第30話 たまたまっす

 花が一撃を食らわせると、ローナは消滅した。

 グロテスクさは無く、まるでゲームのようであった。モンスターが消滅する時と同じ、青白い粒子となり、彼女の体は消滅していった。


 今回の勝負もゲイルの勝利だ。

 水晶型の魔道具であるBDから精神を脱出させると、教室の前でゲイルとローナは向き合う。


「俺の勝ちだな!」


 ゲイルは、勝ち誇った笑みをローナへとぶつける。


「そうね」

「あ? 悔しそうにしねぇのか?」

「ええ。今回は私の負けよ」


 ローナは冷静に負けを受け入れていた。

 もっとも、内心どうかは分からないが、それはあまり関係ない。仮にそうだとしても、表に出さないということが、ただひたすらに大人のように感じた。


「もっと悔しがれよ! 腹立つなぁ!」

「勿論悔しいわ。ただ、現時点では私よりも貴方の方が強かっただけ。それは認めないとね」

「ぐぬぬ……イキりやがって!」


 対するゲイルは、ローナが悔しがらなかったからだろうか。

 勝利をしたというのに、どこか不満足とも言える態度であった。


 勝負の後の握手を済ませると、ゲイルとローナは自分の席へと戻っていった。

 花は召喚石から出されると、ゲイルの足元付近で先生の話を聞く。大体いつもこのような感じで一緒に授業を受けている。


「素晴らしい試合でした! 皆さんもお2人に負けないように、しっかりと頑張ってくださいね!」


『俺褒められたぞ!』

『強かったからね』


 召喚獣の力も召喚主の力だ。召喚獣でトドメをさしたとしても、ゲイルの力と言って良いだろう。


「質問してもよろしいでしょうか?」


 先生がゲイルに対して、疑問を投げかけた。


「あのアーツは、どのようにして生み出したのでしょうか?」

「【アースウォール】の練習中に思いついたんす」

「なるほど! アーツのアレンジですか! 難しいのによく頑張りましたね!」

「たまたまっす」


 ゲイルの場合、アーツの失敗がきっかけとなっているので、“たまたま”というのも全くの誤りではない。

 もっとも、イメージに関してはたまたまではない。花がゲイルに対して銃……正確には拳銃のイメージをしっかりと伝えたからである。


 アーツにはイメージが重要という設定がある。ファンタジーな作品であればさほど珍しい設定ではないだろう。



 昼休み。屋上で昼食をとる。

 本日はパーティーメンバー揃っての昼食である。


 4人が床に座り、会話をしながら各自持ってきた昼食を口に入れる。


「いつも通り美味しいわ」

「ありがとう!」


 どうやらメグはローナに弁当を作ってきたようで、お礼を言っていた。

 この言い方から察するに、おそらく毎日か、それに近い頻度で作ってきているのだろうか。


 確かにメグは優しいが、SHFにおいての彼女は、ここまでローナと仲良くはなかった。

 メグとローナは恋のライバルということもあり、仕方がないのかもしれないが。


「いやぁそれにしても、ゲイルって凄いよな!」

「あたりめーだろ!」


 ゲイルはミストに褒められ、嬉しそうだ。

 褒められると、彼は本当に嬉しそうな顔をする。


 だが、数秒後不機嫌になったようで……


「つーか、お前俺のこと馬鹿にしてんだろ!」

「えっ!? してないけど!」

「だって、お前全属性持ちじゃねぇか! どうせダッサダサの地属性なんて見下してんだろ!」

「いやいや! 確かにボクは珍しいみたいだけど、全然活かしきれてないし、ゲイルの方が強いだろ!」

「くそが!……ま、いずれ俺も全属性を手に入れてみせるぜ!」


 悲しいことに、後天的に別な属性が使えるようになることはない。

 だが今ここでそれを言ってしまえば、おそらくゲイルはキレるだろう。それに、かわいそうだ。


(僕も地属性だし、頑張って一緒に強くなろうな!)


 全属性を得ることはできなくとも、強くなることはできる。

 花は心の中で、ゲイルにエールを送った。



 あれから3日後の放課後。花は川のエリアへと足を運んでいた。

 とある人物から呼び出しをされたのだ。


 1人で来ること。誰にも言わないこと。

 それが条件であった。それだけを見るとかなり怪しいものであったが、花は約束通り1人でそこに向かった。呼び出した相手が、信用できる相手だったからだ。


「恋愛相談とか、そんな感じかな?」


 花を呼び出した人物。それは天真爛漫な少女であり、パーティーメンバーのメグであった。

 原作ではミストに惚れるのだが、この世界のミストは原作の彼とは大きく性格や雰囲気が異なる。このまま惚れないのではと思っていたのだが、その予想は外れたようだ。なぜなら花を呼び出すということはおそらく、そういうことだと思ったからだ。人間には相談しにくいけど、モンスター相手になら相談しやすいとか、そのような感じだろう。


 問題なのは、花が恋愛に関しては無知だという点だ。


「考えたことがないからなぁ……うーん」


 確かに恋愛要素のある作品は様々な媒体で見たことがあるが、人間時代の花はどちらもリアルな恋愛について考えたことがなかった。


「やぁ! 花さん!」


 目的地へと到着すると、メグがいた。

 花は挨拶を返すと、なぜ呼び出したのかを問う。


「どうして僕を呼び出したの?」

「ちょっとね……どうしても言っておきたいことがあったから」


 彼女の表情は神妙なものへと変わった。

 どちらかというと、敵意に近い。正確に言うと、嫌悪感だろうか? そのような感じの視線を感じる。

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