第21話 最強の魔族
水のクリスタルを入手してから十日ほど経ち、その間俺達はずっとクリスタルを扱う特訓をしている。
ミーア曰く俺はかなり飲み込みが速いようで、数日前からはミーアと魔法をぶつけ合い実戦を想定した動きを確認していた。
しかし一方アキは多少のコントロールができるようにはなったものの、実戦で扱うにはまだまだだ。
「はぁ……はぁ……」
アキは大きく息を切らしその場に膝をつく。
「アキはまだ無駄な魔力を使っているわね。アキ自身の魔力は相当なものだけれど、余計に力んじゃったりしてるから本来の数倍は魔力を消費しているのよ」
俺はここ数日しか魔法を使っていないが、確かに魔力の込め方によって疲労感が段違いだ。
「僕も何となく消費を抑えられる方法は頭の中では分かるんですけど、どうしても胸が苦しくなってしまって……」
この前言っていた理由の分からない不安というものが原因だろう。十日ほど練習してもここまで良くならないということは、俺達の想像以上にそれが及ぼしている影響は大きい。
「どうしようかしら……」
ミーアは一枚の紙を見つめ頭を悩ましている。その紙は冒険者ギルドで取ってきた依頼書である。
冒険者とはギルドで受けた依頼をこなすことで報酬を貰い生活している者のことで、多くがパーティーと呼ばれるチームを組んでいる。俺がこの前いたバニス達のグループもそうだ。
「その依頼書には何て書いてあるんだ?」
つい先日取ってきたのであろう依頼書と睨めっこしている彼女に話しかけ紙に何か書いてあるか覗き込む。
「不気味な緑色に光るクリスタルがあるから調べてくれって依頼があったのよ」
依頼書を見るに報酬はあまり多くなく、なので誰にも取られず余っていた所をミーアが見つけたのだろう。
そして緑色に光る不気味な宝石。それはミーアが担当の風のクリスタルと特徴が一致している。
「アキも連れていこうと思ったのだけれど、今の状態じゃもしもの時危なくなるし、置いていった方がいいかしら……」
「あ、あの! 僕も連れてってくれませんか」
置いていくという言葉に反応してアキが食い気味に話に割り込んでくる。
「え? でも危ないかもしれないし……」
「敵が来たら隠れますし迷惑かけないのでお願いします!」
置いていかれるのがそんなに嫌なのか、駄々をこねる子供のように必死に反対する。
そうか。一人でじっとしているのは奴隷時代の影響で本能的に避けたいのか。
「アキは俺が守るし連れてってあげようよ。一人にさせておくのも寂しいだろうし」
「そうね……大抵の魔物なら私一人でも大丈夫でしょうし、じゃあもしもの時は頼めるかしら?」
「もちろん。アキは命に変えても守るよ」
こうしてアキも連れていくこととなり、依頼者が指定した場所はここからそう遠くはないので今から向かうことになる。
行き先は山奥の村なので途中で険しい山道を登ることとなる。
俺はクリスタルのおかげで身体能力が向上していて、本来よりかなり楽だ。だがアキは子供の体格の上クリスタルも扱えていない。消費する体力は俺の数倍だろう。
「おぶってあげるよ。ほら乗って」
俺とミーアは速度を落としていたが、それでもアキにとっては辛いと判断し、俺は背中を差し出しまた背中に乗るよう促す。
「い、いえ大丈夫……です……」
アキは強がり断ろうとするが、その言葉さえ途切れ途切れになってしまっている。
「気にしないで。アキは軽いしそんな変わんないから」
そんな彼女を俺は半ば強引に背中に乗せおぶる。おぶってからは一言ごめんなさいと言った後静かになり何も喋らなくなる。
大して変わらないと言ったがそれは別に嘘ではなく、バニス達といた頃はこれよりはるかに重たい物を持っていたので本当に気にならない。
「あともう少しで着くわよ。リュージは体力大丈夫?」
村まであと少しというところで、ミーアがアキを背負っている俺の体力を気にかけてくれる。
「これくらいならクリスタルがなくても全然大丈夫だよ」
「なら良かったわ。じゃあこのまま……」
ミーアが再び歩を進めようと足を前に出すが、その目の前に何かが飛んできて地面に突き刺さる。
それは氷で作られた矢だ。矢の形をした氷が勢いよく飛んできたのだ。
「この気配……まさか!?」
だがそれよりも重大なことは、矢が突き刺さるのとほぼ同時に背後からクリスタルの圧を感じたことだ。
「やぁ……クリスタルを全て渡してもらおうか」
矢が放たれた方向には緑髪で額から二本の角を生やした魔族の女が立っていた。
まるで下等な生物を見下すように少し高い所からこちらを見下ろし、腕にはクロスボウのようなものがついている。
たった今俺は初めて魔族に、そして自分と明確に敵対するクリスタル所持者と対峙するのだった。
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