第12話 ヒロイン2人

「なんで笑っているの?」

「ククク……さぁな?」


 ゲイルの体は小刻みに震えている。おそらく、怒りを抑えているのだろう。


「まぁいいわ。次は私の番ね」


 そう言うと、彼女は自己紹介を始める。


「私の名前は、【ローナ・アーチャー】よろしくお願いするわ」


 その名の通り、原作で彼女は弓を使用する。

 別にアーチャーだからと言って、特に弓の一族とかに生まれた訳ではない。


 プレイヤーに対して、弓使いということがすぐ分かるように、このような名前なのだろう。


「使うのは、この弓よ」


 ローナが机の上に出したのは、銀色のシンプルな弓であった。あまり強い弓ではないのだが、そこは彼女の腕前でカバーしている。


(ローナは入学前からアーツを使用することのできる優秀なキャラだ。そして、入学後に取得するスキルも強力だ)


 ローナはパーティーメンバーの中で、最初にスキルを獲得する。

 そのスキルの効果は、飛び道具を放つ際に照準を自動で合わせてくれるスキルだ。相手の姿が見えていないと発動できないが、それでもかなり強いスキルと言える。


(金髪ツインテール、ツンデレ、優等生……うん。やっぱり色んな作品で見たことがあるようなキャラだぞ……)


 だが、やはりそういったキャラは人気が高いものである。


(絶対に敵には回したくないな。ゲイルが取得する飛行スキルと相性が悪過ぎる)


 本来は仲間なのでこのような心配は要らないハズなのだが、ゲイルは元々ざまぁ要因として用意されていたキャラだ。ミストが臆病だとしても、安心はできない。ローナなど、他のキャラにざまぁされる可能性も高いからだ。

 ローナと戦闘になった場合、おそらく負けるだろう。そうなれば、ゲイルの身が危ない。


(それにローナは原作でも、ゲイルのことを本気で嫌っていたからな)


 ローナはツンデレキャラだ。仲間に対してツンツンとした言動をする彼女だが、実は素直になれないだけで、本当は仲間を心配しているのだ。

 だが、ゲイルに対してだけは別だ。彼女はゲイルのことだけは、本気で嫌っている。デレなんてものはない。


(まぁ、ゲイルは普段の言動もそうだし、何よりミストのことを殺そうとした訳だし、仕方ないけどな)


 ローナは異性として、ミストにかれていく。

 そんなミストを殺そうとした男が死んだ所で、悲しまないのは当然なのかもしれない。


「うぅ……皆凄いよ!!」


 目を輝かせるように発言したのは、銀髪ポニーテールの少女であった。


「そうかしら?」

「うん! 私なんて、まだなんの武器を使うかも決めてないからさ、えへへ」


「へっ! 俺の凄さを見ぬくたぁ、分かってるじゃねぇか! じゃ、最後の自己紹介を始めてくれや」


 ゲイルがそう言うと、銀髪の彼女は自己紹介を始める。


「私の名前は、【メグ・ルジェンエ】だよ! 皆! よろしく!」


(メグは確か、天真爛漫てんしんらんまんで優しいキャラだったな。ゲイルの死を聞いた際にも、涙を流していたくらいにはいい子だ)


「好きな食べ物は、バニラアイスです!」

「俺はチョコアイスの方が好きだな!」

「私も一番好きなのはバニラだけど、チョコも好きだよ!」

「そうか!」


 このような感じで、ゲイルとの仲もそこまで悪くない。

 メグは空気を和ませる要因としてもかなり優秀で、彼女がいなければゲイルのウザさに耐えられなかったというプレイヤーも多い。


「武器はさっき言った通り、何を使うかまだ決めてないんだ……う~ん」


 メグが取得するスキルは、サポート系のスキルだ。

 最終的には前に出ての戦闘はせずに、主に後方から支援するキャラとなる。


(メグに関しては心配しなくても大丈夫そうだな)


 原作とは違うイベントでも起こらない限り、敵に回ることはないだろう。

 


 自己紹介が終了すると、本日は解散となった。

 花はゲイルと一緒に寮へと向かう。


『ゲイル、仲良くできそうか?』

『できるわきゃねぇだろうが! ……と言いたい所だが、ミストとメグに関しては、まぁ邪魔しなけりゃ、一緒にやっていってもいいって感じだな』

『ローナは?』

『あいつとは合わねーな! なんであいつあんななんだ!?』


 そういうキャラだからである。


『言動はそうだけど、本当は仲間想いでいい子なんだよ』

『そうなのか?』

『うん。“仲間”に対してツンツンするのは表だけで、裏では心配してくれているんだよ』


 別に嘘は言ってない。キャラ説明にもそう書いてあったのだ。


『本当にそーかねー? で、ローナとメグはどんなスキルを手に入れるんだ? 言え!』


 花は2人のスキルについて話した。


『中々に面白れぇスキルを手に入れるじゃねぇか! で、俺の飛行スキルとどっちがレアなんだ?』

『えっと……彼女達かな……?』

『なんだと!? 許さねぇ! もしかして、あいつらは俺より目立つ感じか!?』

『君の場合は途中で死ぬから、トータルでは彼女たちの方が目立つけど、生きている間は君の方が目立っていたよ』


 悪目立ちではあるが、プレイヤーの記憶にはこれから先も残り続けるキャラだということは、間違いないだろう。

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