第11話 嵐の竜
ラティナはカロンから渡された人工勇者装置をそのまま返した。ピラザの魔獣防衛戦の時と違って、どうやら装置も自前の戦斧も使うつもりはないらしい。
「ダメだよ……ここで使ったらみんなの家が焼け野原になっちゃう! 私、ちょっとあの人と話してみ──」
「いけません、ラティナ様。あの者たちから邪な何かを感じます」
立ちあがろうとするラティナを止める見回り隊の女性隊員、冷静に話しているが片手剣を握る右手は微かに震えている。
それもそのはず、見回り隊と言っても大した戦闘経験があるわけではない。相手は見たこともない機械鎧を纏った統制の取れた部隊、勝てる可能性は間違いなくゼロだ。
「わ、わしがこの村の長じゃ……」
ラティナをテントから連れ出した長老が一歩前に出ると、機械部隊のリーダーが自分の大剣をわざとらしく地面に突き立てた。
「俺はゲトス、ルブダスタ防衛派遣部隊を仕切らせてもらってる者だ。ルブダスタ王からの命で、蘇った勇者を是ぇー非本国の宴に招待したいと……そこで我々は防衛担当のピラザ街で聞き込みをした所、複数の属性魔法を扱う女がいたという情報が入ってなぁ……そして」
ゲトスは威圧感を醸し出しながら長老の首を掴んで持ち上げる。長老は宙に浮いた両足を苦しそうにバタバタさせるが、ゲトスは気にせずに話を続ける。
「一週間前、その女はこの村の方向に旅立ったらしい……」
「うっ……ぐぅう……し、知りません……」
「そうか……もっと先に進んだってことか」
ゲトスは呆気なくあきらめて長老を地面に下ろす。長老に背を向けるとゲトス地面に刺さった大剣を再び抜き取って背中の鞘に収めた。
「この鎧、2日前にアップデートされてね。人の体温を目視する機能が追加されたのだが……」
「……?」
「不思議なことに人って生き物は嘘をつくと……ほんの少し体温が上がる」
鞘に収めた大剣を再び引き抜き、長老の頭に向けてそれを振り下ろす。年老いた人間の頭蓋骨の強度なんてタカが知れてる、ゲトスはいつも獣を殺すときと同じように
力任せで叩き割るだけ。
だが、今回はいつもの狩りと違って……
「させないよっ!! 私を探してるんでしょ」
旅人という生き物はいつだって面倒事に首を突っ込まずにはいられない、自分を2週間も世話した村を見捨てるような下衆なら彼女は旅なんかしてない。
両手で何層もの障壁を紐状に圧縮すると、ゲトスの大剣ですら受け止められるほどの強度になる。
「私を探して何する気なの? 話せばきっとわかるから剣おろして」
「何する気? ……フフ……みんな、見つけたぞ。殺れ」
「ッ!」
ゲトスの殺気を感じ取ったラティナは彼の腹部に強風発生点を作り、大剣とその巨体を背後に吹き飛ばす。建物サイズの巨大岩ですら飛ばすパワーを持つ魔法だが、反魔力装甲の持つ耐性のせいでゲトスはせいぜい5、6mしか後退りしなかった。
「おい! あの女、無言でB級の魔法使うぞ。作戦通りに動けッ!」
「ハッ!!」
「わかってると思うが、相手は普通に魔法使いじゃない。油断すんな」
隊長の指示を受けて、綺麗に列を並んでいた隊員たちは前に出て部落のテントや小屋に火球を放つ。
「あ、あなたたち!? やめてよ!!」
ピラザで魔力投石を防いだように、ラティナは広範囲の事象分解障壁を展開して火球を防ぐ。
「みんな、早く逃げて!」
「そ、そんな、勇者様が祝福してくださった地を手放すなんて……」
「アンタら聞こえねぇのか!? 当代の「勇者様」が逃げろって命令してんだから、さっさと逃げろ!」
少しでも友の助けになるようにカロンはエルルミネ村の民の避難を促す。一方でゲトスは冷静にラティナを分析し始めていた。
「利き魔法の属性は風。現時点最高ラインB級+、安定性A……お前ら、他の属性も使うように追い込め」
「はい!」
火球部隊は攻撃を継続してプレッシャーを与えるのと同時に、他の隊員たちは土魔法を内蔵した筒状の装置を地面に差し込む。
すると、ラティナの足元が突然隆起して彼女を機械部隊側に押し飛ばす。
「わっ! ズルっ!」
空中に飛ばされても障壁魔法を維持し続けるラティナ、ゲトスすかさず飛び上がって彼女を地面に叩き落とす。ラティナが痛みに悶えていると、防いでいた火球はエルルミネ村の家屋に着火してしまう。
美しく調和の取れた部落はあっという間に火の海と化した。ラティナ何となく夢の中で見た桃色の長髪を持つ彼女を思い出した。
「風魔法だけじゃ俺らを止められないぞ」
「うっ……や、めて」
逃げようとするラティナは地面から伸びる土の手に腕と足を掴まれて拘束される。そんな無様な状態でも風しか使わない彼女を見てゲトスは違和感を覚えた。
「……なぜピラザの時のように他の魔法を使わない? もしかして蘇って間もないからまだ不安定、とか? ……その様子だと
「……みんなの家を燃やすなんて……ゆるせない……あなたたち、絶対許さないから!!」
ラティナの怒りに反応して、彼女から吹き出る風は赤く染まっていく。今まで穏和で優しかった風は刃物のような鋭さを持ち、ラティナを拘束する土の手を木っ端微塵に粉砕する。
「また風魔ほ──……いや、嵐の魔法だ! クソ、コレも無言で使えるのか!? 全員、A級+衝撃に備えろ!!」
赤き風は衣のようにラティナを包み込んで猛き竜を形つくる。
烈風の竜となったラティナはゲトスに噛みついて、山岩と樹木を砕きながら機械部隊たちを山のフモトまで吹き飛ばす。
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