少女戦士ダイヤモンドの怠惰

市野花音

第1話

 ダイヤモンドは天に造られた神に使える天使であり、美少女である。

 癖のない滑らかな白い髪、まさにダイヤモンドの様な白い瞳、陶器のようにシミひとつない白い肌、おまけに背中から生えた純白の翼。まごう事なき白雪の天使。

 完璧なまでに冷たく美しい容姿を持つ天使は、今。

 ソファの上で溶けていた。

 「うわ、だらしない」

 思わずと言った感じに漏らされた声に、ダイヤモンドは目を開けた。

 「何ですか朱音さん、別に邪魔ではないでしょう」

 「うん、まあ、そうなんだけど」

 顔を顰める同居人、黒崎朱音の手には掃除機がある。黒い髪に黒い瞳を持ったこの少女は、綺麗好きの掃除型人間であり、中学校が休みの日には月に一度掃除をしている。

 「あたしたち、一応救世主の乙女で、少女戦士だよね?」

 そう、黒崎朱音とダイヤモンドは世界を救うべく神から変身能力を授かった少女戦士であるのだ。因みにダイヤモンドは戦士名であり、本名は天野恵という。いや、天使っぽくないから本名ではないかもしれない、と朱音は思う。

 「敵は現れていないのですから、私達はただのだらける少女でいていいと思うのですが」

 「だらけてる自覚はあったのね」

 天使であるダイヤモンドもしくは恵は神からの伝達により地球を侵略しようとする敵が現れたらすぐに分かるのだ。

 朱音は変身前は少々出生が特殊なだけのただの人間であるので、そのような能力はない。

 「朱音さんは気を張りすぎなんですよ」

 「恵の気が抜けすぎなんじゃないの?」

 「違いますよ。とりあえず、そこのソファに転がってみてくださいよ。至福ですよ」

 「掃除中だから駄目よ」

 「休息は必要ですよ」

 恵との押し合いに諦めたのか、元々休みたかったのか。真偽の程は不明だが、朱音は掃除機を片付けるとソファに転がり、目を閉じた。

         *

 「……ん、寝てますね」

 暫くして。

 起き上がった恵は、テーブルを挟んだ向こう岸のソファで朱音が寝ていることに気がついた。

 その顔は安らかで、恵は少し安心した。

 敵と戦い続ける重荷を、朱音が少し下ろしてくれた気がして。

 「おやすみなさい」

 恵はとってきたブランケットを朱音にそっとかけた。

 なお、この後起きたら夕方だった朱音が青ざめたのは言うまでもない。

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少女戦士ダイヤモンドの怠惰 市野花音 @yuuzirou

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