第16話 最強
「よし! できたぞ!」
「あ? 何ができたんだ?」
その日の放課後。明日のオリエンテーションに備えていつもの森で、特訓を行っていた。
そして、花は新たなアーツを取得することに成功した。
本来であればアーツを取得することは難しいのだが、モンスターだからだろうか? ゲイルがアーツを取得していないのにも関わらず、新たなアーツを得ることができた。
「ゲイル見てくれ! 僕の新しいアーツを!」
「ったく、うぜぇ。こっちはまだなんもアーツないんだぞ? ずりぃなおい」
「まぁまぁ! 僕はゲイルの召喚獣だし、僕の強さ=ゲイルの強さでもあるだろ?」
「それもそうだな。見せてみろ」
「ああ!」
このアーツは夜になると使用することができない。正確に言うと、少しでも良いので日の光が必要なのだ。
幸いまだ外は暗くなっていないので、木に向かってアーツを使用する。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
吸収した光を光線に代えて、花の顔から発射された。
有名モンスター育成ゲームに登場する、ソーラーなビーム的な技である。
そして。
「はぁはぁ……どうだ! これがアーツ【シャイニングブレイザー】だ!」
「馬鹿じゃねぇの? 期待させやがって!」
発射された光線はかなり細く、薄かった。
だが、ヒットした個所はよく見ると少しだけ煙が出ている。
「確かにショボいけど、新しいアーツだぞ!」
「んなもん使えっかよ! ちっ……やっぱ俺がもっと強くならねぇと駄目みてぇだな!」
◇
そして翌日。オリエンテーション当日となった。
教室でオリエンテーション担当の先生が説明をする。
「このオリエンテーションでは、他のクラスも参加します。ですが、順位に関しましてはクラス内でそれぞれ順位が付きます。それと今回のオリエンテーションのルールですが、武器に関してはこちらで用意したものだけを使用してください。スキルが使える生徒は、使用してもよろしいですが、相手を直接傷付けるタイプのスキルの使用は不可とします。アーツに関しましては直接相手に当てなければ良しとします」
つまりは、花のスキルも問題なく使用できるという訳だ。
もっとも、使う機会があるのかは不明だが。
使う武器と言うのは、例えば剣だったら木刀。弓だったら、先端が丸いものを使用してくれとのことであった。
ゲイルは普段剣を使っている為、木刀を受け取った。
「宝石を3つ集めたら、この教室に戻って来てください。それではスタートです!」
オリエンテーションが始まると、皆教室から次々と出て行く。
「私とメグは体育館に行くわ。ミストは校庭。ゲイルは校舎内を探して頂戴」
「仕切りやがって……クソが!」
ローナの発言にゲイルはキレそうだが、探索ポジションに関しては、SHFのシナリオ通りである。
『ゲイル。職員室に行くぞ』
『お前まで仕切んじゃねぇぞ! ま、俺は心が広いから許すけどな!』
花はゲイルと共に職員室へ向かうと、中へ入る。
流石に最初にここに来る生徒はいないので、先生達がこちらを見てきた。
『ここだ!』
花は担任の先生の机に飛び乗り、ゲイルに場所を指示した。
『ヒャハハハ! 早速いただきだぜ!』
ゲイルは担任の先生の机を開けて、青い宝石を取ろうとしたのだが。
「おっと、いけませんね」
「あ? なんすか?」
先生が先に宝石を手に取った。
「確かにここに宝石はあります。ですが、勝手に机を開けるのはよくありませんね」
おかしい。原作だとこのまま「見つかっちゃいましたか」と笑って済ませてくれるハズだったのだが。
もしかして、早くに来過ぎたのだろうか?
「表に出ましょう」
そう言って先生は、校舎裏へと出て行ったので花とゲイルは追いかけた。
「どういうつもりなんすか?」
「すみません。実はある程度時間が経過しないと、渡してはいけないというマニュアルなのですよ」
「そうっすか。じゃあなぜ表に?」
「私に勝てたら、渡しても良いということにします。もっとも手加減はしますけどね。そちらはそうですね……アーツの直当てを許可します。もっとも、できればですけどね」
そう言うと先生は木刀を構えて向かってきた。ゲイルも同じく木刀で迎えうつ。
木刀同士がぶつかり合う音が、響く。
「ほぅ! 中々やるじゃないですか!」
先生は右手で眼鏡をクイッとしながら言った。まさかそこまで余裕があるとは……。
ゲイルは勝てるのだろうか?
『舐めやがって! クソが!』
いつも暴言ばかりのゲイルだが、流石に先生に直接暴言をはくということはせず、脳内で花にだけ聴こえるようにそう言った。
(僕も加勢だ! リーフカッター!)
アーツ【リーフカッター】を先生に放つが、服に当たっただけで全然ダメージを与えられなかった。服が破けるということもない。
(や、やっぱり弱いよな)
相変わらずの威力であった。
「前から思っていましたが、入学して間もないのに召喚獣持ちとは、レアですね! ですが、その召喚獣はお世辞にも強いとは言えませんね! もう少し鍛えることをおススメしますよ!」
「残念でしたねぇ! こいつはもうとっくにやることやってるんすよぉ!」
「なるほどです。ですが、結果には表れていないようですね」
確かにそうだ。いつもゲイルが特訓している時間は一緒に特訓しているが、全然成果に表れない。だからこそ、新たなアーツを獲得した際は喜んだのだ。
~「どうして君は努力ができないんだ? 何? 努力はしてる? 嘘をつくな嘘を! 頑張っていたらこうはならないだろ!」~
人間時代に言われた言葉が、花の脳裏をよぎった。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。ゲイルが押されているのだ。
「もっと来れますか?」
「クソが……俺は最強なんだ……俺は最強なんだああああああああああ!!」
ゲイルは木刀で連続で攻撃を叩き込むが、先生はそれを片手で持った木刀で受け止める。
『駄目だゲイル! 落ち着け!』
『何言ってやがる! 本気を出せば俺は最強なんだ! 心配するな!』
ゲイルがなぜここまで自信を持っているのか。SHFをプレイしていた当時の花は知らなかった。だが、今なら分かる。ゲイルは努力家で努力の力を信じているからだ。だからこそ、自分のことも信じられるのだろう。しかし、今はまだ敵う相手ではない。
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