第2話 召喚獣になってしまう

(というか、異世界転生って本当にあるのか?)


 だが、この状況。異世界転生の可能性が高い。


「嬉しいような。そうでもないような……」


 人間の頃の「私」の方の“僕”は、転生を信じていた。対して、「俺」の方の“僕”は信じていなかった。

 元々2つの存在が1つになったことにより、なんとも言えない気分になってくる。


(しかし、異世界転生だとすると、ここはどんな世界なんだ?)


 もし本当にこれがラノベのような異世界転生の場合、転生先の世界はどのような所なのだろうか?

 全く知らない世界に転生したのか。あるいは知っている世界……つまりは、プレイしたことのあるゲーム、又は視聴したことのあるアニメなどにそっくりな世界に転生したのか。


(せめて鏡で自分の姿を見ることができたら、その姿でどんな世界にいるのか分かりそうなんだけどな)


 今の所はクキのような部分があることしか分からない。


(今僕は植木鉢に植わっている。ということは……もしかして花か?)


 直感的に、そう思った。

 なぜそう思ったのか? それは人間時代、最後に見たものが花だったからだ。


(けど、花か……花が登場するゲームってあったか? って、数えきれない程あるよな)


 そう考えていると、銀髪ボサボサヘアの男が俺の目の前に現れた。


(あいつは……!)


 その銀髪の男には見覚えがあった。


「あ? なんでモンスターが植木鉢に植わってんだ?」


 そう、この男は“僕”(以下、“花”)がプレイしたことのあるゲーム【スキル・ハーツ・ファンタジア】、略してSHFに登場する「ゲイル」というキャラにそっくりだったのだ。

 そして思い出した。人間時代の最後に見たあの花……あの花は”ゲイルの召喚獣”である「スターフラワー」にそっくりだった。ということは、もしかして花はスターフラワーに転生していて、このままゲイルの召喚獣になるというのだろうか?

 もしそうだとしたら、花は死ぬことになる。


 SHFにおける召喚獣というのは召喚主に命を握られている。召喚主が消そうと思えば、いつでも消せる存在なのだ。

 それだけではない、召喚主が死んだ時、召喚獣も同時に死んでしまうのだ。そしてゲイルは、主人公を追放してしまい、最終的には死んでしまうキャラだ。つまりは彼の召喚獣になれば花は死ぬことになる。それは避けたい。


「ま、折角だし倒していくか!」


 ゲイルは剣を抜く。


「ヒャハハハハハハハハ! 動けない所悪いなぁ!」


(って、ここで殺されるの!?)


 確かに、この先ゲイルの召喚獣になることは実質的な死を意味している。だが、ここで死んでしまっては何もかもおしまいだ。


「こ、殺さないで!」


 花は叫んだ。するとゲイルは、剣を振り降ろすのをやめた。


「モンスターが喋っただとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????」


 すると、ゲイルも叫んだ。


(そうだ! この世界だとモンスターは基本的に喋らないんだった! くっ……! 不審に思われるかもしれないけど、殺されるよりはマシだ!)


 ここはシナリオ通り、彼の召喚獣になることにした。


「そ、そうだよ! 僕はとっても珍しいモンスター!」

「ヒャッハー! 確かにそうだなぁ!」

(よし! なんとかなりそうだ!)


 あまり人を悪く言うのは良くないのだが、彼は言動からして小物キャラ感が半端ない。そういう風に作られたキャラなのだから、仕方ないことではあるのだが。


「余裕ぶっこいてるとこ悪いんだけどよぉ……これなんだと思う? 正解は、超レアアイテム、未使用の召喚石だぁ……!」


 ゲイルは口角を上げて、ニヤリと笑う。


 レアなモンスターを見つけたからか、凄くテンションが高いな。


「これでお前は俺の召喚獣! ヒャッハー!」

「く、くっそー! (棒読み)」


 今はこれしか生きる道がないのだから、仕方がない。

 ゲイルは花に召喚石を押し当てると、粒子となって召喚石に吸収された。


(ああ、これでゲイルの死=僕の死だ。というか、植木鉢ごと吸収されたのか)


 そんなことを考えていると。


「出てこい!」

「へ?」


 召喚石に封じられたと思ったら、すぐに外へ出された。

 一度召喚獣になったら、基本的にその関係は解消されない為、契約が消えた訳ではないが、元人間ということもあって石の中にいるよりは気分が良かった。


「お前は人間の言葉が話せて目立つからな! 戦闘時以外も外へ出してやるぞ! これで……俺も、もっともっと注目されちまうなぁ!」

「は、はは……」


 愛想笑いをするしかなかった。


(ゲイルも普通にしていれば、イケメンなんだけどな。とは言っても、SHFの登場人物は皆美形だから、この世界だとイケメンとかないのか?)

「さってと……今皆にお前を自慢しまくるのも悪くないが、入学した時のお楽しみは取っておかないとなぁ!」


 この世界にとっての原作とも言えるゲームSHFは、ファンタジー学園ものだ。

 ゲイルは主人公と同じクラスになり、そこでパーティーを結成して、とある理由から主人公を追放する。


(自慢するのはいいけど、頼むから皆と……特に主人公とは仲良くしてくれ)


「入学したらお前を自慢してやるぜ!」

「う、うん! 楽しみだなぁ!」

「そのわざとらしい喋り方やめろ」

「ああ、分かった!」

「いきなり慣れ慣れしいな! おい!」

「ご、ごめんよ……」

「うざいから、さっきのでいいわ!」


 そうだ。


「ゲイルはどうしてこの森に来たんだ?」

「あ? どうして俺の名前知ってんだ?」

「(しまった!)さっき名乗ってくれたじゃないか!」

「……確かに。俺は結構礼儀正しいからな! 無意識の内に名乗っちまったのかもな!」

(セ、セーフ!)


「呼び捨てなのは気に食わねーが、君付けよりは、まぁいいだろ。で、どうしてこの森に来たかだったか? 教えてやろうか! それは”来月”入学する”スキハ学園”で差を付ける為だ! 具体的に言うと、モンスター退治での経験積み、後は俺に相応しい召喚獣を探しにだ! とは言っても、カラの召喚石はもう、無ぇけどな」

「なるほどな」


 描写が無かったから分からないが、本来だったらどんな理由でスターフラワーなんて仲間にしたのだろうか? 確かスターフラワーは、かなり弱いモンスターだったハズだ。まぁ、SHFの作者はそこまで考えてないのかもしれないが。

 ちなみにここが日本製のゲーム、SFHの世界ということもあって、”原作通りファンタジー世界ながらも、日本と同じ感覚で1年が流れる”ということが彼の発言で分かった。ということは、今のゲイルは15歳ということだろう。


 そんなことを考えながら、しばらく休憩ということで、花はゲイルと一緒に地面に座って休憩していた。ちなみに、本当はもう帰る予定だったみたいだが、花を仲間にしてテンションが上がったのか、まだまだモンスターを倒す予定に変更したようだ。


 休憩が終わり、花とゲイルは立ち上がる。

 と、その時だった。


「きゃあああああああああああああああああああ!!」


 女の子の悲鳴が耳に入った。


「あ?」

「なんだ!?」


 花とゲイルは、思わずその悲鳴の方に頭を向けた。


「っしゃああああああああ!! ここは俺の英雄っぷりを見せ付ける時だなぁ!!」

「ちょっ! 待てって! くっ……う、動けない!! いや、これなら!!」


 花は植木鉢の下の穴が空いている部分から、根っこを出し、それを足代わりにして走った。結構速い。


「グルルルルル……!」


(あ、あれは! デスドラゴン!?)


 デスドラゴンは、全身紫色のドラゴンだ。キャラクターに罪は無いとはいえ、このモンスターは正直花にとって苦手なモンスターであった。なぜならば、このモンスターによって、主人公の妹は殺されてしまうからだ。それもSHFの物語開始よりも前の時間軸で殺されてしまっている。

 殺されたという情報だけで妹本人については詳しく描写はされなかったものの、SHFが基本的に一人称視点で進むノベルゲームということもあり、主人公の辛い気持ちがプレイヤーにも伝わって来て、かなり辛かった。


「ゲイル! あのドラゴンを倒すぞ!」

「ったりめーだろ! ここであの子を助けたら、やべぇぞ! 英雄確定だぞ!」


 どんな理由だろうとも、その勇気は立派なものだ。


「お前……えーと、花!」

「花!?」

「スターフラワーって長ぇんだよ! モンスターならお前も戦え!」

「ああ! それは分かってる!」


 花は大ジャンプをして、デスドラゴンの顔面にぶつかった。


「グルァ!」


 けど、あまりダメージは無いようで跳ね返された。

 ゲイルの足元に、花が転がる。


「お前! スターフラワーなんだから、そんな攻撃すんなよ! 【アーツ】とか使え!」


 アーツとは、技のことだ。

 例えばスターフラワーだったら、リーフカッターなどが使える……ハズだが。


「ど、どうやるの!?」

「しっ、知るかーっ!」


 だが、花の頑張りは無駄じゃなかったみたいだ。デスドラゴンは女の子の方ではなく、花とゲイルの方へ方向転換をすると、のっしのっしと歩いて来る。


「ったく! まぁいい! 俺の超スーパー強い剣技で……ぐあっ!」

「ゲイル!?」


 どうしたのだろうか? ゲイルが膝をついて今にも倒れそうだ。


「ゲイル! どうしたんだ!?」

「分からねぇ……なんか動けねぇ……」

「え!?」


 先程まであんなに元気な笑みを浮かべていたゲイルだったが、様子が一変した。


(何が起こっているんだ!? でも、このままじゃ全員死ぬ!


 女の子も、僕も、ゲイルも!


 何が起こっているかは分からない!


 けど、やるしかない!

 でも、アーツも使えないんじゃ、一体どうしたら!?


 ……そうだ! SHFには【スキル】が存在していて、年齢などの様々なきっかけでそれを発現する!


 モンスターにもスキルを持つ者は存在する! きっと僕にも……あるかも……?


 いや、無いと困る! 頼むから発現していますように!)


 花は念じる。

 すると、頭の中にスキルが表示された。


 この状況を打破するスキル……そんなものが出てくれれば! 例えばデスドラゴンに大ダメージを与えられる。そんなスキルが出てくれれば! 花はそう願った。


 だが……。


「スキル:【寄生】……」


 効果を確認してみた所、どうやら相手にダメージを与えられるスキルではないようだ。

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