第11話 ツンデレ

「それでは皆さん、早速ですがパーティーを組んでいただきます」

(ついに来たか……)


 眼鏡をかけた男性がそう言った。

 この優しそうな人が、ゲイルが所属するA組の担任の先生である。


「しかし、ご自由にという訳にはいきません。将来冒険者として……いえ、例え違う進路に進んだとしても、多くの場合は、意見の合わない人とも協力して仕事をしていかなくてはなりません。勿論、プライベートまで仲良くとは言いませんが、ある程度どんな方とでも仲良くできる能力が求められます。その為に、こちらでパーティーは決めさせていただきました」


 A組は全員で20名だ。20人1クラスは少人数だとは思うが、ここではこのくらいがスタンダードなようだ。


「とは言いましても、私はあなた達の交友関係や性格などをまだよく知りませんので、ランダムで決めさせていただきました。それでは発表します!」


 先生は、黒板に生徒の名前をチョークで書き込んでいく。それを皆ドキドキしながら見ている。中には興奮で声をあげている者もいた。

 しばらく経つと、生徒全員の名前が黒板に書かれた。やはりここはSHFの世界かそれに限りなく近い世界ということらしく、花の記憶の通りにパーティーが完成していた。


『そういや、パーティーメンバー全員がどんな奴かは聞いてなかったなぁ!』

『そ、そうだった。ごめん』


 ミストを追放させないことばかりを考えていたということもあり、パーティーメンバーについては、ゲイルに詳しく話していなかった。


『まぁいい! どうせ俺より雑魚だろ!』

『雑魚ではないかな』


 主人公の所属するパーティーということもあり、皆中々に強い。



 席を移動して、パーティーメンバー同士が近い席となった。


「それでは、各パーティーメンバー同士で自己紹介をしてください」


 先生がそう言うと、各パーティー内での自己紹介が始まり、辺りがざわざわし始めた。

 ゲイルはニヤリと笑うと、このパーティー内で一番最初に発言をする。。


「俺の名は、ゲイル・ユグド! 最強の男だ! お前ら! 足引っ張んじゃねーぞ! 特に雑魚そうな、ミスト! 足引っ張ったらただじゃおかねーからな?」

(これだと、第一印象印象最悪過ぎない!?)


 ゲイルはいつもの調子で自己紹介をしたが、パーティーメンバーの皆はどこか不快感を感じているようで、眉を歪めていた。

 ミストはそれに加えて、少し怖がっているような表情だ。


「あ、あの……ボク自己紹介したかな?」

「あ?」

「いや、どうしてボクの名前が分かったのかなって……」

「ククク……どうしてだろうな?」


 ゲイルは邪悪な笑みを浮かべながら、腕を組む。


「こいつが答えだ!」


 ゲイルは花を召喚石から机の上に召喚する。


「朝来た時も一瞬出したんだが、気が付かなかったのか?」

「あ、花さん!?」


 人間の言葉を話せることは内緒な為、花はコクリと頷いた。


「おおっと! これじゃ召喚獣を自慢してるみてぇで悪いな! ヒャハハハ!」


 10秒くらい教室中に響き渡る勢いでゲイルは笑うと、ミストに言う。


「次お前だ!」

「ボク!? えっと、ミスト・ラシルです……よろしくお願いします!」

「そういやお前武器持ってねぇな? 何使うんだ?」

「剣にしようかなって思ってるよ」

「剣か……俺もだ!」


 背中に背負っている為、誰でも分かる。


「えーと、君……ゲイルでいいかな?」

「タメだし、別に構わねぇぞ」

「ありがとう。そういえば、アミルが話してくれたゲイルさんって、君のことだったんだね。てっきり、別なゲイルさんかと思っていたよ」

「あ? あたりめーだろ! 俺はあいつを救った英雄だぞ!」

「いや、なんだか聞いていたイメージと結構違うからさ……」

「無理はねぇさ。又聞きじゃ、俺の魅力全てを伝えるのは無理だろうからな」


 おそらくアミルは、ミストにゲイルのことを話す際に、「助けてくれた優しいお兄さん」とでも言ったのだろう。

 だが、実際は口が悪く態度も大きな男であった。


 もっともゲイルのご機嫌な様子を見ていると、そんな考えは彼の頭には無さそうではあるが。


(これでゲイルとミストの自己紹介が終わった。後は……)


 花は2人のパーティーメンバーを交互に見た。


(ヒロイン候補2人だ)


 SHFはノベルゲーということもあり、エンディングがいくつか存在する。

 エンディングは基本的にヒロイン候補1人につき、1つずつ用意されている。


 そして、今このパーティーにはミストのヒロイン候補が2人いる。


「はぁ、呆れるわね」


 金髪ツインテールにキリっとした目……二次元コンテンツに詳しければ、多くの人がツンデレと一目で分かるような外見の彼女が言った。


(このキャラ凄い人気あるんだよな。確かにザ・ツンデレでかわいいんだけど……こう、どこかで見たことのあるキャラだ。いや、完全にオリジナルのキャラっていうのは存在しないとは思うけどさ、あまりにもテンプレートなキャラだ。まぁ、実際にゲームを売るとなれば、こういうキャラは必要なのかもしれない。一目見ただけで、どんなキャラなのかを簡単に想像できるキャラがいれば、その安心感からとりあえず買ってくれる人もいるだろうし。マックドナルドのハンバーガー的な? ……って、そういう考え方、今は駄目だよな。あくまでもゲームに似た世界で、ゲームそのものじゃない訳だし (多分))


「呆れるだぁ?」

「ええ、特に貴方にね」

「あ? そりゃどういうことだ! 言え!」

「そういう所よ、すぐに大声を出す所とか、凄く馬鹿っぽいもの。しかもさっき自分で自分のことを最強とか言ってなかった? 恥ずかしくて、私はそんなこと言えないわ」

「ざけんじゃねーぞ! あ゛あ゛っ゛!?」


『ゲイル落ち着け!』

『落ち着いてられっか! 馬鹿にされてんだぞ!』


 本来であれば、2人の喧嘩を止めるのはミストの役目なのだが。


「……」


 ここにいるミストは、ただ顔を青ざめさせているだけであった。普通の男の子であれば当然の反応とも言える。


「まぁ、いいわ。とにかく、そのうるさいのは止めて頂戴」

「くそがっ……!」


『ゲイル! こらえるんだ!』


 このままでは、例えミストを追放しなくとも、ざまぁ要因になってしまう。


『頼む! 君だって死にたくないだろ!?』

『ここで黙ったら、負けたみてーで、クソ腹立つ!』


 そもそも、ゲイルが騒ぎ過ぎたというのもあり、まぁ彼女の言い分も正しいのだが、ここはとにかくゲイルを落ち着かせることを優先しよう。


『いいか? 怒るっていうのは、疲れるし、体力だって使う』

『たりめーだろ! キレるっつーのはそういうことだ!』

『君は自分が嫌いな相手を怒って疲れる訳だが、悔しくないか? 向こうは君がキレても、なんとも思ってないんだぞ?』

『だったらどーすりゃいーんだ!? ああ!?』

『僕だったら表では反省した感じを精一杯出すけど、君の場合は無理そうだから……クールに振舞ってみたらどうだ?』

『クールにだぁ?』

『ああ! このまま怒ったら、「私の為に力を使ってくれて、ご苦労さん!」とでも思われるかもしれないぞ!』


 ちなみにこれは花が人間時代に怒られていた際に、脳内で考えていたことである。


『そいつはムカつくな……! くそがっ! 本当だったらキレ散らかしてぇが、俺は心が広い善人だからな! 今回だけは特別サービスだぜ!』


 脳内での会話が終了すると、ゲイルは腕を組む。


「クックック……!」

「あら? どうしたのかしら? 怒るのは止めたの?」

「クックック……!」


 ゲイルは怒りを隠し、ニヤリとした表情で、ひたすら不気味に笑うのであった。

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