第27話 お前ら! よく見ておけ! これが俺の才能だ!

 結局、ゲイルはソイルウォールを完成させることはできなかった。

 その日は寮へ帰ると、2人でモンスターの肉を食べ、眠りについた。

 (花の名場合水だけでも生活はできるが、食事も可能)



 月曜日。アーツの授業が始まった。A組の皆が校庭に集合する。

 チャイムが鳴ると、先生が右手で眼鏡をクイッと上げる。


「皆さん。宿題はやって来ましたか?」


 クラスの皆が返事をする。

 簡単なアーツということもあり、全員が無事に取得できたようであった。


「先生! 簡単過ぎですよ! 昼休み5分練習しただけで取得できましたし!」

「そうですよ! 先生! もう少し難しい宿題でも良かったんですよ!」


 生徒の中には、そんなことを言う者もいたくらいだ。


『あいつらぶっ殺してぇ』

『まぁまぁ』


 脳内でゲイルはそう言うが、実際に殺したいという訳ではなく、おそらくそれくらいムカついたということであろう。


「そんなに簡単でしたか? 今の子供達は優秀ですね」


 先生が「ふふっ!」と笑うと、宿題の提出。つまりはアーツを順番に披露することとなった。

 先生が用意した岩盤のマトにアーツを当てる形で、一人ずつ行っていく。


 原作主人公、ミストの場合は……


「いっけええええええええええええええ!!」

「な、なんと! いや、分かってはいましたが、凄いですね!」


 全属性のボールアーツを披露して、頭をかくミスト。

 原作通り、その天才っぷりを発揮した。臆病ではあるが、やはりミストはミストのようだ。


 原作ヒロイン、ローナの場合は……


「【サンダーボール】、【ファイアボール】、【アクアボール】」

「こちらも凄い! 3属性持ちは、100に1人と言われているくらいですからね! そして、才能だけでなくしっかりとそれを活かしているのも素晴らしいですね!」

「ありがとうございます」


 属性は1人1つ持っているパターンが最も多い。

 確かにミストはレアケース過ぎるが、3つの属性を持つローナも十分珍しい存在なのだ。


 原作ヒロイン、メグの場合は……


「【ライトボール】! ていっ!」


 光の球体を的に投げつけるメグ。威力はあまり無いようだが、先生はそのレア属性っぷりに改めて驚いていた。


 ゲイルのパーティーメンバーは無事に先生に認められた。

 次はゲイル本人の番だ。邪悪な笑みを浮かべながら、離れたマトから、向かって正面に立つ。


「お前ら! よく見ておけ! これが俺の才能だ!」


 ゲイルは右手の平に、魔力を集中。土の球体を生成する。修行方法が本来のアースボールと違ったせいなのか、回転がかかっている。そもそもSHFでアースボールの修行描写が無かったので、本来の修行方法は原作プレイ済の花でさえも知らないのだが。


「っらぁ!」


 それをマトに向かって投げると、狙い通りそこにヒットする。

おそらく単純な威力だけでは一番だったのか、当たった個所をそこそこ深くえぐった。


「先生、どうっすか?」

「凄い威力ですね! なるほど、魔力で生成した球に物凄い回転を掛けているのですね」


 先生は先程のゲイルのアースボールを見切っていたらしく、「うんうん」と頷いた。


「俺凄いっすか?」

「はい! 凄いと思います! これからも頑張ってください!」

「うひょー!」


 ゲイルは機嫌良さそうに叫んだ。



 全員が宿題となっていたアーツを披露し終えた。皆合格だ。

 残った時間は、アーツの座学ということで、教室へと場所を移した。


 座学が終了すると、先生が次の授業の予告をする。

 本日は2時限続けて、アーツの授業があるのだ。


「次の時間は、とある魔道具を使っての実践をやっていただきます!」


 とある魔道具というのは、【ブレインズダイバー】というものだ。略してBDとゲームでは表示されていたりもする。ブルーレイディスクではない。

 この魔道具 (要するに魔力を使って動く、ファンタジー世界の便利アイテム) BDは、VRゲームのように精神をダイブさせて、現実世界と同じように戦うことのできるアイテムである。痛覚は設定できるが、基本はほぼ痛くないようになっている。


 なぜこのような魔道具が存在するのかというと、おそらく仲間同士のガチバトルを気軽に演出できるようにする為だろう。

 BDのおかげで、生徒同士が実際に傷付け合うことなく、本気で戦うシーンがえがけるのだ。


(これを使って、ミストとローナが戦うんだよな)


 特に宿題の完成度が高かったミストとローナがここで戦うのだ。

 ここでの戦闘がきっかけで、ローナはミストの強さを心の底から認めることとなる。


「では、ゲイルさんとローナさんで戦っていただきます」


 どうやら、この世界ではそうはならなかったようだ。

 ゲイルのアーツは、工夫がされていたからだろうか?


 正確な理由は不明だが、先生にとっては何かが良かったのだろう。


「ちょっと! どうして私がゲイルと戦わないといけないんですか!」

「2人共アーツの完成度が高かったので、ぜひ皆さんのお手本になっていただきたいと思いまして。ローナさんも強くなりたいのでしたら、ゲイルさんと戦うことをおススメします。なんと言っても、ゲイルさんは私を倒しましたからね」


 教室内がざわつく。

 それもそうだ。いくら本気ではなかったとはいえ、先生を倒したのだから。


「はぁ!? こいつが!? 嘘でしょ!?」

「嘘ではありませんよ。まぁ、確かにお恥ずかしい言い訳をさせていただきますと、私も全力ではありませんでしたが、それでも勝利に変わりはありません。特に最後の一撃はに関しては、完敗でした」


 ゲイルは皆に注目されると、白目になり口周りを舐める。

 その後、機嫌が良さそうにニヤリと笑った。

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