日あくせく働いてすごく疲れるのよ。本当は週四くらいで働きたいんだけど、ニック(今のパートナーさんの仮名)がリストラに合っちゃったから、がんばらないと」


 三億円の豪邸に住むようなお金持ちが、お金のことで悩んでいるなんて! とびっくりして相槌を打っていると、ニックさんは他に三つも家を持っていることが判明。


「その一つでも、売ったらいいんじゃないの?」と言ってみたら、「そうなんだけどね〜。ニックはなかなか手放したくないみたいで」と。


 お金の悩みってのは、お金があれば解決するってわけでもないんだなぁと驚いた瞬間でした。


 事業のほうは、すこぶる快調らしいんですけどね。二億五千万円のローンの月々の支払いを、彼女一人の収入で払っているのだから(ニックさんの家賃収入とかもあるのかもしれないけど)、相当うまくいっているんだろうとは思います。


 一回贅沢を知ってしまうと、基準を下げることは難しいんでしょうねぇ。私だったら、そんなにお金の心配をするくらいなら、もっと安い家に住んで楽して暮らすけどなぁ。


 でも、これだからお金持ちになるような人は、お金持ちなのかもしれません。

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