第19話 主人公ミストの潜在能力

☆花


 ゲイルは今、校舎内で原作通り、他パーティーの宝石を破壊して回っている。

 本来であれば、あまり行儀の良い行為ではないのだが、ただでさえ原作とは違う部分が多いのだ。原作と合わせられる所は、合わせておきたい。もっとも、悪事は駄目だが。


(まぁ、ルール違反じゃないしいいよな)


 この世界はおそらく、スキル・ハーツ・ファンタジアが元となっている世界だ。

 つまり、ゲーム。利益を得る為にゲーム会社が実際に販売したゲームが元ネタの世界だ。


 となると、基本的にメインキャラは性格が良く、曲がったことはしない主義のキャラが多い。

 だが今の花にとって、この世界は現実なのだ。現実の世界だとすれば、少しズルいことをするのもおかしなことではない。むしろこういった知恵を働かせる経験は、ゲイルが大人になった時に役立つハズだ。


(この世界じゃ、どうか分からないけどね)


 どちらにしろ、今回はゲイルの行動を否定するつもりはない。

 原作でも、先生達はゲイルに対して注意はしなかった。最初は他の生徒も不満そうだったが、先生が「反則行為ではない」と言うと、大人しくなった。では、なぜそんなイベントがあったのかと言うと、おそらくプレイヤーのヘイトをよりゲイルに向ける為だろう。


(さてと、校庭に向かうとするかな)


 今花は校庭に向かっている。ゲイルに臆病なミストが心配だということを話したら、「俺はいいから、泣いてたら助けてやれや」と言われたからである。

 ゲイルも心配は心配だが、原作でもこの時点だとかなり強いキャラではあったので、まぁ問題ないと言えば、問題ないだろう。


「反撃しないのか! 仕方ないから俺はもう行くぜ!」


 校庭に到着すると、とある男子生徒が倒れている生徒に対してそう言うと、その場を去ろうとした。

 倒れている生徒は、なんとミストであった。


(ミスト!? やられたのか!?)


 原作のミストであれば、このようなことは無かった。

 やはり性格が変わったことで、シナリオも原作通りには行かないのだろう。


「まだ……だ! まだ終わってないぞ!」


 だが、ミストも立ち上がる。


「無理するんじゃないぜ! この宝石は俺達のパーティーで貰うから倒れていてもいいんだぜ?」

「ふざけるなぁ!」


 弱弱しいが、おそらく本人としては精一杯の叫びだったのだろう。


「ふざけるな? 俺に勝てると思っているのか?」

「そ、それは……」


 いや、そこは「ああ!」とでも言うべきだろう。

 これでは、まるで人間時代に花が図星をつかれた反応ではないか。


「なんなんだぜ?」


 花はミストと男性生徒の間に入り、男子生徒を見た。


「なんだお前? 野生のモンスターじゃ無さそうなんだぜ」

「花? もしかして、助けに来てくれたのか!? ありがとう! で、でも……」


 一瞬希望に満ち溢れた表情をしたミストであったが、花を見下ろすと、また弱気な表情に戻った。


「どうした?」


 ミストにだけ聴こえる声で、花は言った。


「花って、強いの?」


 花はミストの前で戦闘を行ったことがない。


「弱い」

「だ、だよな」


 中々に失礼な反応である。

 だが、弱いのはあくまでも花自身の話だ。


 他人の強さを引き出すことはできる。

 この勝負、ミストがいるから勝てるのである。


「ミスト、体を借してくれないか?」

「体を……え!?」

「大丈夫だ! ゲイルもやったし、アミルもやった!」

「ア、アミルも!? で、でも、無理だ! どうやってボクの体で勝つんだよ! というか、体を借りるって、どういうこと!?」

「大丈夫だ! なんとかなる! 多分……。とにかく行くぞ!」

「え!? えーっ!?」


 花は植木鉢から抜けると、大きくジャンプし叫ぶ……訳にもいかないので心の中で叫ぶ。


(スキル発動! 【寄生】!)


 花の頭に絡みつくと、無事に成功した。


「なんなんだぜ? 頭にモンスターを咲かせて、何が強くなったんだ?」

「滅茶苦茶強くなったぞ」

「ハッタリだろ?」

「それはどうかな?」


 ミストに寄生したのは初めてだ。どのくらいまで持つか分からない。

 ここは一気に決めよう。


「腹パンチ!」


 相手は何も武器を持っていない。ただその拳で、ミストの腹を殴ろうと迫って来た。

 花はミストの体をジャンプさせ、とある場所を狙う。


 狙うは、地面だ。地面に大技を食らわせて、その衝撃で相手を吹っ飛ばす。

 アーツの使用は、直接相手に当てなければ良いのだから。


(食らえ! アーツ発動! 【シャイニングブレイザー】!)


 花の力だけでは、ただ少し焦がすくらいの威力しか発揮できなかったアーツを、ミストの体で発動させる。


「うおりゃああああああああああああああああああああああああ!!」


 地面に向けたミストの両手の平から、黄色の極太光線が発射された。


(やばっ! ミストの力凄い!)


 その威力は凄まじく、技を放った反動で、ミストと花も吹っ飛ばされてしまう。


「なんなんだこれはああああああああああああああああああああああああ!!」


 相手の男子生徒は、花達よりも大きく吹き飛ぶ。

 辺りが砂煙で覆われている。その隙に花は寄生を解除して、赤い宝石を奪い返した。


(地面にクレーターみたいなのができてる……これはやばいアーツだな。いや、僕自身の力だけじゃ大した威力は出なかった。ミスト……流石は主人公だな!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る