第16話 最強

「よし! できたぞ!」

「あ? 何ができたんだ?」


 その日の放課後。明日のオリエンテーションに備えていつもの森で、特訓を行っていた。

 そして、花は新たなアーツを取得することに成功した。


 本来であればアーツを取得することは難しいのだが、モンスターだからだろうか? ゲイルがアーツを取得していないのにも関わらず、新たなアーツを得ることができた。


「ゲイル見てくれ! 僕の新しいアーツを!」

「ったく、うぜぇ。こっちはまだなんもアーツないんだぞ? ずりぃなおい」

「まぁまぁ! 僕はゲイルの召喚獣だし、僕の強さ=ゲイルの強さでもあるだろ?」

「それもそうだな。見せてみろ」

「ああ!」


 このアーツは夜になると使用することができない。正確に言うと、少しでも良いので日の光が必要なのだ。

 幸いまだ外は暗くなっていないので、木に向かってアーツを使用する。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 吸収した光を光線に代えて、花の顔から発射された。

 有名モンスター育成ゲームに登場する、ソーラーなビーム的な技である。


 そして。


「はぁはぁ……どうだ! これがアーツ【シャイニングブレイザー】だ!」

「馬鹿じゃねぇの? 期待させやがって!」


 発射された光線はかなり細く、薄かった。

 だが、ヒットした個所はよく見ると少しだけ煙が出ている。


「確かにショボいけど、新しいアーツだぞ!」

「んなもん使えっかよ! ちっ……やっぱ俺がもっと強くならねぇと駄目みてぇだな!」



 そして翌日。オリエンテーション当日となった。

 教室でオリエンテーション担当の先生が説明をする。


「このオリエンテーションでは、他のクラスも参加します。ですが、順位に関しましてはクラス内でそれぞれ順位が付きます。それと今回のオリエンテーションのルールですが、武器に関してはこちらで用意したものだけを使用してください。スキルが使える生徒は、使用してもよろしいですが、相手を直接傷付けるタイプのスキルの使用は不可とします。アーツに関しましては直接相手に当てなければ良しとします」


 つまりは、花のスキルも問題なく使用できるという訳だ。

 もっとも、使う機会があるのかは不明だが。


 使う武器と言うのは、例えば剣だったら木刀。弓だったら、先端が丸いものを使用してくれとのことであった。

 ゲイルは普段剣を使っている為、木刀を受け取った。


「宝石を3つ集めたら、この教室に戻って来てください。それではスタートです!」


 オリエンテーションが始まると、皆教室から次々と出て行く。


「私とメグは体育館に行くわ。ミストは校庭。ゲイルは校舎内を探して頂戴」

「仕切りやがって……クソが!」


 ローナの発言にゲイルはキレそうだが、探索ポジションに関しては、SHFのシナリオ通りである。


『ゲイル。職員室に行くぞ』

『お前まで仕切んじゃねぇぞ! ま、俺は心が広いから許すけどな!』


 花はゲイルと共に職員室へ向かうと、中へ入る。

 流石に最初にここに来る生徒はいないので、先生達がこちらを見てきた。


『ここだ!』


 花は担任の先生の机に飛び乗り、ゲイルに場所を指示した。


『ヒャハハハ! 早速いただきだぜ!』


 ゲイルは担任の先生の机を開けて、青い宝石を取ろうとしたのだが。


「おっと、いけませんね」

「あ? なんすか?」


 先生が先に宝石を手に取った。


「確かにここに宝石はあります。ですが、勝手に机を開けるのはよくありませんね」


 おかしい。原作だとこのまま「見つかっちゃいましたか」と笑って済ませてくれるハズだったのだが。

 もしかして、早くに来過ぎたのだろうか?


「表に出ましょう」


 そう言って先生は、校舎裏へと出て行ったので花とゲイルは追いかけた。


「どういうつもりなんすか?」

「すみません。実はある程度時間が経過しないと、渡してはいけないというマニュアルなのですよ」

「そうっすか。じゃあなぜ表に?」

「私に勝てたら、渡しても良いということにします。もっとも手加減はしますけどね。そちらはそうですね……アーツの直当てを許可します。もっとも、できればですけどね」


 そう言うと先生は木刀を構えて向かってきた。ゲイルも同じく木刀で迎えうつ。

 木刀同士がぶつかり合う音が、響く。


「ほぅ! 中々やるじゃないですか!」


 先生は右手で眼鏡をクイッとしながら言った。まさかそこまで余裕があるとは……。

 ゲイルは勝てるのだろうか?


『舐めやがって! クソが!』


 いつも暴言ばかりのゲイルだが、流石に先生に直接暴言をはくということはせず、脳内で花にだけ聴こえるようにそう言った。


(僕も加勢だ! リーフカッター!)


 アーツ【リーフカッター】を先生に放つが、服に当たっただけで全然ダメージを与えられなかった。服が破けるということもない。


(や、やっぱり弱いよな)


 相変わらずの威力であった。


「前から思っていましたが、入学して間もないのに召喚獣持ちとは、レアですね! ですが、その召喚獣はお世辞にも強いとは言えませんね! もう少し鍛えることをおススメしますよ!」

「残念でしたねぇ! こいつはもうとっくにやることやってるんすよぉ!」

「なるほどです。ですが、結果には表れていないようですね」


 確かにそうだ。いつもゲイルが特訓している時間は一緒に特訓しているが、全然成果に表れない。だからこそ、新たなアーツを獲得した際は喜んだのだ。


~「どうして君は努力ができないんだ? 何? 努力はしてる? 嘘をつくな嘘を! 頑張っていたらこうはならないだろ!」~


 人間時代に言われた言葉が、花の脳裏をよぎった。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。ゲイルが押されているのだ。


「もっと来れますか?」

「クソが……俺は最強なんだ……俺は最強なんだああああああああああ!!」


 ゲイルは木刀で連続で攻撃を叩き込むが、先生はそれを片手で持った木刀で受け止める。


『駄目だゲイル! 落ち着け!』

『何言ってやがる! 本気を出せば俺は最強なんだ! 心配するな!』


 ゲイルがなぜここまで自信を持っているのか。SHFをプレイしていた当時の花は知らなかった。だが、今なら分かる。ゲイルは努力家で努力の力を信じているからだ。だからこそ、自分のことも信じられるのだろう。しかし、今はまだ敵う相手ではない。

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