第23話&エピローグ 花とゲイル

(それにしても、不便だな)


 この世界でモンスターは基本、人間の言葉を話さない。

 その為不審に思われるかと思い、花は、ゲイル、ミスト、アミル以外に人間の言葉を話せることがバレないようにしている。特に学校内でバレたら、どうなるか分からない。


 だが……


(正直、不便だよな。流石にSHFについてはゲイル以外に話さない方がいいとは思うけど、話せることは別にバレてもいいよな)


 その方が直接的にアドバイスをすることができるようになる為、便利だろう。


(そもそも、よく考えたらこの前ミストやアミルの体で暴れちゃったしな。どの道目を付けられているだろう)


 そもそも、入学早々召喚獣持ちというだけで珍しいのだ。

 例え話せるのがバレたとしても、なんてことないのではないか? 花はそう考えた。


(よし、とりあえずパーティーメンバーには話そう)



 月曜日の昼休み、ゲイルに頼んでとある空き教室にパーティーメンバーを呼び出した。


「で? 話って何? 私忙しいんだけど」


 ローナは相変わらずゲイルのことが嫌いのようで、腕を組みながら不機嫌そうな表情をしていた。


「ったく、俺じゃねぇっつーの!」


 花は机の上に乗ると、皆に挨拶をする。


「えーと、こんにちは」


 花がそう言うと、ゲイルとミスト以外。つまり、ローナとメグは驚きの声をあげた。


「モンスターが喋ったー!?」

「えっ!? モンスターが人間の言葉を!?」


 自身の召喚獣を褒められたからか、はたまた自身を嫌っているローナを驚かせることができた喜びなのか。それともどちらともなのかは分からないが、ゲイルはニヤリと笑い実に機嫌が良さそうに邪悪な笑みを浮かべていた。


「このモンスター、喋るんだよ」


 ミストは自分だけ知っていたということもあってなのか、得意げな表情だ。


「貴方、知ってたの?」

「まぁね! 入学前から知ってたし!」

「入学前から?」


 これ以上この話題を続けるのは良くないだろう。相手は頭の良いローナだ。最終的には、別な世界から来た元人間という正体バレに繋がりそうな予感がする。


「ま、まぁいいじゃないか! とにかく、皆よろしく!」


 花は葉っぱを手のように使って敬礼のポーズを取る。


「貴方、なんで喋ることができるの?」

「そうだよね! 基本モンスターは喋らないよね!」


 花の正体を知っているゲイルはともかく、ミストはいて来なかった質問を投げかけて来た2人。


「生まれつきだよ!」

「生まれつきねぇ……ふーん」


 ローナは怪しんでいるようで、花を疑いの眼差まなざしで見つめる。


「あ、いや。勿論勉強はしたんだよ?」

「モンスターってそんなに知能高かったかしら?」

「僕は特別なんじゃないの?」


 あくまでも自分自身でもよく分かっていないという方向で話を進めた。

 その結果……


「じゃあ、私と力比べしなさい!」

「え?」


 特別という所にかれたのか。ローナは嬉しそうな表情で言った。


「特別ってことは、貴方強いんでしょ?」

「いや、弱い」

「本当かしら? ま、いいわ。やりましょう?」


 こうして、校舎裏へと案内された。

 他の生徒は誰もいない。


「私は先端が丸い矢を使うわ。アーツは使ってもいいわよね。貴方もアーツをどんどん使って来ていいわよ!」


 場合によってはアーツの方が凶器であるが、ローナはおそらく自身のアーツがどこまで通用するかも確かめたいのだろう。


「審判は私がやるよ!」


 審判と言っても、ただ試合開始の合図をするだけだ。

 メグは試合開始の合図を宣言した。


「アーツ発動! 【サンダーアロー】!」


 ローナはアーツを発動させた。

 これが入学前から取得していたローナのアーツだ。


 矢を弓に装填すると、矢に電気がまとわりつく。


「ならこっちも! 【リーフカッター】!」


 ローナの弓から、電気を纏った矢が発射され、花からは1枚の大きな葉が発射された。

 互いのアーツ同士がぶつかるが、葉はまるでペラペラな紙のように吹っ飛んでいった。


「ぐはっ!」


 花もサンダーアローを食らい、倒れてしまう。


「え!? 嘘でしょ!?」


 やはりリーフカッターでは威力不足だったようだ。


「ま、参った!」

「もう!」


 ローナは瓶を取り出すと、そこに入っている緑の液体を花に飲ませる。

ポーションという奴だ。


「弱いだろ?」

「そこはノーコメントにしておくわ」


 とここで、ゲイルが叫ぶ。


「お前は随分と卑怯な奴だな」

「なんですって?」


 ローナはゲイルの方を向く。


「召喚獣っていうのはな、人間と一緒に戦ってこそ真の力を発揮するんじゃねぇのか? お前がやってんのは、1vs1じゃねぇ。1vs0.3くらいだ!」


(ゲイル……)


 ゲイルがかばってくれた。


「だから俺とも戦って貰わなくちゃなぁ!」


 ゲイルは剣を抜くと、白目になりながら刀身を舐めた。


(あ、違った)


 かばってくれたのは確かであったが、おそらく真の目的はローナをボコボコにすることなのだろう。今のゲイルの表情が全てを物語っていた。


「貴方のことは嫌いだけど、一理あるわね。召喚獣は召喚主と共に戦ってこそ、真の力を発揮する。それは確かにそうだわ」

「ヘヘヘ! だよなぁ!」

「いいわ。2人まとめてかかって来なさい」


 ということで、もう1戦やることになった。

 ゲイルは流石に剣で斬りかかる訳にはいかないので、ミストが木刀を職員室から借りて来た。


「試合開始!」


 メグがそう合図をすると、ゲイルはローナに向かって木刀を構えて走る。


「必殺! 英雄斬りぃぃぃぃぃぃぃ!」


 アーツでもなんでもない。ただ叫びながらローナに対し、木刀で斬るモーションをするゲイルであったが、ローナはバックステップでかわすと、ジャンプをする。


「【サンダーアロー!】

「ぬはぁっ!」


「ゲイル!」


 ゲイルはサンダーアローを食らい、地面を転がった。

 花はゲイルに駆け寄る。


「く……くそがぁ……!」

「あら、まだ立てるのね」


 ゲイルは立ち上がるが、フラフラだ。

 するとゲイルが脳内で語り掛けて来た。


『……おい花』

『なんだ?』

『許可する』

『え?』

『許可する』

『許可って……?』


 ゲイルは花に叫んだ。


『俺の体を使うことを許可する。だから……さっさとあいつを潰せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 余程ローナに対しムカついたのか、なんとゲイルが【寄生】を許可するというのだ。


『分かった! 共に行こう! スキル発動! 寄生!』


 花は植木鉢から大ジャンプで飛び出すと、ゲイルの頭に絡みつく。

 頭に花を咲かせたゲイルの体は立ち上がると、いつも通り宿主、つまり今であればゲイルのことだ。それを使って言葉を発する。


「まだ勝負は終わってないぞ」

「あら? サンダーアローを食らってまだ動けるの?」

「まぁ、無理はできないさ。だからこそ、すぐに決着を付ける」


 「潰す」ということがどういう意味なのか、それは分からないが、ゲイルに頼まれたのだ。それを「勝つ」という結果で示そうではないか。


「【リーフカッター】」


 花は両手を前に出すと、手の平から大きな1枚の大きな葉が飛び出した。


「さっきのあまり強くないアーツね。でも、失礼だからこっちもアーツで行かせて貰うわ【サンダーアロー】!」


 電気を纏った矢と、大きな葉がぶつかるが、矢を物ともせずに大きな葉がそれを切断し吹っ飛ばす。ローナの背後の木に、大きな葉が刃のように刺さる。


「なっ……!?」


 ローナは驚いたのか、目を見開く。


「私のアーツが……負けた……?」


 流石にミストやアミルの体を使った時ほどの威力は出ない。だがそれでも、花単体でアーツを使った時よりも、何倍も威力が増しているように見える。

 そして、ミストやアミルの体よりも、力のコントロールはしやすい。


「どうだ? 中々だろ!」

「まだよ……!」


 ローナは矢を装填しようとする。


「【シャイニングブレイザー】」


 かなり出力弱めのシャイニングブレイザー。つまりは光線をローナの手元に放つ。

 勿論、ローナの肌には当たらないようにだ。


 装填に失敗し、矢は床に落ちる。

 更にその直後、矢のホルダー目掛けてリーフカッターを発動。遠くへとそれを吹っ飛ばした。これでローナはもう矢を装填することができない。


「勝負あったな」


 ゲイル。これでいいのだろう?


(というか、これで勘弁してくれ)


「……なんなのよ。貴方何者なのよ!」

「ゲイル・ユグド。自称最強の男だ」


 ゲイル本人であれば、“自称”は付けないが、流石に恥ずかしかったのでつい付けてしまった。



 試合はゲイルの勝利という形で終わった。

 花が寄生を解除すると、ゲイルとローナは互いに向き合う。


「どうだ! 強かっただろ!」


 ゲイルはニヤリと悪そうに笑うと、ローナを楽しそうに睨みつけた。


「そうね。貴方のことは嫌いだけど、認めざるを得ないわね」

「だろ? ヒャハハハ!」

「召喚獣含めて、貴方の力よ。だから私は今の貴方よりも弱い」

「あたりめーだろ! 俺に勝てる奴はいねー! 俺は最強だー!」

「あら? 言葉が理解できなかったかしら?」

「あ? どういう意味だ! 言え!」

「どういう意味かしらね。さ、昼休みも終わるわ。行きましょう」

「待てやゴラ!」


 ローナはその場を立ち去る時、花の近くに顔を近付け、悔しそうな声で言う。


「次は絶対に勝つ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る