第22話 視察

 ゲイルを無事に説得することができた。

 完全に大人しい性格にはならなかったが、それでいい。


 性格なんて、そう簡単に変えられるものでもない。

 仮に性格を完全に変えられる力を花が持っていたとしても、そんなことをしてしまえば、ゲイルはゲイルでなくなってしまうだろうし、きっとやってはいけないことだろう。



 オリエンテーションの翌日である本日は、休日である。

 スキハ学園は週休2日制だ。要するに土日休みだ。ゲームの世界が元になっているということもあり、そこは花が住んでいた世界とほぼ同じであった。


 ゲイルはいつもの森に特訓をしに出掛けた。

 いつもは花も同行して一緒に特訓をしているのだが、本日は既に予定がある為、ゲイルだけ森に向かった。


 本日、花は何をする予定があるのか?

 それは視察である。ローナ達がオリエンテーション終了時点で、どのようになっているかを確認しに行くのだ。


(ある程度はSHF通りに進んでくれないと、僕がこの世界の未来を予知しにくくなるからな)


 予知と言っても、そのようなスキルがある訳ではない。

 あくまでも、SHFの知識しかない。だからこそ、この時点で皆がどのようになったのかが気になった。


(まずはローナだな。確か、最初の休日は川が近くにある場所で特訓していた描写があったな。ってことは、あの辺りか)


 努力家のローナのことだ。心配はないだろうが、一応見に行く。

 ただでさえ戦力が不足しているのだ。せめてローナだけは原作通りでいて欲しい。


 花はローナの特訓場所に向かうと、草むらに姿を隠しながらローナの様子を確認する。

 だが、ここでSHFには無かったイベントが発生していた。


「はぁはぁ……どう! ローナちゃん!」


 なんと、ローナだけではなく、一緒にメグも特訓をしているのだ。


「いいんじゃない? ただ、武器は新しく買った方がいいと思うわ!」


 手元は見えなかったが、先程剣か何かでメグが何度も何度もスライムを刺していた。刺されたスライムは粒子になって消えていった。そこまで多く刺さないとスライムを倒せないということは、余程ボロボロな剣でも使っているのだろうか。

 それにしても、SHFではこのようにローナとメグが2人してプライベートで特訓をする描写は無かった。そもそも、ローナとメグはここまで仲が良かっただろうか? 確かにメグは誰に対しても分け隔てなく接する性格ではあるが。


「武器を新しく買うって……折角だからローナちゃんがくれた武器を使いたいかなって!」

「でもそれ、包丁よ? 戦闘向きじゃないわ。そもそも私武器としてプレゼントした訳じゃないし!」

「ガーン! そうなの!?」


(包丁!?)


 メグの手に握られているのは、明らかに戦闘用ではない包丁であった。

 武器用のナイフであれば、まだ分かるのだが。


 そもそも、SHFにおいてメグは武器を使用していなかった。

 スキルでの分析と、アーツでの後方支援を主に行っていたのがメグというキャラであった。


 しかし、この世界でのメグはスキルを取得することもないかもしれないので、武器を使用して戦闘力を上げるというのもありだろう。

 原作においてメグがスキルを取得したきっかけというのが、主人公ミストへの恋心である。だが、ミストの性格はSHFと大きく違っており、このままメグがミストに惚れない可能性も高い。


(メグが前に出て戦うのか……少し心配だけど、本人がそうしたいんだったら、その意思を尊重した方がいいよな。ただ、戦闘用のナイフは買って欲しい。いや、ナイフとか使いこなすの難しいと思うから、剣とかにして欲しいっていうのが本音だけど)


 ローナに関しては特に変わった点はない。強いて言うのであれば、メグと一緒に特訓をしているという点であろう。


「そこにいるのは……誰っ!?」

「え?」


 メグは花が隠れている草むらに向けてそう言うと、手に持った包丁を投げてきた。


「ひっ……!」


 包丁は植木鉢に当たり、弾かれた。

 姿は見えないハズだが、よく当てられたものである。


「何? いきなりどうしたの?」

「私達のことを誰かが見てる!」

「本当?」


 どうやら、ローナは気が付いていないようだ。

 花は草むらから飛び出て、怪しくないアピールをした。


 流石に今ローナと戦って勝てる自信はないからだ。


「あっ! ゲイル君の召喚獣! ご、ごめん! 痛くなかった?」

「ピヨ?」


 そういえば、スターフラワーはどうやって鳴くのだろうか?

 忘れてしまったので、適当に鳴いておいた。


「もしかしてゲイルの奴に頼まれて監視しに来たの?」

「ピヨ!」


 花は首を横にブンブンと振る。


「ピヨピヨー!」


 花はお辞儀をした後、その場をあとにした。


(少し驚いたけど、心配無さそうだな。メグはSHFプレイヤーの一部から天使とも呼ばれているくらいだし、余程原作からズレなければ敵対もしないだろう)


 メグはゲイルに対しても優しい。おそらくこれからも誰に対しても、分け隔てなく接する優しい子でいるのだろう。


(よし! 安心だな! 次はミストだ!)


 ミストも最初の休日は特訓描写があったのだが、そこに彼はいなかった。


(うん。そうだよな)


 ミストは臆病な性格だ。SHFではモンスターを許さない男であったが、この世界ではそんなことはない。

 特訓をせずに、これから先大丈夫なのだろうか?


(けど、ミストの才能は原作と変わらずだし、いざとなったらここは僕が寄生して乗り切ろう。とは言っても、ミストも特訓しないと限界があるだろうけど……)

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