第17話 担任の先生

「ゲイルさん、頑張ってください!」


 花がふと隣を見ると、ほうきを持ったメイド服の少女がゲイルに向かって叫んだ。

 ここで働くことになったという、アミルである。おそらく、今も掃除の途中だったのだろう。


「応援してくださる方がいるとは、中々人望がありますね!」


 木刀同士をぶつかり合わせながら、先生はゲイルに言った。


「どうです? 貴方も加勢しますか?」


 先生は片手で持った木刀でゲイルの攻撃を受け止めながら、後ろを振り向いた。


「安心してください。貴方には攻撃を一切しませんから」


 先生はニコリと笑った。

 そして……。


「ぐはっ!」


 ゲイルの肩に先生の木刀の一撃がヒットする。


「すみません。よそ見をしていた為、当ててしまいました」


 ゲイルはすぐに体制を直すと、先生に向かって再び攻撃を始めた。


「ゲイルさん! ……先生、本当に私には攻撃しないんですね?」


 アミルは先生に叫んだ。


「ええ。まさか、本気で来るんですか?」

「はい! 私は本気です! ゲイルさん、一緒に戦いましょう!」


 ゲイルも聴こえたのか、花の声に反応する。


「お前にゃ無理だ! 俺に任せとけ!」

「私が個人的にお手伝いしたいのです! 花さん!」


 アミルは花に言う。


「合体です! 今の私はほうきで叩くくらいしかできません。ですが、花さんの力を使えばこの状況をどうにかできるかもしれません!」

「本気か!?」


 花はアミルにだけ聴こえる声で言った。


「大丈夫ですよ! 先生、私には攻撃しないって言ってましたし! さぁ、行きましょう!」


 花は少し考えた後で、頷く。


「分かった! 3人で勝とう! スキル発動! 【寄生】!」


 花は植木鉢から飛び出し、アミルの頭に絡みつく。


「おや?」


 先生は一瞬真剣な表情になり、つぶやいた。

 花はアミルの体を操り大ジャンプをすると、ゲイルの隣に着地する。


「ゲイル! 助けに来たぞ!」

「けっ! そういうことかよ! 足手まといになるんじゃねぇぞ!」


 花はアミルの体で大きく飛び跳ねると、空中で両手を前に出す。


「ゲイル! 離れてろ! リーフカッター!」


 葉を飛ばすリーフカッターだが、その一枚一枚を非常に細かくしてそれを先生に向かって飛ばす。


「くっ!」


 先生の服がビリビリと破けていくが、すぐに木刀で防ぐ。だが、それでも全ては防ぎきれない。先生は予想外だったのか、慌てて回避をする。

 アミルの体が地面に着地をすると、二発だけ大きな葉を出す。


「いっけええええええええええええええええええええええ!!」

「なっ……!」


 一発目は先生の木刀を切断。二発目は先生の眼鏡を吹き飛ばした。


「ヒャハハハ! 上出来だぜ!」

「しまった!」


 先生は花の攻撃をかわすのに精一杯で、ゲイルの木刀を腹部に受けて倒れてしまう。

 先程吹っ飛ばした眼鏡と、先程切断した木刀が上から降って来ると、木刀は地面に刺さり眼鏡は一部破損して転がった。


「……お見事です」


 勝った。本気の先生ではなかったが、形的には勝った。

 あそこまで絶望的な状況であったが、無事ゲイル達の勝利という形で終わったのだ。


「俺達の勝ちっすよねぇ?」


 ゲイルはニヤリと笑いながら先生に言う。決められたルール内で勝ったので悪いことはしていないハズなのだが、ゲイルは邪悪な笑みを浮かべていた。


「はい。負けてしまいました。こちらをどうぞ」


 先生は立ち上がると、青い宝石をゲイルに渡す。


「あざっす!」


 ゲイルはそれをポケットに収納する。


「眼鏡と木刀は弁償っすか?」

「いえ、私の落ち度です。気にしないでください。それにスペアの眼鏡は10を超えていますので、ご安心を」

「了解っす!」


 そして花はゲイルが先生と話している間に、スキルを解除する。


「終わりましたか?」

「うん……結構疲れたけど……やっぱり君は凄いよ」

「そんなことないですって! でも、ゲイルさんのお役に立てて良かったです!」


 この前アミルの体に寄生した時よりも力を使ってはいないとはいえ、やはり強力な攻撃を無理に使うと花の体に負担がかかる。

 それに対してアミルは、なんともないようでただひたすら喜んでいた。


「じゃ行くぞ、お前は仕事頑張っとけ」

「はい! ゲイルさんもお気を付けて!」

「心配すんな! 本気出さなくても余裕だわ! 今回も本気出してないしな!」


 本当だろうか?





☆ローナ


「見つからないわね。他の場所を探した方がいいのかしら?」


 ローナとメグは体育館で宝石を探していたが、見つけることをできずにいた。


「ミストは無事に見つけられたのかしら?」


 そんな時である。


「あの、ゲイルさんの知り合いですか?」


 ローナは後ろから、声をかけられた。

 おそらく他のクラスの女子生徒だろうか?


「そうよ? 同じパーティーだけど?」

「そうですか! あの良かったらこれ……今見つけたので……」

「これ、宝石じゃない!」


 彼女の手には緑色の宝石があった。


「どうしてこれを私に?」

「ゲイルさんに助けて貰ったので……」

「本当に?」


 ゲイルが人を助けるとは思えない。

 そう感じたローナはくが、彼女は首を縦に振った。


「ありがとう。気持ちは嬉しい。でも、受け取れないわ」

「え? でも……」

「個人競技ならまだしも、今回は貴方のパーティーにも迷惑がかかっちゃうでしょ?」

「た、確かにそうでした……」


 彼女はシュンと下を向いた。


「けど、タダじゃないならいいわ。ここはスキハ学園の生徒らしく決闘で決めるっていうのはどう?」

「決闘ですか……。僕勝てるかな……」

「別に無理にとは言わないわ。貴方にメリットもないしね。他の生徒にも狙われそうだし、さっさとそれ隠してどこかへ行った方がいいわよ?」

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