悪役生徒の召喚獣に転生した。~見た目が花の召喚獣で弱そうだけど、原作ゲームの知識やスキルを駆使して破滅を回避する~

琴珠

第1章

第1話 これ、もしかして異世界転生って奴か?

☆俺


「おめでとう、俺……」


 とある休日のことである。誕生日をむかえた1人の男は、アパートの一室でそうつぶやいた。

 その声は、「おめでとう」という言葉とは裏腹に、暗い感情を秘めていた。


 小学生の頃は誕生日と言えば好きな物を買って貰えるということもあり、非常にワクワクする特別な日だった。しかし、この年になってくるとそういうイベントもない。


 男はコンビニで買ったケーキのふたを開け、プラスチック製のフォークでそれを口に運んだ。

 気分は暗いが、別に寂しくてこのように暗くなっている訳ではない。


 「もう若くない」。それこそが、男が暗くなっている理由である。


「30歳まであっという間だったな……。ああ……時間って、どうして流れるんだろう。せめて、残業がもう少し少なければなぁ。いや、時間があったとしても、明日の仕事に怯えるだけ怯えて、何もできずに過ごすんだろうな」


 毎日毎日苦しい仕事。それを繰り返した結果、仕事のこと以外を考える余裕がほとんど無くなってしまった。


 要領が悪いのは自覚している。

 正直、要領よく仕事を終わらせて定時に帰れる人が羨ましい。


 ちなみに男は申し訳ないという思いもあって、自主的にサービス残業をしている。


 いつもこうだ。

 この男は人に対して、妬みなどの感情を抱くことが多い。


 勿論、そういったことは絶対に表には出さない。現実世界だけでなく、ネットにもそういったことは書き込まない。


「はぁ……俺って、一歩間違えたら本当物語の悪役だよな……」


 現実を舞台にした物語だと、仕事ができないと思われていた者が、実は有能だった。

 ファンタジーを舞台にした物語だと、弱いと追放された者が、実は強かった。


 流行している作品の多くに見られる。ストーリーのお約束である。

 昔からあると言えばあるが、最近はその傾向が特に強まっているように感じている。


 そのようなタイプの物語の主人公だが、現実世界かファンタジー世界かに関わらず、共通して言えることがある。

 それは、「能力が高い」ということである。


 そして、そういった作品に出てくる悪役キャラ。最近は「ざまぁキャラ」とも呼ばれているキャラだが、そういった悪役は多くの場合、主人公よりも「能力が低い」。

 だからこそ、悪役の方に感情移入してしまうことが多々ある。


 ざまぁされるキャラは、誰かに対して良くない感情を抱いている。

 そしてワガママだ。例えば「どうして頑張っているのに、あいつばっかりで俺は報われないんだ!」と、そんなことを考えているキャラも多い。


 決して表には出さないが、この男もそのようなことを考えることが多い。

 この世界が物語だとしたら、そんなことを考えてしまうこの男のポジションは悪役。それも悪のカリスマ的キャラではなく、ざまぁキャラなのだろう。


「でも、そんなのは嫌だ」


 だからこそ、その運命にあらがう為にも、人に優しく生きる。そう決めている。


 そんなことを考えながら男は立ち上がると、据え置きのゲーム機を取り出して、プレイをする為のセッティングを行う。


「暗い気持ちになっていても仕方ないし、久しぶりにこのゲームをやるか! と、やりながらなんか他にも色々と食べたいな! もう1回コンビニ行くか!」


 男はコンビニへと向かう。

 道中で、黄色い花が咲いていた。


「なんだこの花? 絵に書いたような星型だな! 見たことないぞ! ……いや、どこかで見たことがあるようなそうでもないような?」


 男は思わずしゃがみ込んで、その花を近くでじっくりと見た。


(あ、あれ……?)


 すると、途端に視界がぐにゃりと歪んでいく。


(過労か!?)


 ドサッと、そのまま地面に倒れてしまう。


「お……い……お……い、嘘だ……ろ……でも……こ……れで終……われ……る」


 生まれ変わりなど、本当はきっとないのだろう。

 でも、それでいい。これでようやく辛い現実から解放される。


 ここで男の意識は途絶とだえた。





☆私


「おめでとう、私……」


 とある休日のことである。誕生日をむかえた1人の女は、アパートの一室でそうつぶやいた。

 その声は、「おめでとう」という言葉とは裏腹に、暗い感情を秘めていた。


 小学生の頃は誕生日と言えば好きな物を買って貰えるということもあり、非常にワクワクする特別な日だった。しかし、この年になってくるとそういうイベントもない。


 女はケーキショップで買った苺タルトを皿に乗せ、鉄製のフォークを使ってそれを口に運んだ。

 気分は暗いが、別に寂しくてこのように暗くなっている訳ではない。


「もう若くない」。それこそが、男が暗くなっている理由である。


「30歳まであっという間だったな……。ああ……時間って、どうして流れるんだろう。せめて、残業がもう少し少なければなぁ。いや、時間があったとしても、明日の仕事に怯えるだけ怯えて、何もできずに過ごすんだろうな」


 毎日毎日苦しい仕事。それを繰り返した結果、仕事のこと以外を考える余裕がほとんど無くなってしまった。


 要領が悪いのは自覚している。

 正直、要領よく仕事を終わらせて定時に帰れる人が羨ましい。


 ちなみに女は申し訳ないという思いもあって、自主的にサービス残業をしている。


 いつもこうだ。

 この女は人に対して、妬みなどの感情を抱くことが多い。


 勿論、そういったことは絶対に表には出さない。現実世界だけでなく、ネットにもそういったことは書き込まない。


「はぁ……私って、一歩間違えたら本当物語の悪役だよね……」


 現実を舞台にした物語だと、仕事ができないと思われていた者が、実は有能だった。

 ファンタジーを舞台にした物語だと、弱いと追放された者が、実は強かった。


 流行している作品の多くに見られる。ストーリーのお約束である。

 昔からあると言えばあるが、最近はその傾向が特に強まっているように感じている。


 そのようなタイプの物語の主人公だが、現実世界かファンタジー世界かに関わらず、共通して言えることがある。

 それは、「能力が高い」ということである。


 そして、そういった作品に出てくる悪役キャラ。最近は「ざまぁキャラ」とも呼ばれているキャラだが、そういった悪役は多くの場合、主人公よりも「能力が低い」。

 だからこそ、悪役の方に感情移入してしまうことが多々ある。


 ざまぁされるキャラは、誰かに対して良くない感情を抱いている。

 そしてワガママだ。例えば「どうして頑張っているのに、あいつばっかりで俺は報われないんだ!」と、そんなことを考えているキャラも多い。


 決して表には出さないが、この男もそのようなことを考えることが多い。

 この世界が物語だとしたら、そんなことを考えてしまうこの男のポジションは悪役。それも悪のカリスマ的キャラではなく、ざまぁキャラなのだろう。


「でも、そんなのは嫌だ」


 だからこそ、その運命にあらがう為にも、人に優しく生きる。そう決めている。

そんなことを考えながら女は立ち上がると、携帯ゲーム機を取り出す。


「暗い気持ちになっていても仕方ないし、久しぶりにこのゲームをやるか! あ、でもなんだかコンビニのチキンが食べたくなって来た! コンビニでチキンを3個くらい買っちゃおう!」


 女はコンビニへと向かう。

 道中で、黄色い花が咲いていた。


「凄い綺麗な星型! こんな花見たこと……いや、どこかで見たことあるような気もするな……どこで見たんだっけ?」


 女は思わずしゃがみ込むと、その花を近くでじっくりと見た。


(あ、あれ……なんか視界が……)


 すると、途端に視界がぐにゃりと歪んでいく。


(まさかの過労死!?)


 ドサッと、そのまま地面に倒れてしまう。


「嘘……で……しょ……神……様……もし転生があ……るなら……悪役……令嬢に……でもしてくだ……」


 これで死んだら、その後はどうなるのだろうか?


(ネット小説であるような、悪役令嬢に転生とかだったら面白そうだけどね。いや、ここは素直に主人公がいいかな? 神様、お願いします)


 ここで女の意識は途絶とだえた。





☆僕(花)


「はっ!」


気が付いたら、森の中にいた。

 見たことのない森だ。


(どうしてこんな所に!? と、とにかく! 誰かに連絡をしないと!)


 身動きを取ろうとするが、動けない。


「ぐぬぬ……っ! って、あれ!? 身動きが取れない!?」


 縛られているのだろうか?


(一旦冷静になろう。まずは、1つずつ思い出そう)


 つい先程まで、自分は何をしていたのだろうか?

思い出そうと、目をつむり必死に考える。


「思い出した……僕は確かコンビニに行く途中で倒れて……」


 その後の記憶がない。

倒れた後、誰かに連れ去られ、この森に捨てられたのだろうか。


「って、あれ!? そうだ! 僕は……僕は……?」


 “僕”は困惑した。2人分の人生の記憶が存在したからだ。

 二重人格という訳でもない。30歳と30歳で60歳になった感覚でもない。


 ゲームで例えると、1人人間がゲーム機を2台用意して、並行して同時にプレイしていたような感覚だった。

 だが、自分がその人生を歩んできた感覚は、しっかりとある。


「なんだこれ……」


 がっくりと、顔を下に向ける。その時、自分が茶色の植木鉢に植えられていることに初めて気が付いた。


「というか……なんか植物になってる……!?」


 まさか植物になってしまうとは。そして今いるのは、見知らぬ森。

 この状況……もしや、異世界転生という奴なのだろうか?

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