第7話 エルフ
「リュージ? 起きてるかしら?」
ベッドから起き上がり今日も頑張るぞと気合いを入れようとしていると、扉の向こうからノック音と共にミーアの声が聞こえてくる。
「起きてるよ。入っていいよ」
「おはようリュージ」
ミーアは両手にお盆を持っており、その上にはスープやパンなどの料理が乗っていた。
「ここの宿美味しいご飯がついてるから一緒に食べながら今後について話し合いましょ」
「ありがとう。ご飯の分はしっかり働くよ」
机の上に料理を置き、俺達は向かい合うようにして席に着く。
「まずクリスタルの在処について一つ心当たりがあるのだけれど、リュージはエルフって知ってるかしら?」
「エルフ……話で聞いたことならあるけど」
確か森の中に住んでいる耳が長く弓の扱いに長けている一族だ。
実際には見たことはないが、そういえばこの近くの森に村があったはずだ。
「ここの近くにあるエルフの村にどうもクリスタルの気配がするのよね。それも私の担当属性である風のクリスタルの気配が」
「クリスタルの気配?」
「リュージにはまだ言ってなかったわね。
クリスタルを取り込んだ者には、近くにクリスタルがあったり、若しくは誰かがクリスタルの力を使ったりすると気配を察知できるのよ」
ミーアの瞳が緑色に光った瞬間、肌がピリつき目の前にいる彼女の存在感が増す。
「今感じたでしょ? 体感だけれど……多分半径数キロメートルなら気配を察知できると思うわ」
「それは便利だな。確かにこういうのがなかったらクリスタル集めも大変だしな。
それでエルフの村に行こうって話だっけ?」
「そうなんだけれど、エルフって人間にあまり友好的ではないのよね……」
そういえばバニスから聞いた話では、エルフは外との繋がりを極度に嫌い、無理に入ろうとした商人に矢を放ったこともあったはずだ。
「ま、まぁでもクリスタルを探すだけなら頭を下げて探させてもらえば……」
「そうできればいいのだけれど……もしかしたら少し荒事になるかもしれないわ」
荒事か……そういうのはなるべく避けたいな。
ミーアと俺は人間で、エルフ達とは違う種族。もし争い事とか何かトラブルを起こしたら俺達だけの問題じゃなくなる可能性だってある。
「ここでもしもの話をしてもしょうがないし、これを食べてエルフの村に行きましょうか」
「そうだな……うん。きっと何とかなるよな」
ほんの少しばかし不安を残しながらも、今考えても仕方ないのでスープとパンをかき込み、それから俺達はエルフの村へ向けて出発する。
そうして森に入り数時間は経ち、そろそろ昼食の時間となりお腹が空いてくる。
「そろそろ良い時間ね。でも時間が惜しいから歩きながら食べましょ」
ミーアは腰に付けている袋から二つのクッキのような携帯食を取り出し、その片方を俺に投げ渡してくれる。
味は不味いものを食うのには慣れている俺なら何ともなかった。
「そういえばミーアが持ってるそれって、もしかしてアイテムボックスってやつ?」
「知ってるの? これは旅の途中で頑張って手に入れた物よ」
アイテムボックスとはこの世界特有の魔法具と呼ばれる物で、魔法を使って作られた道具だ。
無限の容量を持った袋で、中の空間は特殊なものとなっており入れたものは腐りにくく長持ちするらしい。
「中々便利なのよねこれ」
「とりあえずそれがあれば荷物を運ぶのに困りはしないな」
バニスのパーティーにいた時は毎回大量の荷物を持たされてたからな。
まぁ戦闘ができない俺がやるべきなんだからそれは構わないけど……あれ? でもバニス達俺がいなくなったら誰が荷物を持ったりその他の雑用をやるんだ……?
いや俺はもう関係ないし考えなくていいか。それよりエルフと会ったらどう話せばいいかを今のうちに考えておこう。
「そろそろ着くわ。一応だけれど警戒はしといてね」
携帯食を食べてから数時間が経ち、どうやらそろそろエルフの村に着くらしい。
向こうからは俺達の印象は最悪だと考えた方がいいよな……でも流石に出会い頭に話も聞かずに攻撃してくるとかはないよな。戦争中でもないんだし。
今日は風が強いのか木々の葉が擦れる音がうるさい。経験上分かるのだがこういう日は奇襲にもってこいだ。
特に今は俺達の背後から前方に向けて風が吹いている。後方から矢を放てば簡単に命を刈り取れるだろう。
考えすぎだと思っても、それでも俺はつい振り返ってしまう。
振り返った目線の先で何かが反射した。
「ミーア! 伏せろ!」
少々乱暴だが、ミーアの頭を掴み無理矢理伏せさせる。
「えっ!? な、なにっ!?」
彼女はまだ状況を理解していなかったが、それも彼女の目の前の地面に突き刺さった矢が状況を理解させてくれる。
次の一手が打たれる前に俺は矢を引き抜き先程光が反射した方へ投げる。
クリスタルの力のおかげで身体能力が上がっており、投げた矢は空を切り裂き進んでいく。
「ぐっ!!」
矢が放たれた方から小さい呻き声が聞こえてくる。
その後矢を放った主が姿を現す。矢が刺さった足を引き摺り、血を垂らしながらもこちらに向ける敵意は衰えさせていなかった。
「人間め……殺してやる!」
金髪のエルフの女の子は短剣を取り出し、こちらに明確な殺意を向け襲いかかってくるのだった。
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