第6話 侯爵令息と伯爵令嬢にお義兄様がざまあしてくれました

「だ、誰だ! 今、俺に文句を言った奴は?」

係員に食って掛かっていたロベールが後ろを振り返って叫んだ。


平民の行く店にロベールは貴族の礼服で来ているんだけど、馬鹿なの? 隣のアナベルも貴族のドレスを着ているし本当にTPOが出来ていない。平民の店に行くときは平民の格好をしていくのが基本なのに! こいつらそんな事も知らないのか、と私は思わず叫びそうになった。


それに、ロベール・ブラスク侯爵令息は、アンドレの側近であることを鼻にかけていて、

「何故、この国の第一王子のアンドレの婚約者が身分の低い子爵家の令嬢なんだ?」

と会う度にいつも嫌味を言ってくるのだ。

でも、それは元々私が言いたい事だった。そんな子爵家の私の所に婚約者になってくれと強引に持ちかけてきたのはそちらの王家じゃないかと私は余程言いたかった。


でも、今はそれどころではない。なんとか誤魔化さねばと思ったんだけど、無視すればよいのに、お義兄様がはっきりと手を上げてくれたのだ。


それでなくてもお義兄様は見目麗しいのだ。更に身長は180はあるし、体を鍛えているから体幹ががっしりしていてとても目立つのに!


「貴様、平民の身で貴族に逆らうのか!」

「列を並ぶのに貴族も平民もあるまい」

ロベールの言葉にお義兄様は平然と反論したのだ。


「そうだ」

「そうだ」

勇気のある平民たちも尻馬に乗って言うんだけど……


「な、何だと!」

「ちょっと、ロベール様」

流石にアナベルが周りの視線を感じて止めようとしたのだ。

しかし、頭に血が上ったロベールはこちらに向かって歩いてきたのだ。


ロベールは怒ってお義兄様の前に来たけれど、完全にお義兄様の方が背が高いし、強そうに見える。それに現実的に軍に身を置いて戦場に出ているお義兄様の方が圧倒的に強いのだ。それに身分も遥かに上だ。


粋がってこちらに来たロベールだが、お義兄様に見下されて、息を飲んで止まってしまった。


「やるのか」

お義兄様が腕まくりしてくれるんだけど、止めて! 下手したら国際問題になるから!


私は慌ててお義兄様を止めようとしたんだけど、お義兄様を見てビビったのかロベールが下がってくれた。


そのまま引き下がって欲しいと私は思ったのだが、慌てて今度は侯爵家の護衛と思しき男たちが出てきたのだ。


「お前、平民のくせにロベール様に手を上げるのか」

侯爵家の騎士が言ってくれるんだけど、お義兄様になんて口きくの!


「止めなさい!」

私は騎士の命を守るために騎士と御義兄様との間に入った。


「あなた達。国際問題になりたいの!」

私が騎士に言い放ったのだ。


「えっ?」

騎士たちが流石に止まった。


そうそう、止まってくれたら良いのよ。私がホッとした時だ。


「お前は、エリーゼ。何故、こいつと一緒にいる」

やばい! ロベールに見つかってしまった。と言うか、出た瞬間バレるのは当然だった。


「おい、そこのお前。俺の妹を呼び捨てで呼ぶな!」

そこに地の果てから聞こえたかと思えた冷えた声がしたんだけど。


慌てて、御兄様に目をやると、なんと剣に手をかけているんだけど……

私はぎょっとした。


「何を言う、俺は侯爵家で、こいつは子爵家令嬢だろうが」

腰が引けた状態でロベールが言い訳した。


「何を言っているんだ! エリは子爵家の令嬢ではない」

お義兄様が言ってくれたのだ。


えっ、今度は何を言い出すの!

私はギョッとなったのだ。


「エリはアルマン子爵本人だ」

お義兄様の言葉を聞いて私はホッとした。それは事実で先ほどもシャロット等に言ってくれたからバラしても良い。


「エリーゼが子爵本人だって、そんな事は」

「信じられなければ、王子殿下に聞くんだな」

驚くロベールにお義兄様が言ってくれた。


「何を言っているの! エリーゼさんが子爵本人でも、ロベール様は侯爵家の令息で」

「それがどうした? 親が単に侯爵なだけだろうが。本人は無位無官だろう」

横から出てきたアナベルにお義兄様が言い切ったのだ。

「でも……考えたら、そう言うあなたはアルナス子爵家の係累で無位無官じゃない。ロベール様は侯爵家の御子息であなたは子爵家の子息で身分は違うわ」

アナベルが思いついたように勝ち誇ったように言うんだけど……


「何を言っている。本当にサンタルの貴族の奴らは無知だな」

お義兄様は馬鹿にしたようにアナベルを見下した。


「な、なんですって!」

怒ったアナベルが更に言葉を続けようとした時にお義兄様が言い放ったのだ。

「俺は帝国のテルナン伯爵本人だ。親が伯爵ではないからな」


「そ、そんな」

お義兄様の言葉にロベールとアナベルは固まってしまったのだ。


「判ったな。帝国の伯爵だぞ」

お兄様は幼子に言い聞かせるように二度言い直したのだ。


サンタル国だったら伯爵は領地も小さいが、帝国は国土自体が広くて、伯爵位でも、下手したらこの王国以上の領地を持つ者も多くいるのだ。お義兄様のテルナン伯爵領って聞いたことはないが、何処にあるんだろう? 東方にテルナンていう、この国の倍くらいの大きさの国があったからその近くなんだろうか? 私には良く判らなかったが、おそらくそんなに小さな領地ではないのだろう。


「それとはっきりと教えておいてやる」

お義兄様が二人に向き直って言い出した。なんだろう? お義兄様の笑った目が絶対にまた碌でもないことを言うに違いない。私は聞きたくなかった。


「このエリは少なくとも帝国では家族以外は皆、様付けで呼んでいる。帝国の侯爵本人も伯爵本人もだ。それをサンタル国の侯爵の息子風情が呼び捨てるな!」

お義兄様は余計なことを言ってくれた……それは確かにそうなんだけど、うちの義父もお祖父様も私には過保護だから、帝国でも指折りの将軍達の機嫌を損ねてまでして私を呼び捨てにする命知らずがいなかっただけなのに!


「な……」

御兄様の怒り前にいつもは威張りまくっているロベールは開いた口が塞がらないんだけど……


「ロベール様。ここは」

後ろからアナベルが声をかけて、

「ああそうだな」

慌てて二人は尻尾を巻いて逃げ出したんだけど……


逃げる間際に二人は凄まじい怒りの視線を私にむけて来たんだけど、後で相手する私の身にもなって欲しい。


私はムッとしてお義兄様を見たんだけど、お義兄様はどこ吹く風だった。

まあ、いつものことだ。

でも、お義兄様に振り回された私はムカムカしていたので、思いっきりお義兄様の足を踏んでやったのだ。

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ここまで読んで頂いて有難うございました。

第一回目のざまーいかがだったでしょうか!

これからもまだまだ続きます。

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