第7話 アーツ

「ゲイル! 駄目じゃないか!」


 アミルを安全な場所まで見送った後、召喚石から解放された花はゲイルに説教……というか、注意をしていた。


「仕方ねーだろ! ったく」

「何が仕方ないんだ?」


 ゲイルは目を逸らして言う。


「照れちまったんだよ! あぁ!? わりぃーかよ!! あ゛あ゛!? おちょくってんじゃねーぞ! ぼけが!」


 不機嫌になったのか、ゲイルは一足先へ寮の方向へと歩いて行った。


「ツンデレ……いや、ツンギレか。とりあえず、僕はアーツの練習でもしてようかな」


 獲得したいアーツは、リーフカッターだ。リーフカッターはその名の通り葉をカッターのように飛ばす技だ。

 有名モンスター育成ゲームで登場する、はっぱでカッターなあの技みたいな感じだ。おそらく、SHFの開発者もそれに影響されたのだろう。


「うおおおおおお!」


 2時間くらい特訓すると、なんと……!


「はああああああああああああああああああああああ!!」


 シュッ!


「はぁ……はぁ……やった! やったぞ!」


 前方の木をよく見ると、小さなかすり傷がうっすらとついていた。

 そう、リーフカッターによるかすり傷だ。花はついに、アーツを取得したのだ。


「けど、連発はできないな。それに、これじゃ普通のスライムを倒すこともできないだろうし」


 物凄い体力を消耗する上に、威力も低い。それに、まだ葉を1枚しか飛ばすことができない。

 ちなみに発射される葉は、発射する際に体内で生成される。


「それにしても疲れたな。そろそろ帰るか。ゲイルもそろそろ機嫌直ってるだろうしな」


 ゲイルは眠い時と空腹の際は機嫌が悪いが、それが解消されるとすぐに機嫌が良くなる場合が多い。


「あ、あの……!」

「ん?」


 もう夕方だというのに、またこの森にメイド服の少女、アミルが来た。


「もう遅いのに、どうしたんだ?」

「お財布を無くしてしまいまして……バレたら怒られてしまうので、その……」


 言いにくそうだ。多分、家族には隠して来ているのだろう。


「財布がこの辺りに落ちてるんだな! 僕も探すよ!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 その後、財布を捜索し始め30分が経過した。


「あったぞ!」

「あ、ありがとうございます! 良かったぁ……」


 財布が草むらの中から見つかった。

 アミルは安心したのか、右手で胸をそっと撫で下ろした。


「もう遅い。今日は家まで送って行くよ!」

「いえいえ! そんな!」


 と話していると……。


「プルァァァァ!!」


 後ろから、モンスターの鳴き声が聴こえた。


「あれは! ビッグスライム!」


 ビッグスライム。その名の通り2mくらいの大きなスライムである。


「アミルちゃん! 逃げるぞ!」

「そ、それが……腰が抜けてしまいました……」

「ええ!?」


 こうなったら、仕方がない。


「アミルちゃん! ごめん!」

「え!?」

「スキル発動! 【寄生】!」


 花は植木鉢から抜けるとアミルの頭上に乗り、頭に巻き付く。

 髪の毛で根っこが隠れる為、相変わらず頭の上に花が咲いているようなビジュアルだ。


「よしっ! 成功だ!」


 ビッグスライムは体の一部を触手のように伸ばし、花達に襲い掛かる。

 花はアミルの体を操り、ビッグスライムの攻撃をかわす。


「プルプルァ!」


 逃げようとした花であったが、ビッグスライムは行く手をふさぐ。


「倒すしかないってことか。でも、一体どうすれば……よし!」


 こうなったら一か八かだ。

 出力最大のリーフカッターを放ち、その隙に逃げよう。


 出力最大なら、ビッグスライム相手でも「いてっ!」くらいの威力は出せるハズだ。


「いくぞ!」


 花はアミルの体を操り、両手を前に出し彼女の口から彼女の声で叫ぶ。


「はああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 葉が発射された。だが、ここで花は驚きを隠せなかった。


(デカくないか!?)


 葉の大きさがかなり大きく、さらに鋭い。

 それはビッグスライムにヒットすると、その体を切断。


「プ……プルァァァアアアアアアァァァァ!?」


 ビッグスライムはそのまま粒子となって消滅した。


「す……凄い……!」


 そして、ビッグスライムの後ろにあった木が倒れた。

 どうやら、葉がそのまま後ろに飛んで行き、木を切断したようだ。


「……くっ!」


 花はアミルの頭上から、植木鉢に戻る。

 この前よりも、体力を大きく消耗しているように感じた。


「はっ! 私は何を!? モンスターは!?」

「モンスターなら、僕が……いや、僕達が倒したよ」

「え!? いつの間に!?」

「ごめん。体を借りた」

「体を? ああ! この前ゲイルさんとしていた、合体みたいな奴ですね!」

「合体……まぁ、そうかな」


 本当は寄生なので、合体なんていいものでは、ない。


「あの、体の方は、なんともない?」

「なんともないですけど……というか、お花さんこそ大丈夫ですか!? なんだか疲れてませんか!? 枯れちゃわないですか!?」

「ちょっと疲れただけだから大丈夫だよ」


 体全体から力を放出する感じだったので、アミルの体が心配な花であったが、本当になんともないようだ。

 寄生時のアーツの反動は、花が全て受けるのだろうか?


 それとも。


(主人公はスキルに覚醒してからかなり強くなる。潜在能力が凄まじいんだ。そして、アミルちゃんはそんな主人公の妹。ということは、もしかすると……)

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