第4話 UーREI

川上洋子はひとり、夕方の橋の欄干に佇んでいた。

周囲から彼女の姿は見えていない。

洋子は、0.5mmほど現実から離れた世界に存在するだけだ。

だが、その「僅かな距離」ゆえに、「現実世界」の人間からは見えない。

不可視の洋子は、‘‘たばこをふかす‘‘。

もうすぐ夜になる。「幽霊」の本領発揮の時間だ。

「今日はだーれに会おうかなぁ~?」

洋子は、確かに死んだ。

「いじめ」によって追い詰められ、居場所をなくし、逃げ場をなくし、

中学校の屋上から飛び降りた。そして死んだ。

死んでいった。だが、まさか「幽霊」なんてものが本当に存在するとは。

子供の頃怖がっていた「それ」に自分がなるとは。

だから、怖がらせようと思った。

これはささやかな復讐かもしれない。

自分を死に追いやったやつらへの、復讐。

だけれど、本当はただの暇つぶしなのかもしれない。

理由はどちらでもいい。「幽霊稼業」は、とても退屈だ。

というわけで、今夜もかつての「同級生」に会おうと思っている。

今日の相手は、「春田 杏子(きょうこ)」。

「さて、行きますか。」

洋子は欄干からひょい、と立ち上がった。

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