第28話 どういうこと!? 動きが読まれてる!?

 次の授業が始まると、先生は例の魔道具を別な教室から持って来た。

 教卓くらいの大きさだ。結構な重量がありそうに見えるが、流石は先生といった所だろうか。余裕そうにそれを教室の床に置いた。


「こちらが【ブレインズダイバー】です」


 精神を送り込み、実際の戦闘と同じように戦うことのできる装置。それがブレインズダイバー略してBDだ。

 精神をダイブさせてプレイするVRゲームとよく似ている。


 それの外観は紫色の水晶玉から、4本のゴツイ悪魔のような角が生えているといった感じである。


「では、2人共準備はいいですか?」


「ああ! ぶっ潰す準備はできているっす! それに、俺はこいつを倒したことがあるからなぁ!」

「何言ってるの? この前は安全な武器を使った模擬戦だったでしょ? この前みたいに上手くはいかないわよ」


 今回はあくまで死や痛みを伴わないだけで、実践とほぼ変わらない。

 だから油断していれば、負ける可能性もあるだろう。


 それにローナは負けず嫌いだ。おそらく、この前ゲイルに負けた後も特訓をして、己をさらに強化しているに違いない。


『ゲイル。マズそうだったらいつでも言えよ。僕がなんとかする!』


 【寄生】をすれば、ゲイルの力を引き出し、更には高威力でアーツを放つことができる。


『いや、お前に乗っ取られるのはなんか違う。この前はお前に頼り過ぎていた。これじゃあ、俺は最強にはなれねぇ。召喚獣は召喚獣らしく、戦闘をサポートしてくれや』

『そうか』


 ゲイルは強い。花がゲイルの立場であれば、寄生して貰って無双することを考えていただろう。ゲイルは正直過ぎるのと、口が悪いのと、アピールの激しさで損をしているような気がする。


「では、BDを起動しますね。それと皆さん。魔道具は魔力を消費するので、使用する際は注意が必要ですよ。もっとも、このBDは魔力が既に蓄えられていますからね。ボタンを押すだけで起動します。手で角を握ってボタンを押してください」


 BDの使い方は簡単だ。精神を中に送り込みたい者が角を握り、角の先端に付いているボタンを押すだけだ。

 ゲイルは花を召喚石に収納すると、ボタンを押す。無事に魔道具の中に入ることができた。それを確認すると、ゲイルは花を召喚石から出す。


(何もない草原って感じだな)


 シンプルな戦闘フィールドであった。


「では、試合を始めます。準備が完了したら言ってください」


 空中に半透明なディスプレイが登場すると、そこに先生の顔が映し出された。

 かなりゲームっぽく、本当にここがファンタジー世界なのか疑いたくはなるが、SHFが元となった世界であればなんら不思議ではない。そもそもがゲームの世界なので、突っ込んだら負けである。


「ちなみにここでの様子は教室の皆さんもリアルタイムで見ることができますので、ぜひ見本になるような試合をお願いします」


 ゲイルとローナは準備が完了すると、それを先生に伝える。

 先生がカウントを始める。試合が開始されると空中のディスプレイは邪魔にならないように消えた。


「ヒャハハハ! 食らえ! 英雄斬りぃぃぃ!」


 ゲイルは剣を抜くと、ローナに向かって走り、斬りかかった。


「単調な動きね。そもそも英雄とか、自分で言って馬鹿じゃないの?」


 ローナの手には魔力で生成した黄色い球体があった。バチバチと放電しているかのような音もかすかに聴こえる。ローナはカウンターとして、ゲイルに【サンダーボール】を打ち込もうとしている。


「終わりよ」

「何っ!?」


 ローナはゲイルの攻撃を避け、ゲイルの胸部にサンダーボールを当てようとする。


「なんてなぁ!」


 ゲイルはローナの攻撃をバックステップでかわした。


「どうして!? 確かに隙を突いたハズなのに!」

「バレバレだっつーの!」


 なぜゲイルは回避することができたのか?

 実はローナがサンダーボールを生成したことを、花がゲイルに脳内で伝えたのだ。


 召喚獣である花が後ろから指示を出し、ゲイルが攻撃を回避。

 完璧な作戦であった。


『ゲイル! 右から来る! かわせ!』

『命令すんじゃねぇ!』


 右手にファイアボール、左手にアクアボールを生成したローナはそれをゲイルに向かって投げつけるが、花が後ろから見た動きを伝え、ゲイルはそれをかわしていく。彼はそのまま彼女に接近していく。


「どういうこと!? 動きが読まれてる!?」


 困惑するローナに向けて、ゲイルの剣が再び振り降ろされる。


「っしゃああっ!!」

「くっ!」


 ローナが動きを読んでかわす動作を行った為、深く斬り込むことはできなかったが、ダメージは与えられた。

 ゲイルは大きく後ろに飛び、ローナを睨みつける。


「どうしたぁ!? その程度かぁ!?」

「まさか。確かに貴方の先読み能力は驚いたわ。いえ、先読みというのはハズレかしら?」


 ローナは花をチラリと見る。


(バレたか)


「さて、そろそろ本気を出そうかしら」


 ローナは弓を構える。


「貴方も本気で来なさい」

「あ? 俺はいつでも本気だが?」

「そうかしら? この前召喚獣を頭に乗せた時はもっと強かったハズよ?」

「なるほど、そういうことかよ。あれは駄目だ。少なくとも、今回の戦いじゃ使う予定はねぇ!」

「私相手には本気を出す価値がないとでも?」

「はっ、んなことねぇ! ただ、俺は俺の力でお前を叩き潰したいだけだ!」

「召喚獣の力は召喚主の力じゃないの?」

「確かにそうだが。あの力はちっとばかし違うんでな。とにかく、今回あれは無しだ」


(まぁ、完全なる乗っ取りだからな)


 【寄生】を使うと、寄生された相手はその間意識を失ってしまうのだから、ゲイルにとっては自分が勝ったという気がしないのだろう。もっとも、ローナ目線では舐めプのように感じられるかもしれないが。


「随分と甘く見られたものね!」

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