第13話 オリエンテーション

「ということで、皆さんにはオリエンテーションとして宝探しをしていただきます」

(オリエンテーションイベントか……確かキャラ紹介をねたイベントだったな)


 翌日学校へ行くと、朝のホームルームで先生がオリエンテーションについて話した。

 宝探しのルールは簡単だ。先生達が学校中に隠した宝石を先に3つ見つけたチームから順位が付く。


 オリエンテーションの結果は成績に影響しない……ということもなく、成績にバッチリ影響する。

 今はまだ花とゲイル以外誰も知らないが、2年生に上がる際に最下位だったパーティーは強制的に退学となる。これに関しては今年からスタートする制度なので、知らないのも当然だ。メタ的なことを言うと、プレイヤーへのサプライズ要素なのだろうが、花が人間時代にいた世界であれば暴動ものだろう。


『あ? 先生、退学について話してねーな』

『後3か月くらいは明かされないからね』

『汚ねぇ』


 できればこのオリエンテーションでは1位を狙いたい。

 そもそも最下位でなければ、ゲイルはミストを追放したりはしないだろうから。


~「皆さん、大事なお話があります。残念ながら、最下位のパーティーは退学となり進級することができません。3学期が終了するまでに、頑張って最下位を免れてください」~


(担任の先生からこの言葉が出た時はびっくりしたな)


 誰も死なないとはいえ、ちょっとしたデスゲームである。

 だが、プレイヤーからしてみれば面白い展開になって来たと感じる場面でもある。もっとも、実際にその世界の住人となってしまった今であれば、笑えないのだが。


『そういや、この世界そっくりな……遊べる小説みたいな……』

『ゲームのこと?』

『そうだそれ! その通りに話が進むんならよ、宝石の隠し場所も分かるんじゃねぇか? だったら楽勝だろ!』

『ある程度はね』


 スキル・ハーツ・ファンタジア。略してSHFはノベルゲームだ。RPGであれば、正確な位置が分かるのだが、ノベルゲームなので校庭や体育館などといった大雑把おおざっぱな場所しか分からない。


(1つを除いてね)


 1つは職員室の担任の先生の引き出しに入っている。これに関しては詳細な描写があった為、確定だ。


『ノーヒントよりは全然いいな! ヒャハハハ! これで1位はいただきだぜ!』


 ゲイルはニヤリと笑うと、舌で口周りを舐め回した。



 翌日。


 さて、オリエンテーションは明後日だ。

 本日は普通に授業がある他、かなり大事なことも行う。


「皆さん、名前を呼ばれた方はこの水晶玉に触れてください」


 スキルについての授業だ。


「さて、皆が触れ終わるまでにスキルについて軽く説明します。おそらく、知っている方も多いとは思いますが」


 スキルとは、1人に1つずつ備わっている特殊能力だ。

 生まれた際に体に宿しているのだが、ロックのようなものがかかっている。それを解除するには様々な条件がある。もっとも、その条件は解明されてはいないのだが。


 そして、そのロックの解除を大幅に手助けするのが、あの水晶玉である。


(条件についてはボカしておいた方がゲームの製作者的にもいいんだろうな。ピンチの際に覚醒する演出とかも作りやすいだろうし。というか、ミストの覚醒とかそんな感じだし)


「はい! 先生! スキルってどうして1人1つだけなんですか!」


 ゲイルのパーティーメンバーである、メグが元気よく手を挙げた。


「簡単なようで難しい質問ですね」


 先生は「う~ん」と、右手を顎に当てて5秒くらい考えると答える。


「1人1つしか授かれないから……としておきましょうかね。すみません。スキルについては解明されていないことが、まだ沢山あるのですよ」

「先生でも分からないことが、まだまだあるんですね!」

「そうですね。だからこそ、学ぶということは面白いのです」


 先生がスキルについての説明を終えた頃に、全員が水晶玉に触れ終えた。


『俺の飛行スキルがうなるぜ! でもなんでだ? なんだか使える気がしねーぞ!』

『あの水晶玉は、あくまでも取得の手助け的なものだからね。いつも通り努力を続けていれば、君の覚醒は大体今から数えて2週間後くらいかな?』

『面倒なこったなぁ!』



 放課後。とある空き教室にて。


「という訳で、絶対に勝つわよ!」


 オリエンテーションに向けて、パーティーで作戦会議をすることになった。


「ったく、あたりめーだろ! ま、最強の俺がいれば楽勝だけどな!」


 ゲイルはいつも通り笑うのであった。


「最強って……今回はあくまでも宝探しよ? 最強かどうかは関係ないんじゃないのかしら?」

「それがそうでもないんだぜ?」


 原作において、ゲイルは他パーティーの順位を下げる為に、他パーティーが持っている宝石を破壊していた。

 一見反則のようだが、ルール上は反則行為ではない。ただ、ゲイルの手段の選ばない性格は、プレイヤーに無事伝わった。


「でも、宝探しだったら私も皆の役に立つよね!」

「そうね」


 現時点ではメグのように戦闘能力やアーツを持たないものも多い。その為、このようなオリエンテーションなのだろう。


「それだったら、ボクだって!」


 ミストは控えめなガッツポーズをすると、口角を上げた。


「後、このチームにはゲイルがいるからな! きっと1位だ!」

「はぁ?」


 ローナは呆れたようにため息をつきながら言った。

 ミストはゲイルに向けてウインクを飛ばす。非常にかわいらしい。


「ゲイルはもうスキル使えるんだもんな! 未来が見えれば楽勝だ!」


 ミストは、ゲイルとその隣にいる花以外には聴こえないように、こっそりと言った。


(そういえば、ミストはゲイルが未来を見るスキル持ちだと思っているんだよな)


 ミストとその妹であるアミルは、ゲイルが未来を見るスキルを持っていると思い込んでいる。もっとも、それはゲイルが最初にそう言ったからなのだが。

 スキルは1人1つしか持つことができない。なので、後々ゲイルが飛行スキルを取得した時の為に、何か良い言い訳を考えておくとしよう。


「ガキが……任せておけ!」


 ゲイルは嬉しそうにニヤリと笑うと、右親指をグッと立てた。

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