第3話 頭に花を咲かせて戦う男

 花が持つ、スキル【寄生】。

 効果はその名の通り、生物に寄生して操るこというものである。


 寄生するには条件があるようだ。


 相手が自分よりも弱い、又は弱っている状態か。

 相手が寄生を受け入れるか。


 その2択だ。


 花はデスドラゴンを見る。

 見た感じ、どちらにも当てはまっては、いなさそうだ。


 自分より弱いというのが大雑把な説明で判断に困るのだが、どう考えても花よりは強い存在だろう。

 花はデスドラゴンには寄生できない。であれば、どうすれば良いのだろうか?


「くっそ……あんな奴、俺の剣技にかかれば……なんで動かねぇんだよ!」

「そうか!」


 動こうとするが、謎の力により動けない状態のゲイルの方を花は向く。

 この状況を打破するには、もうこの方法しかないだろう。


「体借りるぞ!」

「あ!?」


 スキルの使い方は、体に染みついている。まるで何度も練習してそれを会得したかのように。

 スキルというのは、そういうものなのかもしれない。


 花は植木鉢から抜け出すと、その勢いで上空へ大ジャンプをする。そしてそのままゲイルの頭に着地。根っこをゲイルの頭に軽く縛り付けるようにする。

 髪の毛で根っこが隠れている為、ゲイルの頭から花が咲いているビジュアルだ。ふざけているように見えるかもしれないが、大真面目だ。


「よっしゃああああああああああああ!」


 成功した喜びから、花は思わず叫んでしまう。とは言っても、声に関してはゲイルの口からゲイルの声で発せられているのだが。

 寄生した際は、基本的には寄生した方から声が出るようだ。


「できる……コントロールできる……コントロールできるぞ!」


 ゲイルを押さえつけていた謎の力に勝ったのか。それとも、寄生スキルのおかげでそういったものが無効になったのかは分からないが、少なくとも自由に動けるというのは確かであった。

 まるで自分の体のように動かせる。今の花……いや、人間時代の花の体を動かす際に比べても軽く感じる。それもそのハズ、ゲイルは確かに物語のポジションとしては小物悪役キャラだが、決して弱いキャラではない。


 花は剣を抜くと、デスドラゴンに向かって走る。


(そして……斬るっ! うわっ……これはグロい!)


 生物を斬るのだから、血が出てグロテスクな絵面になるだろう。そう覚悟していたのだが、そうでも無かった。元ネタがSHFなこともあってか、血は出なかった。代わりに青白いダメージエフェクトが表示された。

 だが、どれだけダメージを与えられているかは分からない。SHFはノベルゲームだ。ストーリーを読んでいく形で進めていくゲームなのだ。RPGなどのようにHPゲージが表示される訳ではない。


「グルルルルァ!」


 花の攻撃により、デスドラゴンの目が赤く光る。そのまま口から炎のブレスを浴びせようとして来たが、それもかわす。


(ゲイルって、こんなに強かったんだな!)


 本来のゲイルよりも、強く感じる。元々の強さなのだろうか、それとも寄生の効果で通常のゲイルよりもパワーアップしているのか。それは分からない。


「はあああああああああああああああああっ!」


 花はゲイルの体を上手く操り、攻撃をかわし剣での攻撃を当てる。それを繰り返すと、デスドラゴンは叫んだ後、粒子になって消滅した。

 肉になると思っていたのだが、残念ながらそうはならなかった。


(いくら襲ってきたとはいえ、できるだけ殺したモンスターは食糧しょくりょうにしたかったんだけど……)


 SHFは食糧について深く描写はされていなかったが、その辺りはどうなっているのだろうか?

 ドロップアイテムがあるという描写はあったのだが、そのような感じで肉もドロップするのだろうか? どちらにしても今回は何もドロップはしなかった。


「よっと!」


 花は寄生を解除すると、植木鉢に戻る。まるで自分の家かのような居心地の良さだった。


「あ? あ!? 俺は一体何を!?」


 ゲイルがキョロキョロと辺りを見渡す。すると、花達の所に女の子が走って来た。


「助けてくださり、ありがとうございます!」

「え?」

「なんとお礼を言っていいか……本当にありがとうございます!」

「へ? 俺なんかしたのか?」


 ゲイルはまるでとぼけているかのようだったが、本当に何も覚えていないのだろう。


「デスドラゴンを倒したじゃありませんか!」

「は? 俺が?」

「私に気をつかわせないように、そのような反応をしてくれているのですね!」

「ちげーよ! 確かに俺は最強だが、デスドラゴンを倒した覚えなんて無ぇぞ! 気付いたら消えてたんだよ!」

「またまた! 頭にお花を咲かせて戦っていたじゃありませんか!」

「花だぁ!?」


 ゲイルは花を睨みつける。

 まるで、「お前が俺の体で何かしたのか」とでも言いたそうな表情だ。


(ま、まずい! 怒ってる! 消されるぞ……!)


「あっ! お花さんにもお礼を言わないと! はじめまして! 私、アミル・ラシルと申します!」

「アミル・ラシル!!??」

「お花さんが喋った!?」


 どうやら本当に喋るとは、思っていなかったようだ。挨拶をしたのは、ゲイルの装備品か何かかと思って感謝の気持ちを伝えたのだろうか?

 いや、そんな場合じゃない。


(アミル・ラシル……間違いない。主人公の妹の名前だ……)


 ということは、本当は物語開始時点で殺されているハズの主人公の妹を助けたということになる。


(そうか。僕の考えが正しければ)


 先程ゲイルが動けなかったのは、本来のシナリオにあらがおうとしたからではないのだろうか?

 だとすると、ただでさえ難しそうなゲイルの死亡回避が更に難しいことになりそうだ。


(いや、できる! 実際に今回もアミルの死を回避できたじゃないか! 寄生があればなんとかなるかもしれない!)


 それに、今は人の命を救えたことを喜ぼうではないか。


「お花さん、どうして話せるの?」

「実はただの花じゃないんだ。スターフラワーって言うモンスターなんだ。あ、まぁモンスターは普通喋らないよね! 僕は普通じゃないんだ! あはは……」

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