第9話 救出作戦

「えっ!? 手伝うって犯人探しを!? 私達何も情報を知らないのよ!? 少し無謀じゃ……」

「そうだよ。でも放っておくことなんてできない。困っている人をそのままになんて……あ、でもミーアは先に帰っててもらってもいいよ。これは俺の自分勝手な我儘だから」

「はぁ……私がそんな薄情に見えるかしら?」


 ミーアは頼もしく不敵に微笑んでくれる。彼女がいればもし犯人達と戦いになったとしたら百人力になってくれる。

 

「いや……二人ともよろしいのですか? 違う種族のエルフのために?」


 長老も手助けを申し出されるとは思っておらず驚いている。


「しかし長老! 人間は信用できません! こいつらだって何を企んでいるか……」


 だが後ろの男達は人間である俺達が協力してくるのにあまり良い心情を抱いてはいなかった。

 その気持ちは当然だし、俺もよく知っていた。だからこそ口出しはしなかった。長老の判断に任せた。


「これも時代の流れかもしれんな……この人間達にも手伝ってもらうぞ」


 意を決し、長老は快く俺の申し出を引き入れてくれた。

 

「ん……んぅ……」


 俺達の後ろの方で未だ縛られたままのエルフィーが目を覚ます。


「あ! お前ら!」


 そして俺とミーアを視認すると一目散に襲いかかろうとするが、両手が縛られてるせいで上手く立ち上がれず転んでしまう。


「ぐぐぐ……よくもアタシの妹を……殺してやる!」


 怒りと憎しみが視野を狭め、俺とミーアしか視界に入っておらず長老含め他のエルフは見えていないようだった。


「やめんかエルフィー! この人達はあの奴らとは関係ない! 善良な唯の人間じゃ!」


 流石に声をかけられれば気づいたのか、もがく体を止める。


「全く。お前は昔から無鉄砲すぎるわい。この人達は寧ろあいつらを捕まえることを申し出てくれたんじゃぞ」


 長老がエルフィーの縄を解きながら宥める。それによって多少は落ち着いてくれたみたいで、相変わらずこちらを睨みつけてはいたが襲いかかってくることはなかった。


「長老! 人間の言うことなんて信用できま……」

「黙りなさい! はぁ……我々も変わる時が来たのじゃ……一旦村に戻るぞ。お二人ともついて来てください」


 エルフィーを黙らせ、長老は俺達をエルフの村へと案内してくれる。

 村は家が所々崩れたり灰になったりしていて、畑も踏み荒らされており悲惨な状態だった。

 

「あまり歓迎されていないみたいね……それもそうよね」


 村にいる傷ついているエルフ達からは明らかに敵意が籠った視線を送られる。

 恨みというのは人の感情を爆発させ狂わせるもので、特に種族に対する偏見を加速させる性質がある。

 そうとは分かってはいてもこうして助けようとしている相手からこんな対応をされるのはそこそこメンタルにくる。


「すみません。せっかくの客人だというのに。エルフィー。できる限り動ける者をわしの家に集めなさい」


 長老に命じられエルフィーは一旦離れ、俺達は長老の家まで向かう。


「家に入るなり早速で悪いのですが、子供達を救出する作戦を立てましょう。お二人はここの近くの街の奴隷市場などを知ってますでしょうか?」

「俺が半年間いた街なら詳しい場所まで分かります」

「待ってリュージ。私達が来た方向とは反対側の街にも奴隷市場があるはずよ。距離的にもそっちに行った可能性もあるわ」


 ミーアが地図を取り出し床に広げる。それを三人で覗き込むようにして話し合う。


「ならこういうのはどうでしょう? まずうちの戦える若い者を集めて……恐らく十人ほどでしょう。お二人と合わせて六人ずつに分けてそれぞれの市場に向かうというのは?」

「それが一番無難そうね。リュージは何か良い案があるかしら?」


 ミーアに振られるが、現状これ以上良い案はなかった。何より情報が少なすぎるので出しようがなかった。

 ならここはシンプルに行くのが一番だろう。


「奴隷市場についてからはエルフの子やここを襲った人達を見つけたら強行手段に出るということですか?」

「そうなりますね……騎士団の人を頼ろうにもそうすれば恐らく手遅れになるでしょう」


 騎士団に言ったら動いてはくれるだろうが、あそこは組織だ。報告やら何やらで動くのに一日はかかってしまうだろう。

 いつ売られるかわからない以上この手は使えない。

 それにこういう緊急を要する事情があれば多少の暴力は正当防衛として認められる。


「長老! 集められるだけ集めてきました!」


 エルフィーが息を切らしながら家に押し入ってくる。

 外を見るに長老が言った通り十人の屈強な若い男のエルフがいた。

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