第31話 元がゲームの世界だとしても、運命は変えられる!
なぜ、そのような視線を向けるのだろうか?
単なる花の被害妄想の可能性もあるが……。
「言っておきたいことって、なんだ?」
花がそう言うと、メグは視線を3秒程上に向け、再び視線を花に戻す。
「一言じゃ無理かな。まずはこれを見て欲しいんだ」
メグは呟くように言葉を発する。
「スキル発動【
「スキル!?」
驚きだ。
原作でのメグは、ミストへの恋心を自覚することで、スキルを取得した。しかし、この世界のメグは、あまりにもそれが早過ぎる。それ程に、この世界のミストがドストライクであったということなのだろうか?
(赤い……)
メグの瞳は赤く輝いている。本来解析スキルを使った際のメグは、瞳が黄色く光るのだが、色がまるで違う。見間違えというのはあり得ない程に赤く光っている。
違うスキルの可能性もあったが、先程メグが自身で解析と言っていた。彼女が嘘をついていないのであれば、このスキルは解析なのだろう。
メグは数秒スキルを花に見せると、すぐにスキルの使用を止めた。
便利なスキルではあるが、どの道長くは発動できない設定のスキルだ。
「凄いな!」
「凄いでしょ」
もしかしてそれを見せる為に、花を呼んだのだろうか?
「このスキルって本当に凄いんだよ。スキルやアーツについて分かっちゃったりとかさ」
【解析】の効果は、スキルやアーツの効果を文字通り解析するスキルだ。
メグの言っていることは正しい。
先効果については、驚くべき点はない。
この段階までは。
「後はね。人の記憶も読み取れちゃうんだ」
「え?」
思わず硬直してしまう。
原作SHFにおいて、メグが使用する解析にそのような能力は
「スキルを取得したのは2日前。それで昨日花さんの記憶もこっそり見せて貰ったんだ。それを踏まえて、これから私の言うことをよく聞いてね」
恋愛相談であればどれ程良かったことだろうかと、今になって思う。
(メグが僕に嫌悪感を持つのは当然だ)
記憶を読み取る。つまりはこの世界がSHFの世界だということが、バレているということだ。
ゲイルの場合はそれを聞いても、良い意味でも悪い意味でもブレなかった。ゲイルの精神が強すぎたのだ。メグの反応の方が一般的なものだろう。
「私さ、人生っていうのは全部自分で決められるものだと思っていた。だから毎日が楽しかった。けどそうじゃなかった。全部決められていた。
人生幸せなことだけじゃない。酷い目にあったり、悲しい目にあったりもする。それは仕方ないことだって、私も思ってる。でもさ、それが意図的に起こされていたとしたら、どうかな?」
メグは一呼吸おいて、言う。
「ねぇ……どうして私をこの世界に生んだの?」
メグを産んだのは、彼女の母親だろう。
しかし、今メグが言っていることはおそらく別な意味だ。
花はすぐに答えられずにいた。
そんな花を見て、メグが口を開く。
「スキル・ハーツ・ファンタジア」
彼女はこの世界には存在しない物の名を口にした。
「これで信じて貰えたかな?」
「いや、別に元から信じてない訳じゃないよ……全部知ってるんだよね?」
「全部じゃないよ?」
「え?」
先程の様子から、全て解析されていると考えていたのだが、違うというのだろうか?
「理由は分からないけど、SHFの内容については、ほとんど覚えてられないんだよね」
ゲイルがアミルを助ける時、彼は動けなくなった。
おそらくそれと同じだ。元のストーリーから外れないように、なんらかの力が作用している可能性が高い。
「それでも、絶対に忘れないことはあったんだよね。この世界がゲームっていう、創作物の存在ってことはしっかりと覚えてるんだ。忘れないように頑張ったんだよ?」
SHFそのものの世界か、それが元となった世界かは分からない。
ただ、メグの認識に大きな誤りはないだろう。
「改めて
ゲイルはSHFの製作者ではないが、製作者の気持ちになれば簡単だ。
勿論個人によって理由は分かれるだろうが、多くの製作者はこう考えているだろう。
【金銭を得る為。そして、プレイヤーに楽しんで貰う為】
全く問題のない健全な理由だ。
問題はない。だが、それを目の前にいる彼女に向かって言う勇気はなかった。
もしもだ。もしも仮に花が人間時代過ごしていた際に起きた辛い出来事や苦しい出来事が、神様の楽しみの為にあらかじめ決められていたことだとしたら、良い気持ちはしない。
「お金と楽しみの為でしょ?」
迷っていると、メグが考えを読んだかのように言った。
「そんなに気にしなくていいよ! だって、仕方ないことだよね! 私だって本読んでて楽しいって思うことあるし!」
天真爛漫ないつものメグに戻ってそう言うと、その後にまた神妙な表情になる。
「それは分かってるんだけどね。正しいことなんだけどね……でも、実際にその立場になると単純に頭に来るよね。
誰かの勝手で生み出されて、誰かの勝手で不幸な目に合わされて、誰かの勝手で幸せになって。
生んでほしくなかったよ。どうして、私達が辛い目に合わなくちゃいけないの?」
質問に答えることができないと感じた花は、ゲイルのことを話す。確かにSHFの世界ではあるが、全てが決められているという訳ではないことを伝える為だ。
花はゲイルが本来であれば死亡する運命にあること。それに対して、今必死で
(よし! 言おう!)
伝えた後、「だから! 元がゲームの世界だとしても、運命は変えられる!」と、そう言おうと考えていたが、その前に彼女は割り込むように言う。
「ゲイル君死んじゃうんだよね? 君はそのことばかり考えてるから、それくらい覚えちゃうよ」
花はゲイルを死なせない為に頑張っている。
それもあり、本編のゲイルをよく思い出している。メグはそれを解析したのだろう。
「ゲイル君がワガママし過ぎて死んじゃうのも、失礼だけどそのゲイル君が周りと比べてあんまり才能がないのも、皆を楽しませる為?」
「ごめん……皆そういうのを求めてるんだ。創作物っていうのは、理想を詰め込むものだから……だから……」
花は特にそういった展開を求めてはいないが、ざまぁは多くの人間に需要がある。
だからこそ、皆が望むそういった要素を入れるのは間違っていない。ゲーム制作はビジネスだ。
だが……この世界の住人にそんな事情は関係ない。メグの怒りも当然だろう。
「でも、それはおかしくない?」
「そうだよな……ゲイルにもメグにも……僕がいた世界の事情は関係ないよな」
「そういう意味じゃなくて、皆がそういうのを求めている、っていうのが私分からないんだ」
違った。飛んできた言葉は疑問であった。
「僕にも分からないよ」
「そうなんだ。てっきり、花さんがいた世界の人達が病んでるからかと思ったよ」
今のメグの方が病んでいると言えるだろう。なんだか、神妙な雰囲気の時のメグは、目のハイライトがない気がする。
もっとも、今ここにいるのはゲームキャラではなく、実態が存在する三次元なメグなので、実際にハイライトは消えているということはない。あくまでも、そう感じるというだけである。
「さてと、暗いのはおしまいだよ!」
いつものメグに戻った。
「じゃじゃーん!」
メグは戦闘用のナイフを取り出して、花に見せつける。
「どう? 私よく覚えてないから確認したいんだけど、私ってSHFでナイフは使ってた!?」
「使ってなかったよ」
「おお! それはそれは! じゃあさ、勝負しない!? 私強いんだよ! 強くなったんだよ!」
とびっきりの曇りのない笑顔を向けてきたメグであったが、どこか恐怖を感じた。
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