第3話 GHOST IN THE SHELL

川上洋子。如月中学二年で学校の屋上から飛び降りて自殺した元同級生。

その名がなぜ立華の口から、‘‘いま‘‘出てくる…?

「俺、逃げてる途中で裏路地のビルのとこに入ったみたいでさ。

そこで、風体とかは全然違うんだけど…明らかにあの顔は、あの声は、

川上だった…」

「か、その川上らしき女は、お前になんか言ったのか?」

「確かに言われた…けど、よく思い出せねぇ。いやでも、あれは確かに…」

なんてことだ。

「お、俺さ…」

「どうした、山田?」

「こないだ、真夜中に喉乾いたから、散歩がてら、遠くの自販機まで

歩いてったんだ。」

「ほう。」

「したらさ、向こうから。」

────それは、7月15日の夜だった。深き夜であった。

「いけね、小銭落とした。」

俺は腰をかがめて、落とした小銭を探していた。

「ふっ、いいものサーチってか。」

一人で笑う。その時。

「こんばんわー。」

「⁉」

誰もいないと思っていた所に、声。俺は危うく失禁しかけた。汚いな。

「うわわわ、だ、誰⁉どなた?」

「あたしだよ。」

「わッ、わかんねぇよぉお‼来んなって!」

「久しぶりに会ったのに。ひどいなァ。」

街灯に照らされて、女の顔が浮かび上がる。

「…は?」

その顔は、ここに、いや、もうこの世にないはずの川上の顔であった。

「な、なんで?」

恐怖と震えで動けない俺に、徐々に歩み寄ってくる川上。

「や、やめてくれ…‼」

俺の至近距離まで近づいたとき…

「?」

────「そうだ、抱き締められたんだ‼」

立華が叫ぶ。え、お前もか?

「でも、抱き締められたと思ったらすぐに消えたんだよ。感触が。」

「俺もだ。けど、前を見たらもう誰もいなかった。幻覚だと思ったが。」

「マジかよ…」

まさかと思うが…俺はある疑念を口にする。

「世迷言かもしれんが…俺とお前が見たのは、川上の幽霊じゃねぇか?」

ゴクリ…立華の唾をのむ音が聞こえる。

「幻覚だ、幽霊だ、とひどい言われようだが…いや、これはただの偶然か…?

もしかしたら、川上は生きているんじゃ…」

沈黙。少し間が開いた後。

「は、ははは!んなわけねぇって!」

立華が笑い出した。

「流石に言いすぎだよ。それは。」

「だよな。俺もちょっと馬鹿だった。」

まさか、そんな訳が、あるはずはないもんな。ふざけた妄想はよそう。

川上に失礼だ。

「あ…そうだ、もう一時間は経つな。

あんまいるとお前に迷惑かかるかもしんねぇ。俺は出てくよ。」

「ま、まぁな。そうしてもらうと助かる。」

「じゃあな。マジで一生の恩だ。必ず返す。」

「おい、立華、お前これからどうするつもりだ?」

「俺はとりあえず、バス乗って、そっから電車乗り継いで、

田舎の親戚を頼ってみるわ。」

「そうか。おい、死ぬなよ。」

「あたぼうよ。」

立華は玄関を開けた。朝の光が差し込む。

そして、小走りの足音と共に去っていった。

「───あっという間の出来事だったな。」

ひとり俺は、玄関で風を浴びた。

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