第29話 勝ちたいならそろそろ倒した方がいい!

「ぐあっ!」


 ローナお得意の早撃ちである。

 弓矢がゲイルの手元にヒットし、彼が持っていた剣が空中へと放り出される。


 更に空中の剣に向かって、ローナが弓矢を発射する。電気を纏った矢、【サンダーアロー】だ。

 それに当たった剣は真っ二つに折れ、剣先は地面に突き刺さった。


「これで剣は使えないわよ。さぁ、召喚獣を頭に乗せなさい!」

「ほーう。お前は、俺が剣しか脳が無いと思ってるんだな? 俺にはアーツもある」

「リーフカッターでしょ? 確かにこの前の戦いでは見事だったわ。でもそれは召喚獣を頭に乗せないと使えない。違うかしら?」

「当たってるっちゃ当たってるが、俺が言いてぇのはそういうことじゃねぇ!」


 ゲイルは右手に【アースボール】を生成する。

 魔力でできた土の団子を、ローナに向かって投げる。


 しかし、このアーツには弱点がある。相手に投げなくてはならないのだ。

 ローナはアースボールを余裕で避ける。


「それくらい見切れないとでも?」


 ローナはそう言うが、ゲイルはまだまだ余裕そうな笑みを浮かべている。


「なぁ、銃って知ってるか?」

「じゅう……?」

「知らねぇよなぁ!」


 この世界に銃は存在しない。

 だからと言って、銃が物語終盤まで出てこないかというと、そうではない。


 だが、この時点でこの世界に銃が存在しないということは確かだ。

 ゲイルは右腕を伸ばし、手をL字にする。まるでローナに向けて銃口を向けるように。


「何その構え。ふざけてるの?」

「俺の【アースウォール】を見ろ」

「アースウォールですって?」


 アースウォールとは、岩で壁を作るアーツである。


「防御アーツよね? それも結構難しいアーツよ。貴方に発動できる訳がないわ。そもそも貴方自分を過大評価し過ぎなのよ」

「ヒャハハハ! それはどうかなぁ!」


 ゲイルの右手から、何かが発射された。

 その何かが、物凄い速度で飛んで行き、ローナの右脚に当たる。


「きゃっ!」


 BDを使用しているので、痛みはほぼ0だ。しかし、いきなりのことで驚いたのだろうか。ローナは声をあげた。


「何よこれ!」


 ローナは力を入れにくくなったのか、姿勢を崩した。


「ヒットォ~!!」


 ゲイルは邪悪な笑みを浮かべながら、勝ち誇ったかのような裏声で叫んだ。

 確かにゲイルは防御アーツ、【アースウォール】を完成させることはできなかった。


 本来であれば、地面から勢いよく岩の壁を出現させるハズだが、ゲイルの場合は岩の破片しか出せず、おまけにそのまま上空に凄い勢いで飛んで行ってしまう。

 それを見た花は、攻撃アーツに利用できないかと考え、銃の存在と共にゲイルにそのアイデアを伝えたのだ。


 そう……先程飛んで行ったのは魔力で生成した破片のような大きさの岩。

 岩の弾丸である。


「踊れ踊れぇ!」


 ゲイルは左手も右手と同じようにし、ローナの足元に連続で岩の弾丸を放つ。

 ローナは右脚に力が戻ったのか、必死にそれをかわす。


『ゲイル! 勝ちたいならそろそろ倒した方がいい!』

『何言ってんだ! 俺の勝ち確定なんだからもう少し遊ばせろや!』


 ゲイルはローナを甘く見ている。

 早めにトドメをささないと、攻略されてしまう。


(まぁ、これも勉強かな?)


 負けたとしても死なず、更には成績にも影響しない。

 ここで負けたら負けたで、良い勉強になるだろう。


 だが、花はゲイルの召喚獣だ。

 最後までゲイルをサポートする。


(食らえ! リーフカッター!)


 弱弱しい一枚の葉が花から発射され、ローナに飛んで行くが、彼女はバックステップでかわす。


「逃げられたか! そろそろトドメをさすぜ!」


 とここで、ゲイルは左手を降ろし、右手に力を込める。


「ッシャアアアアアアア!! 食らえええええええええ!!」


 岩の弾丸がローナの顔へ飛んで行く。

 だが……


「何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 ローナはその弾丸を避けた。


「指の位置を見れば、どこに飛んで行くか分かるわよ。前もってかわせれば怖い技じゃないわ」

「そんなのありかよ!?」

「その様子だと、あのポーズを取らないと、さっきの攻撃はできないみたいね」

「ああ! そうだ! わりぃか!」


 なぜか自信満々の表情で答えるゲイル。


「やっぱり貴方馬鹿ね」

「へへっ! どうかな!」


(ゲイル……なぜ余裕そうなんだ? もしかして、僕も知らない奥の手があるというのか!?)


 ゲイルはローナに突っ込んでいく。


「なっ!?」


 予想外の行動にローナは驚くが、すぐにゲイルに狙いを定める。

 流石ローナだ。矢を放つまでの動作に無駄がない。


「気でも狂ったの? 【サンダーアロー】!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ゲイルは両手を地面につかせると四足歩行に切り替え、それを回避した。

 だが、完全に回避した訳ではない。頬をかすめた。おそらく頬が痺れているだろうが、四足歩行ゲイルはそのままローナの背後を取る。立ち上がると自らの両腕を使い、ローナの両腕を押さえつけ拘束した。


「自爆アーツでも使う気!?」

「ちげぇよ! おい! 花! やれぇぇぇ!!」


 なるほど。そういうことか。

 花はゲイルの言った言葉を理解すると、地面に刺さっていた折れた剣の剣先部の方を口にくわえ、走る。


 ザシュッ!


 花は大きくジャンプをすると、口にくわえたそれでローナの首元を深く斬り付けた。


(うぅ……なんだか罪悪感が)


 いくらゲームのような空間で痛みが感じないとはいえ、気持ちの良い行為ではなかった。

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