第21話 誰だってそうだ

 その日のオリエンテーションが終了した。

 クラス内では一番の成績を収めたパーティーだったということもあり、解散前にクラスの皆の前で、ゲイル達は担任の先生から褒められた。


 解散後、ゲイルの部屋でゲイルと話し合うことにした。

 このキレ具合だと、なんらかの形で彼が破滅しそうだからである。


 ゲイルの死は花の死でもある。ここは落ち着いて貰う為にも話し合った方が良いだろうと考えた。


「で? 話ってなんだ?」

「ゲイル、君は正直過ぎる。」


 ゲイルは、黒い感情を表に出し過ぎである。

 そういった感情は、花が住んでいた世界では人間皆が持っていると言っても過言ではないものではあるが、人間関係を円滑に保つ為や、その他様々な理由でそれを表に出す人間は少ない。


 黒い感情は悪い感情ではない。花は個人的にはそう思っている。

 それを表に出すことにより、誰かに迷惑をかけたり、誰かを傷付けるという行為が良くないだけな気がするのだ。


「俺が正直って、それは誉め言葉か?」

「ああ。誉め言葉だ。だけど……そういうのはあまり表に出さない方がいいと思うんだ」

「表に出さないだぁ? 出さねぇと、ストレスが溜まっちまうだろうが!」


 それはそうだろう。だからこそ人間時代の花も、いや花だけではない。人間皆ストレスを溜めて生きているのだろう。

 だが、それは発散することもできる。


「何か好きなことでもして、ストレス発散すればいいだろ」

「他のことで誤魔化せるわきゃねーだろ! お前はそういうの感じないからいいと思うけどよ! 感じてる方はつれぇんだぞ!」

「え? 僕だってそういうの感じる時はあるぞ?」


 こっちの世界に来てからはそういう感情はあまり抱かなくなったが、人間時代の花は妬みなどの黒い感情を他の人のよりも抱きやすかった。勿論他の人の視点で人生を生きることはできないので、花が個人的にそう感じているだけかもしれない。

 しかし、毎日のように誰かを心の中で妬み続けている自分を性格の良い人間だと思わなかったことだけは、確かである。


 だからゲイルの気持ちはよく分かる。それを抑える辛さもよく分かる。


「お前がか? 嘘つくんじゃねぇぞ!」

「嘘じゃない! 僕だって、誰だってそうだ! 皆それを隠して生きているんだ!」

「だったら、ミストとかローナとかメグとか、俺が最近会った奴もそういうこと考えてるのか?」


 「そうだ!」と言いたい花であったが、ここは正直に答える。


「考えてないかもしれない」


 花が人間時代過ごしていた世界であれば、「そうだ!」と言えただろう。

 だが、この世界はSHFの世界が忠実に再現されている世界だ。となると、皆ゲームのキャラのように裏の性格も良い人間なの“かも”しれない。SHFにおいてモブキャラだった者はどうか分からないが、少なくともメインの味方キャラはそうである可能性が高い。


「君は僕が住んでいた世界の人間にとても良く似ている。勿論僕にも似ている。そして君がそういう性格になったのは、僕のせいだ。ごめん」

「なんでお前が謝るんだ? 言え!」

「僕がいた世界の人達が君をそういう性格に作ったせいだ。おそらくそのせいで、君はこの世界でもそういう性格になってしまった。だから、これは僕のせいと言ってもおかしくないと思ってさ」


 誰にも好かれそうのない小物キャラがあり得ない程に黒い感情を表に出し、結果酷い目に合い、それを楽しむ。

 その為に生み出されたキャラがゲイルなのだ。もし、後々仲間になるキャラであれば違ったのだろう。だが、今はそういったキャラは受けないのだ。確かに昔からそういったキャラはいる。だが、それはストーリーの進行上に必要であったり、悪役として魅力のあるキャラが多かったような気がする。しかし、今はそういったキャラをいたぶることがストーリーのメインとなっているものも多い。勿論それは悪いことではない。だが、今こうしてそんなキャラが目の前にいると、申し訳なく思う。


 流行というのは個人では生まれない。だから花本人だけが悪い訳ではないのかもしれない。むしろ花はそういったものは苦手だった。だが、理由が違ったとしても花はSHFというゲームが好きだ。だからこそ、その流行を作る流れに貢献してしまったと言っても過言ではない。

 「僕のせい」とは、そういう意味だ。


「理由なんぞどうでもいいわ。イライラするから俺はキレるだけだからよぉ!」

「ゲイル……今度から僕に愚痴らないか?」

「愚痴る?」

「ああ! 例えばそうだな。キレそうになったらその時だけ我慢して、後で僕にそのことをとことん話すんだ! 勿論、遠慮しなくていい! 君の性格は、SHFを通してよく知っているからね。今更ドン引きしたりしないさ! 誰かのことを「ぶっころすぞ、カス!」とか、「しねや、ゴミ!」とか言っても構わないさ! そして僕はそれを誰にも言わない! それじゃ駄目か?」


 ゲイルは数秒顎に右手を当て考えると、口を開く。


「ムカつくなぁ! ったくよぉ! ズリィんだよ!」

「ゲイル?」

「どうして他の奴らだけそんな生きやすい性格なんだよ! 俺もそういう性格にしとけや! 俺がそんなカスみたいな末路を辿ることを前提に生み出されたって考えると、クソムカつくぜ!」


 ゲイルはニヤリと、一瞬白目になりながらも笑った。


「いいぜ! 俺は最強だからな! 運命にも勝ってみせるぜ! 俺の運命は俺にしか決められねぇってことを証明してやるぜ! ヒャハハハ!」

「ゲイル!」

「ただしだ、愚痴はたっぷり聞いて貰うからなぁ! 覚悟しとけや!」

「ああ! 勿論だ!」

「それと、全部我慢はしねぇからな」

「え?」

「俺の目玉めんたまは俺にしかついてねぇ! 俺が犠牲になって他の奴らが楽しくなっても、俺は楽しくねぇ! だから他の奴ら中心じゃねぇ、あくまでも俺中心に生きる! それと、どうしても譲れねぇことっつーのはあっからよ! そこだけはヨロシクだわ! ヒャハハハ!」

「ま、まぁ……うん。いいかな……?」


 ゲイルのあまりの正直さに、花は改めて驚いた。

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