第3話 お義兄様に助けてもらいました

私は構えていたけれど、いつまで経ってもゲンコツは落ちてこなかった。


「貴様、何をしている!」

そして、氷のような冷たい声が響いたのだ。


そこには背の高い金髪碧眼の精悍な顔立ちで帝国の軍服を着た貴公子が、男の手を押さえてくれていた。

私はその貴公子を見た瞬間固まってしまった。


「邪魔をするな! 俺は帝国の貴族だぞ」

男が後ろを振り向いて叫んだ。


「それがどうした?」

貴公子は冷たい声で言い放っていた。


「あなた、この方の制服は帝国の士官の制服よ」

連れの女が慌てて言った。

「何だと」

男は慌てて制服の貴公子を見た。


「これ以上事を荒立てると憲兵に突き出すが」

貴公子は冷たく男に言い放ったのだ。


「くそっ、覚えておけよ」

男は私に言い放つと慌てて出て行ったのだ。女が慌てて後からついて行く。


「憲兵に突き出した方が良かったか」

貴公子は男の後ろ姿を見ながら呟いていた。


「皆さん。帝国の人間がお騒がせした。お詫びとして今日の料理代金は全て私が持つ。好きなだけ飲み食いしてくれ」

貴公子が男前な発言してくれた。


「えっ!」

「本当に?」

「兄ちゃん、太っ腹!」

貴公子の言葉に歓声がわく。


「大丈夫か…………お前、エリじゃないか!」

貴公子は私を見て固まっていた。


「お義兄様!」

そう、彼は一番上の義兄だったのだ。

な、何で義兄のレオがここに!


私は後ろで唖然とこちらを見ていたアリスとセドリックに白い目を向けると、二人共必死に首を振っていた。彼らが呼んだのではないらしい。


「ちょっと来い」

私は強引に義兄にレストランの柱の陰に連れて行かれたんだけど……


義兄にはいろいろと黙っていたのに……

手紙では何もかもが順調にいっている風に誤魔化していたのだ。


仕方がないから私は開いている個室にレオを案内したのだ。


「で、どういう事だ、エリ!」

なんかレオ義兄様は怒っていた。これはとてもやばいやつだ。

私はニコリと笑ったのだ。こういう時は笑って誤魔化すしかない。


「笑ってごまかせるとでも」

兄が更に氷のような冷たい声で言ってくれるんだけど……

私、命なくすかも……


でも、ここは笑顔で誤魔化すのだ!


「嫌だわ。お義兄様。これも社会勉強のうちなんです」

私は精一杯笑顔で答えていた。


「何が社会勉強だ! どういう事だ、エリ! 子爵家のタウンハウスにお前を訪ねたら、いきなりいないと言うではないか。その使用人がこのレストランならいるかも知れないと言うから来てみたらお前が給仕なんてしているし、どういう事なんだ、アリス!」

私が答えないからか、今度は矛先を私の侍女に変えてきたんだけど。


「申し訳ありません。レオンハルト様。私がついていながらこのようなことになってしまって」

「アリスは関係ないわ。私が無理やり頼み込んだのよ」

仕方無しに私はアリスを庇った。


「どういう事なんだ。エリ。頼み込んだというのは」

お義兄様は今度は私の方を向いた。


「いえね、私って、実のお父さまが爵位も持たずに戦死してしまったから基本は平民じゃない」

「えっ、何を言っている? お前は今は子爵ではないか」

私の言葉に義兄は言うんだけど、

「でも、それは無理やりこの国の子爵だった伯父様から爵位を取り上げたんでしょう」

「そんな話は聞いていない。お前の祖母が祖父がなくなったから、お前に子爵家を継がせて第一王子に嫁がせると聞いただけだぞ。それにお前が嫁げばその叔父とやらが爵位を継げばいいだけではないか」

義兄はそう言ってくれるけれど、まあ、そのとおりなんだけど、今のままでは私がアンドレ第一王子と結婚して王妃になるのは中々難しいと言わざるを得ないのだ。お義兄様への手紙ではそんな事はお首にも書いていないけれど。


「まあ、そうならない可能性もあって、将来的に平民になるかもしれないでしょう。その時に手に職をつけておけば良いかなって」

私は真面目に答えたのだ。


「アリス、セドリック、何かエリは勘違いしているようだが貴様らがそう思い込ませたのか?」

義兄は二人を氷のように冷たい声で責めだしたんだけど。

「いやいや、滅相もございません。エリーゼ様には何回もお諌めしたのですが、聞いて頂けず」

「元々こうと決められたらそれに向けて突っ走られる性格ですから」

ちょっと待った。なんか二人にめちゃくちゃ言われていない?


その言葉に義兄は頷いているんだけど、ちょっと頷かないでよ、お義兄様!



「それで給仕をしているのか?」

頭を抱えたまま義兄が言ってくれるんだけど、


「全て社会勉強なのです。面倒くさい礼儀作法マナーとか貴族のたしなみよりは余程実践的かなと」

私が言うと兄は更に頭を抱えてくれたんだけど、後ろでアリスとセドリックも同じ様に頭を抱えているのは何故?


「いや、たとえ、お前がこの国のクソ王子と婚姻しなくても平民落ちすることはないぞ。父が伯爵位くらいならいつでも準備すると言っているし、お前の祖父も公爵家に戻って来いと言っている」

「そのようなお気遣いはとても嬉しいのですが、これまでもお義父様やお祖父様にはとても良くしていただいています」

「いや、しかし、エリも父や俺達にとても良くしてくれたではないか。これはお前への当然の褒美だと思うぞ」

「いえ、お義兄様。もう私は十分に頂いております。これ以上の事をして頂くのは心苦しくて」

「ふんっ、相も変わらずエリは頑固だな」

「お義兄様こそ」

私達は目を合わして睨みあったのだ。


そして、どちらともなく吹き出していた。


私の後ろではアリスとセドリックが、ホットしていた。

「アリス、セドリック、何を安心しているのだ。貴様らには後でゆっくり、何故こうなったのか聞かせてもらうからな」

「お義兄様! 二人への命令権はお義兄様にはないはずよ」

私が義兄にムッとして言う。


「いや、エリ、俺は兄としてだなお前の事が心配で」

「だめです。私のいないところで二人に話しかけるのは禁止です。もし破ったら絶交ですからね」

「いや、そんな」

義兄は私の言葉に絶句していたが、私も譲れないところもある。お義兄様にはこれくらい脅しておかないと本当に言うことを聞いてくれないのだ。


「良いわね、二人とも!」

「いえ、しかし」

「セドリック!」

「はい、判りました」

何か言いたそうな二人にも私は釘を刺したのだった。


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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

これから卒業パーティーに向かって話はどんどん進んでいきます。

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