第18話 ローナの実力

「メリット……でしたら、もし僕が勝ったら貴方の持っている宝石を僕が貰うというのはどうでしょうか?」

「残念だけど、私宝石まだ持ってないのよね」

「でしたら、見つけたらそれを譲ってくだされば……!」


 そこまでしてローナ達に宝石を譲りたいのだろうか?

 いや、先程彼女は自分が勝てないことを心配をしていた。ということは、やるからには勝ちたいという思いもあるのだろう。


 だが、念の為訊いてみることにした。


「もしかして、わざと負けるとか言うんじゃないでしょうね?」

「そんなことは、ありません! 僕も全力で行きます!」


 真剣な表情で、彼女はローナの目を見つめた。


「はぁ、分かったわ。こっちは2人いるけど、卑怯だから1対1でやりましょう?」

「はい。こちらも全力で行きますので、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしく! そうだ、最初に名乗っておくわ! 私は、ローナ・アーチャーよ!」

「僕はリアです! リア・ラートリシュ!」


 彼女は木刀を慣れない手つきで構えた。

 おそらく、戦い慣れはしていないのだろう。


 だが、彼女の真剣な表情を思い出すと、あまり手を抜きすぎるのも失礼になる。


「メグ! 戦闘開始の合図を!」


 ローナがそう言うと、メグは戦闘開始を宣言した。


「一気に行くわよ!」


 ローナが装備しているのは、私物である銀色の弓だが、弓矢はオリエンテーション用に支給された安全なものを使用している。

 本来であれば矢というのは鋭いものだが、先端が丸く柔らかくなっている。それでも当たれば当然痛いだろう。だがそれは、木刀だって同じことだ。


 ローナは矢を放つ。


「ぐっ……!」


 木刀で防ごうと考えての動きではあったが、上手くいかず、矢がリアの肩にヒットした。


「ごめんなさい。私、手加減は苦手なの」


 ローナは矢をいくつか口にくわえ、それを連続で発射。更に休まずに、弓に装填していく。それを繰り返した。


「ぐああああっ!」


 リアはローナの連続攻撃を避けようとしたが、体中にほとんどの矢がヒットしてしまう。

 その衝撃に耐え切れずに、リアは地面に倒れた。


「ま、参りました」

「なんか罪悪感が凄いわね」


 あまりにも、一方的になってしまった。


「貴方、戦闘経験はあるの?」

「えっと、実は全然……。学園で習おうと思っていて……」

「はぁ、そんなんじゃ舐められるわよ?」


 ローナは後ろを向いて立ち去る。


「え? あの、宝石は……」

「今手に入れたから別にいいわ」

「今手に入れた?」


 本当は別な言い訳を考えようとしていたが、今の戦いの衝撃で、天井に隠されていたと思われる宝石が降って来た。戦いの衝撃と言っても、大した衝撃でもないので、もしかしたら偶然かもしれないが。

 だが、どちらにしても宝石を貰わない理由としては丁度良かった。


 まぁ、本来であればルール通り宝石を受け取らなくてはならない訳だが。


「後貴方、多分剣は向いてないわよ? 近接武器に拘るんだったら、そこそこ距離を取って戦える槍がいいと思うわ」





☆ミスト


「やった! 宝石ゲット!」


 ミストの担当ポジションは校庭。

 校庭に生えているいくつかの木を調べていた所、それを見つけることができた。赤い宝石がその手にあった。


「ありがとうだぜ!」

「なっ!?」


 ポケットに収納しようとしたその時、一人の生徒が背後から忍び寄り、それを奪われてしまった。


「返せーっ!」

「やーだよー!」


 ミストは一瞬の内に鳩尾みぞおちに腹パンを食らい、その場に倒れてしまう。


「く……そ……」


 場所に関してはローナに振り分けられたが、校庭のどこに宝石があるかは大雑把にだがゲイルに教えて貰った。

 だから、絶対皆の役に立てると思っていた。臆病な自分でも役に立てると思っていた。


「反撃しないのか! 仕方ないから俺はもう行くぜ!」


 ミストから宝石を奪った相手は、その場から去ろうとする。

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