第26話 転生前の僕は、オタクだったからな!

 ゲイルはアースボールだけでなく、先生が言っていたとある地属性アーツも取得するというのだ。

 それも、来週のアーツの授業日である月曜日までに取得するというのだ。


 正直言って、ゲイルは天才タイプではない。

 アースボールの取得もできていない今、そこまでできるかと言われれば、非常に難しいだろう。


 だが、今ここにいるゲイルにそれが不可能かというと、完全に不可能とは言い切れない。

 SHFのゲイルとこの世界のゲイルには、大きく違う点があるからだ。


 花は珍しく格好つけたような表情と声で、言い放つ。


「この僕の存在だ」

「あ?」


 正直格好つけすぎた。

 照れたので、咳払いで誤魔化した。


「ごめん。僕もたまには格好つけたくなるっていうか……」

「いや、そうじゃねぇ。自信は大事だからな。で、突然どうしたんだ?」


 突然なぜ花はこのようなことを言ったのだろうか?

 それは、人間時代に読んだいくつかの異世界転生物語を思い出してのことであった。


 異世界転生と言えば、多くの場合なんらかのチートがつきものだ。

 チートとは、本来は不正などの意味だ。しかし、異世界転生作品においては、あり得ないスペックを秘めた能力などを指す場合が多い。


 花も一応異世界転生者なので、チート能力を持っていてもおかしくはなかったのだが、やはりフィクションとノンフィクションは違うのだろう。そのようなものは、無かった。

 【寄生】をすれば、宿主の力をある程度まで引き出せるようになるので、確かに強い。だが、単体の花は物凄く弱い。下手をすればスライムにも殺されてしまいそうなくらいだ。


(チートスキルは持ってない……チートスキルはね!)


 そう。チートとはファンタジーな能力だけではなく、知識チートというものも存在する。

 例えば、花が原作知識を持っているなどといった感じだ。


 だが、持っている知識は原作知識だけではない。

 花には西暦2024年で過ごした知識がある。


 30年の人生を、2人分生きた知識がある。

 それらの知識を使って、アーツの取得難易度を下げることができるかもしれない。


 花はそう考えたのだ。


(なんと言っても、“俺”も“私”も、どっちの僕もオタクだったからな!)


 花はオタク知識が豊富だ。ちなみに本来の専門家的な意味とは違い、二次元コンテンツが大好きという意味でのオタクである。


(こういう場合って、僕のいた世界の何かが役に立ったりするもんだよな)


 ということで、とある作品のとある技が参考になるだろう。


「ゲイル、この世界にも小説はある。だけど、僕が元いた世界ではなんというか、もっと色んな種類の小説とか、後は漫画やアニメなんてものもあるんだ!」


 花は漫画やアニメについて、簡単に説明をした。


「で、それがどうした?」

「アースボールとなんとなく似ている技の修行方法で修行する」


 花は少年誌で連載されていた、某忍者漫画の主人公が使用する忍術を参考に修行をすることにした。



 それから放課後特訓を続けること、2日後。


「っしゃああああああああああああああああああああっ!!」

「おお! 凄いじゃないか!」


 ゲイルは土の玉を木に向かって投げつけ、木の表面がえぐれているのを確認すると、嬉しそうに叫んだ。


 修行に関しては、流石に全く同じ修行はできなかったが、問題はなかった。

 なぜなら、参考にした某忍者漫画の忍術は難易度が高いものだが、宿題になっているアーツに関しては基本中の基本アーツだからだ。


「それにしても、アースボールってあんな感じだったっけ?」

「あ? 失敗だって言いたいのか?」

「いや、そうじゃなくて」


 SHFでの描写的に、ただ相手に土の玉を相手に投げつけるアーツで正直言ってあまり強くないイメージだったのだが、思った以上に威力があるように見える。

 なんというか、回転がかかっている。そのせいで木の表面が、あそこまで派手に抉れているのだろう。


(修行方法間違ってたかな……)


 まぁ、弱いよりはいいだろう。



 2日後の放課後。

 ゲイルは言った通り、先生が紹介していたアーツも来週までに取得するようだ。


 アースボールも早めには取得できたが、思ったよりも時間がかかってしまった。やはり、異世界転生作品のように上手くはいかないものである。となると、先生が言っていた例のアーツの取得はキツイかもしれない。

 取得不可能という訳ではない。あくまで、来週のアーツの授業には間に合わないだろうという意味だ。


「【ソイルウォール】も楽々取得してやるぜ!」


 ソイルウォール。先生が紹介していた例のアーツのことである。

 土の壁を下から出現させて、相手の攻撃を弱めたり防いだりする防御系アーツだ。


「で、これはどうすりゃいいんだ? 言え!」

「これについては、特に思いつく修行方法っていうのは無いかな」


 良い案が思いつかなかったのだ。


「使えねー! ホント使えねー!」


 ゲイルは不機嫌そうな表情で、木を右足の底で蹴りつけた。


「まぁまぁ! でも、先生がお手本を見せてくれたじゃないか! ゲイルは最強なんだろ? きっとできるさ!」

「確かにそうだな!」


 ということで、ゲイルは両手を地面につけた。


「こうだったよな。で、確か地面からなんか土を出す感じだったよな。オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ゲイルは叫んだ。

 だが……


「なんも出てこねーじゃねーか!」

「最初から上手くいく人はいないさ! 焦らずにいこう! 別に来週までに取得しなくてもいいじゃないか!」

「そうはいくかよ! 俺は天才で最強なんだぞ!」


 ゲイルはまたしても叫ぶ。


「ッラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 すると……


 シュッ!


 地面から小石くらいの大きさの何かが出てきたと思ったら、真上に飛んで行った。

 しばらくすると、落ちてくる。


「小石くらいの大きさの何かかと思ったら、実際にそんな感じだな。なんだこれ、岩の破片……?」

「岩だと!? 先生は土の壁を作っていたなぁ! ってことはだ! 俺の方が才能あるってことだな!」


 確かに岩の方が強いが、ゲイルが出したのは、小石くらいの大きさの破片のようなものである。それに、先生は岩の壁を出現させるアーツ、【アースウォール】も取得済だ。

 実際にSHFでも使用していた。


 だが、あえて真似しやすいようにソイルウォールをやってみせたのだろう。

 ただ、それをゲイルには言わない。キレるかもしれないからだ。


「まぁ凄いとは思うけど、壁って感じじゃないし、これじゃ敵の攻撃を防御することもできないと思うぞ?」

「へっ! 今の内に吠えておくんだな! 壁くらいすぐに作ってみせるぜ!」



 そして日曜日まで、放課後毎日特訓を行った。

 その結果……


「はあああああああああああああああっ!!」


 ゲイルが両手を地面に置き、叫ぶと地面から岩の壁が……出なかった。

 代わりに、岩の破片が真上に飛んで行くだけであった。岩の破片が飛んで行くスピードだけが、日に日に上昇していくばかりで、壁を作ることはできなかったのだ。


「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ゲイルが叫ぶと、鳥型のモンスターが落ちてきた。

 それは粒子になると、肉を落としていった。ドロップアイテムという奴だ。


「ゲイル落ち着け! そういうこともあるさ! な!」

「俺は才能があるんだ……俺は天才なんだ!」

「そうだ! でも、今日はこの辺で終わろう! 今日も肉料理を食べて、明日に備えよう!」


 ここ数日、鳥型モンスターの肉が夕食だ。

 ゲイルの小石が上に飛んで行くせいか、それに運悪く命中したモンスターが落下してくるのだ。


「俺は天才なんだ……! なのにどうしてだ……!」

「ゲイル……」

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