第25話 地属性は土だけじゃないんだぞ
その日の放課後、ゲイルはいつもの森でアーツの特訓を行っていた。
自分の持つ属性ボールアーツを取得するのが、来週までの宿題だからだ。
「うおおおおおおおおおおおおお! アースボール!」
ゲイルは右手に魔力集中させる。
そこに意識を集中して、魔力を球体のようにするのがポイントのようだ。
地属性の属性ボールアーツは、【アースボール】である。
アースボールは、土のボールを手の平に生成し、それを投げ付けるアーツだ。
今のゲイルは、まだ手の平に土のボールを生成することもできない状態である。
ちなみに同じパーティーメンバーのローナは、授業中に【サンダーボール】を完成させた。
ローナがこの前使用していた【サンダーアロー】の方が難しいアーツなので、なんら不思議ではないことなのだが、ゲイルは相当悔しかったようだ。
「くそがっ!」
ゲイルは上手くいかないことがストレスになったのか、思い切り地面を蹴りつけた。
「ったく! モチベーションも上がらねぇ! 何が楽しくて泥団子作んなきゃなんねぇんだよ!」
「まぁまぁ! 一応魔力で作った泥団子だから、ちゃんと攻撃アーツとして使えると思うぞ!」
正確には水分が少ないので泥団子というよりは土団子であるが、確かに火球などと比べると、格好良いものではない。モチベーションが上がらない気持ちも分かる。
「そういや、お前は何属性なんだ?」
SHFでは、モンスターにも属性がある。
ということは、当然スターフラワーである花にも属性がある。
SHF本編では一瞬で倒された為、属性描写は無かったが設定資料集には書いてあった。
その属性をゲイルに言う。
「地属性だよ」
「地かよ」
右手を伸ばし、その人差し指を花に向けると、涙が出る程に大爆笑していた。
(君もじゃん)
と思ったのだが、ゲイルがキレそうだったので言わないでおいた。
「そういや、【リーフカッター】とか、あのショボい光出すアーツって、何属性なんだ? 地っぽくないし、属性がない無属性って奴か?」
本日の授業では属性魔法について習ったが、無属性アーツというものも存在する。
無属性アーツは、魔力さえあれば誰でも取得可能なアーツである。いや、正確には取得できる可能性があるアーツだ。その辺りはやはり才能や努力次第なので、使えない者もいる。
花が今使えるアーツは、【リーフカッター】と【シャイニングブレイザー】である。シャイニングブレイザーについては、実際に花が誰かに寄生せずに使うと、ショボい光を出すアーツとなってしまうので、ゲイルの発言を否定はできない。
「僕のアーツは無属性じゃないよ。地属性だ」
「あ? 地属性って土を使って戦う属性なんじゃねぇのか?」
先生が属性ボールアーツについてのレクチャーを終えた後、残り5分間は地属性について語っていた。その際に先生は、土関連ののアーツの紹介をしていた。それもあって、ゲイルは土で戦う属性だと思ったのだろう。
そもそも、“地”属性というくらいなので、そう考えるのも無理はない。SHFでは地属性で統一されているが、ゲームによっては地面属性や草属性で別れているものも存在するくらいだ。
「地属性は、大地の属性だからな。土だけじゃないんだぞ」
「つっても、地味なのには変わらねーがな」
それもそうだ。炎属性と比べるとやはりどこか地味である。
シャイニングブレイザーは派手だろうと思いもしたが、まぁ寄生しないと地味だろう。
「そういや、お前。あのショボい光を出すアーツって、アミルに【寄生】した時はなんか結構マシな威力だったよな。地属性にしては派手で気に入った。あれを俺にも教えろ!」
マシな威力と言う所がゲイルらしい。
「ごめん。多分無理」
「あ?」
「教え方分からないし」
教え方が分からない。
なんというか、新しく使えるようになったというよりも、使い方を思い出したという感じだったからだ。おそらく初期アーツとして元々覚えていたのだろう。設定資料集にも、ゲイルのスターフラワーはその2つのアーツを覚えていると書いてあったので、おそらくそうだろう。
「んだよ使えねーな! まぁ、今の所はこの泥団子を完成させて、クラスの奴らをギャフンと言わせてやるぜ!」
ギャフンと言わせた後、果たしてゲイルは原作通り、属性アーツを使わないようになってしまうのだろうか。
「そういや、次は何が起きるんだ? まさか、ここで俺が泥団子を完成させられずにクラスの奴らに馬鹿にされるって展開はないだろうなぁ!?」
「怒らないで聞いてくれるか?」
ゲイルをあまり刺激したくないので、できればあまり詳しくは話したくないが、ここで答えないとキレるので話すしかないだろう。
「あくまで君じゃなくて、SHFのゲイルのことだからな? いいか?」
「早く言え!」
花は「分かった」と言うと、どうなるかをシンプルに答える。
「君は来週の授業でアースボールを無事完成させてくるんだ。かなり余裕そうにしていたよ」
この世界でのゲイルを見る限り、実際は余裕などはなく、必死に努力していたのだろうが。
「おお! 流石だな! ……ってそれはいいが、だったらなんでお前は俺がキレる心配してたんだ?」
確かにゲイルはアースボールを完成させる。
そして、パーティーメンバーであるミスト、ローナ、メグにそれを自慢する。
特にミストに対して、自慢をするのだが……
★
~SHFでアーツを披露した時のゲイル~
ゲイル「ヒャハハハ! 天才の俺には簡単すぎたぜ! どうせお前は全属性使えるってだけで、簡単なアーツも取得できないんだろ? 結局は俺が最強ってことだ!」
ミスト「いや、俺なりに頑張ったよ。ほら」
ミストは、全属性の属性ボールアーツを順に披露する。
ゲイル「な……」
先生やクラスの皆はミストに注目する。
男子生徒1「す、すげー……マジで全属性使えるのか。俺なんかミストの足元にも及ばないな。最強になりたかったけど、これは無理だ。才能が違い過ぎる」
男子生徒2「ああ。俺も最初は一番になろうと思っていたけど、ミストを見ていたら、それは無理だと確信した。
男子生徒1「その通りだな。それに引き換え、ゲイルはダサいよな。大人しくミストの才能を認めた方がいいのに」
男子生徒2「ああ。人の才能に嫉妬してみっともないよな。見苦し過ぎる」
ゲイル「聴こえてんぞカスが! つーか、お前らミストに才能が無けりゃそんなにミストを褒めねーだろうが! 才能があるからそうやって言ってんだろ? 『潔く負けを認める自分かっけー! うひょー!』とか思ってんだろ? 目標諦めて、楽な道選んでんじゃねーぞボケ共が! まだ入学して間もないっつーのに、何負けを認めて満足してんだよ、だらしねぇ!」
ゲイルは男子生徒1、2に向かって、大声で言い放った。
男子生徒1「こいつ何言ってんだ? 『才能無けりゃ』って、ミストは実際に才能があるんだから別にいいだろ。ここまで才能の差を見せ付られちゃ、ミストに何言われても何も言い返せないよ。お前はただ妬んでいるだけだ」
男子生徒2「ああ。まぁ、ミストは性格もいいから上から目線なことは言わないだろうがな。それにしても、ゲイル。お前はアーツの才能だけじゃなく、性格までミストに負けてるな。ミストは全属性持ちという素晴らしい才能を持っているのにも関わらず、偉そうにしない。というかあれか、ゲイルは自分の能力が低いから、ミストの凄さが分からないのか? だとしたらかわいそうに……」
★
「どうした? 早く言え!」
ゲイルは、なぜ自分が怒る心配を花がしていたのかを、問う。
「君がアースボールをミストに自慢したものの、ミストの才能に比べたら全然で、嫉妬してるんじゃないかって一部の生徒に言われていた」
こうしてゲイルと一緒にいてゲイルが努力家なことを知ると、テキスト通りに言うのはかわいそうに感じたので、要約してゲイルに伝えた。
「あ? なんでそうなんだよ」
「まぁ、そんなもんだよ」
「あ? どういうことだ?」
「能力があると、味方も多いんだよ。例えば仕事ができたりね。どう工夫しても駄目な人は、敵も多いんだ。僕もそうだった」
「仕事……? そういや、お前は元人間だったな!」
「うん」
「まぁ、最強の俺にはお前の気持ちは分からねぇけどよ! つまりは、こういうことだろ?」
数秒ゲイルは考えると、邪悪な笑みを浮かべる。
「俺の凄さを理解できない奴らの為に、もっとそれを分かりやすくすりゃ、問題ねぇよなぁ! アースボールだけじゃねぇ! 先生が言っていたあのアーツも取得してやるぜ!」
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