第20話 ノーマルクリスタル

「分かった! とりあえずこれで……」

「ちょっと待って! 持つ所をよく見て! そこに窪みがあるでしょう!?」


 昨日渡された時は暗くて気づかなかったが、日本刀の柄には六つの窪みがあり、その形的にクリスタルを埋めれそうな形状をしている。

 

「なるほど。大体分かった!」


 俺は自分の体内に火のクリスタルを一つ残しておき、二つを体から飛び出させ手に取り窪みに嵌める。


「これも使って!!」


 ミーアはアイテムボックスから今度は透明なクリスタルを四つ取り出しこちらに放り投げる。

 それらをキャッチして嵌めようとするが、手に取った瞬間それらがクリスタルにしてはあまり力が含まれていないことに気がつく。

 だがもう動作は止められず、それらを窪みに嵌め終わり同時に刀身から炎が吹き出す。この刀に凄まじい魔力が籠っており、こんな量の魔力はバニス達と一緒にいた時は見たこともないほどだ。


 ここまでくれば次に取るべき行動は直感的に分かり、水球を潜り抜け、時にはこのエネルギーが溜まっている刀身で受け流し奴の眼前まで距離を詰める。


「せいやっ!!」


 刀を大きく振り上げ、それを奴の角目掛けて振り下ろす。本来かなりの強度のあるはずの角がまるで豆腐みたいに斬れ、そのまま刀は奴を真っ二つに斬り裂く。

 その瞬間に青色のクリスタルが奴の体から飛び出してくるので俺はそれを逃さぬようキャッチする。

 やはりクリスタルなのでそれはとんでもない力を秘めており、手に持っただけで水中に投げ込まれ溺れてしまうような錯覚に陥りそうになってしまう。


「やっぱりおかしいよな……」


 先程投げ渡された透明のクリスタルからはこのような異常なほどの力は感じられなかった。

 もう一度よく見てみようとしたところ、透明な四つのクリスタルはパリンッ! と大きな音を立てて割れ散ってしまう。


「え!? ク、クリスタルが!!」


 何も変なことはしていないはずなのにクリスタルが四つも割れてしまう。俺はやってしまったと後悔しその場にへたり込む。


「大丈夫よ。砕け散ったのはノーマルクリスタルだから」


 ミーアは怒るか焦るかでもするかと思ったが、予想に反して落ち着いている。


「ノーマルクリスタル?」

「えぇ。属性のクリスタルとは違って大量に手に入れられる分すぐ消滅したり壊れたりしてしまうのよ。

 こうやって死んだばかりの生命体に力を込めれば生成できるのよ」


 ミーアは鹿の真っ二つになった死体に手を伸ばす。瞳が緑色に光りほんの少し力が込められれば死体は数十個のノーマルクリスタルへと変わる。

 ミーアはそれらをほとんどアイテムボックスに仕舞い込み、残った十個ほどを俺に渡してくれる。


「ノーマルクリスタルは体内に取り込むだけで消費した魔力を回復できるから持ってて」


 魔力を回復するか……一応そういう専門の薬品とかもあるらしいけどあれは高価だしな……こうして楽に手に入るならそれに越したことはないな。


「リュージ様……ミーア様……?」


 戦いが終わったのを見計らって、先程投げ込んだ茂みの方からアキが慎重に出てくる。

 服には葉っぱや土や枝がついており、俺のせいで服が汚れてしまっている。


「服が……ごめん! 俺が乱雑に投げ込んだから」


 さっき撃たれた背中の痛みなど忘れ、俺はアキの服についてる汚れを叩き落とす。


「だ、大丈夫です! それくらい自分でできますから! それより僕こそすみませんでした。クリスタルの力を上手く扱えないことは分かっているのにでしゃばってしまって……」


 戦いの中アキは俺が来るなと言ったのにこちらに駆け寄ろうとした。善意や優しさから取った行動なのだろうが、あれは俺だけならともかくアキ自身も危険に晒す行為だ。


「俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど、戦いの際はまず自分の安全を確保して」


 心が痛むが、言葉を強めて説教するように話す。


「はい……すみませんでした……」

「でも俺を心配してくれたのは嬉しかったよ。ありがとう」


 アキがあまりにも落ち込んでしまうので何だか悪い気がしてしまい慰めの言葉をかける。

 やはり俺は弱い人間だ。こういう子供が悲しんでいるところを見るとどうも弱くなってしまう。


「とにかく安全になったことだしお昼にしましょ」


 お昼を食べ、それからも日が暮れるまでクリスタルを扱う練習をするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る