第6話 マッチポンプだな

「ゲイル!」

「あ? んだよ。別に言うなっつってねーだろ?」


 確かにそうだが。

 2人のやり取りを見て、アミルは少し困ったような表情でニコリと笑う。


「絶対に隠しスキルのことは言いませんので、喧嘩はやめてください!」


 隠し”スキル”ではなく、別に喧嘩でもない。

 花も怒りというより焦りの方が強く、そして何よりゲイルはいつも口が悪い。


「だとよ。良かったな!」


 バレたからと言って、今すぐどうとなる訳でもない。

 だが、未来が見えるという情報が広まり過ぎるのも良くないと考えている。


(どうストーリーが動くか分からないからな)


 ある程度この世界の元となったSHF通りであれば、次の展開は予想できる。

 だが、あまりにも外れてしまうと完全に初見プレイで生きていかなくてはならない。


 ここに来る前はなんの取り柄もないただの人間であった花にとって、そうなってしまうことは避けたかった。

 ゲイルに関しては、そもそも死亡フラグを回避しなくてはならない為、話しておいて正解ではあるのだが。


「随分とお困りなようだなぁ!」


 アミルを安全な場所まで見送った後、ゲイルは言った。


「当たり前だろ! 下手をすると未来のことが分からなくなるからな!」

「ま、だろうな! けど、俺からしてみりゃ、まだお前を完全に信用できてはいねぇからな。そこだけは覚えておけよ?」

「それは仕方ないと思っているよ」


 むしろ、完全にではないが信用してくれたことに感謝だ。

 いきなりこの世界はゲームの世界が元になっていて、近い将来死ぬと言われたら、誰だって信じることは難しいだろう。


「そういや、お前スキル使えんだよな?」

「ああ。モンスターでもスキルが使えるのはいるのは知ってるだろ?」

「けど、それってかなりレアなケースなハズだぞ?」

「そもそも僕自体がかなりレアなケースだからじゃないか?」

「確かに、別な世界とやらから来たと考えると、かなりレアではあるな」


 そういえば、この前使用したスキル【寄生】。本来のSHFには設定のみ登場するスキルだった。描写は無かったが、このスキルを使えるスターフラワーも存在したということだろうか?


「ま、昨日みたいに体を貸すのはもう無しだからな?」

「できるだけ自分の力で戦えるようにしてみるよ!」

「あたりめーだろ!」


 こうして、アーツを放つ修行が開始された。

 だが、この日花はアーツを放つことはできなかった。



「お待たせしました!」

「「へ?」」


 本日も、アミルが手作り弁当を差し入れに来てくれたのだが、なぜかメイド服であった。


「えへへ、似合いますか?」

「な、なんでそんな恰好してんだよ!」

「昨日、いいメイドになれるって言ってくれたじゃないですか! なので、まずは形からです!」

「そ、そうかよ……けっ!」


 ゲイルは少し照れているのか、アミルから目線をらした。

 そういえば、料理が上手いのであれば料理人がまず思い浮かぶと思うのだが、ゲイルはまず最初にメイドを挙げていた。


(もしかして、ゲイルはメイド服が好きなのか? そんな設定初耳だぞ)


 裏設定という奴なのだろうか?

 そもそも、ゲイルに関しては本編でそういった描写がない為、不明なことが多過ぎる。


「僕は似合っていると思うよ!」

「本当ですか!?」


 アミルは10歳なので、本職のメイドというよりも、コスプレしているみたいだ。

 しかし、それでも凄く似合っている。サラサラなセミロングの黒髪が風になびいている。


「おい! 調子に乗ってんじゃねーぞ!」

「ちょっと! アミルちゃんは君が喜ぶと思って言ったんだぞ! そういう言い方は……」

「お前だよ! お前に言ったんだ! ぼけが!」

「ええ!?」


 ゲイルは花を召喚石に収納した。


「ったくよ……ま、いいんじゃねぇか? 100点満点中、20点だ!」

「20点ですか……厳しいですね」

「ああ! 俺は厳しいんだ!」


 ゲイルは腕を組んで、自信満々の顔でニヤリと笑った。


「ちなみに弁当は30点だ!」


(あんなに美味しそうにガツガツ食べていたのに、何言ってんだ! しかも昨日寮で夕食食べた時、アミルちゃんのお弁当を恋しがっていたのを僕は聴いたぞ! 君は好きな子に意地悪をする小学生か!)


「そ、そうですか……」

「どうだ! がっかりしただろ!」

「あの……もしかして私、迷惑ですか?」

「あ? んで、そうなんだよ」

「あまりにもその……点数が低いので……」

「ちょっ! 泣くなし!」


 ゲイルの表情が、慌てた表情に変わった。


「な、泣いてないですよ!」


(涙目には、なってるぞ! ゲイル! お前泣かせるなよ!)


「いいか? 勘違いするなよ? 基本的に俺は点数は付けない。なぜか分かるか?」


 アミルは首を傾げた。


「点数を与えるに値しないカスばかりだからだ!」

「そうなのですか?」

「ああ! それに100点を付けるのはお前が一人前のメイドになってからになってからだ! 今からそんな高得点でどうする! お前はまだまだ上に行けるだろ?」

「は……はいっ!」


 アミルは表情を明るくして、頷いた。

 目に溜まっていた涙が、頬を伝って流れ落ちた。


(なんか急に良い奴っぽくなってるけど、そもそも泣かせたの君だからな!?)

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