第6話 前世の死因と願い
「あがっ……!!」
炎に包まれたのかと錯覚してしまうほど全身が発熱し出す。心臓の鼓動が速くなり、このクリスタルの力に飲み込まれそうになる。
それでも俺は何度も大きく呼吸をして、この力を自分のものにするべく精神を鎮め落ち着かせる。
「大丈夫? 無理そうなら一旦クリスタルを取り出して……」
「もう……大丈夫」
一旦深呼吸をして呼吸を整える。
苦しさも大分マシになってきて、同時に全身から力が溢れ出していた。
「どうやらコントロールできてるようね。それにこの感じ。やっぱりあなたは特別な才能を持っているようね」
「特別な才能?」
「そうよ。だって本来クリスタルはゲームの参加者にしか使えない仕様になっているし、参加者でも担当の属性しか使えないのよ? それを二属性も扱えるリュージはすごいんだから!」
すごいか……褒められるのなんて何年ぶりだろう。
バニス達はもちろん、前世の日本に居た時だって最後に面と向かって褒められたことなんていつだったか思い出せないくらい前だったな……
「とりあえずこれでリュージも最低限は戦えそうね。詳しい使い方はまた明日教えるから今日は一旦宿に帰りましょ」
「あ。そういえば宿どうしよう? お金も持ってないし……まぁでも野宿すれば……」
「ちょ、ちょっと待って! あなたお金持ってないの? ていうかよく見たら荷物も何も持ってないし……」
返す言葉もなかった。普通、大の大人が一銭も持っていないなんて思わないだろう。
「パーティーをクビにされた時に荷物もお金も全部取られちゃったんだ」
「はぁ何それ!? そんなのおかしいでしょ!」
「いや半年前にこの世界に来てから色々教えてもらったし、その授業料だと思うことにしてるから」
「そう……ん? この世界に来た?」
「あ……しまった」
自分の失言に気づき口を塞ぐが時すでに遅し。ミーアは俺の発言から違和感を感じ取ってしまう。
隠しているわけではないが、自分が日本から転生してきたと言っても妄言と思われるだけなのであまり言いたくなかった。
「しまったって何よ? あなたは別の世界から来たとでも言うの?」
「……そうだよ。俺は半年前まで別の世界に居たんだ」
言おうか迷ったが、もう別に妄言だと思われても良いやと割り切り転生の件を話し出す。
「日本っていう所で、そこで通り魔に刺されたと思ったらいつのまにかこの世界に居たんだ」
「通り魔に刺されたからこの世界に……?」
やはりミーアは俺の話を信じてはいなかった。
いやそれで正しい。会ったばかりの男のこんな話。作り話と思って当然だ。第一作り話としても話の筋すら通っていない。
「信じるわ」
「え? し、信じてくれるの?」
「もちろん! だってリュージも私のためにほぼ無条件で私の話を信じてクリスタル集めを手伝ってくれるって言ったんだし、私もこれくらい信じてあげないとね!」
この世界に来て半年。こんなに明るく純粋な笑顔は見てこなかった。
バニス達からも信用されず都合の良い雑用係として扱われて、この世界で俺のことを本当に仲間として認識してくれたのは彼女が初めてだった。
「さっ! 暗くなる前に戻っておきたいし早く帰りましょ!」
俺は陽気なステップを踏み導いてくれる彼女についていき、街へと戻るのだった。
☆☆☆
宿はミーアが同じ宿の部屋をもう一室取ってくれて、料金はクリスタル集めを手伝うお礼として奢ってくれた。
すっかり暗くなったが、窓からは月明かりが差し込んでくれるおかげでまだ明るかった。
「そういえばこの世界にも月や太陽はあるのか……いや似ているだけの別の星……だよな?」
この世界の一日の周期は地球とほぼ同じで、気温や湿度など地球と酷似している点が多かった。
偶然とはいえこれには正直助かった。おかげでこっちに来たばかりの頃に環境の違いで体調を崩すこともなかった。
「アメリカに行った時は時差ボケで体調崩したからな……」
昔のことは胸の奥底に放り込み、俺はベッドに仰向けになるようにダイブする。
それにしてもクリスタルか。この力で俺は……平和な世界を……
それは俺が前世で願って、必死に努力して結局叶えることができなかった願いだ。
俺は前世では世界から戦争をなくすために世界中を飛び回り平和活動をしていた。しかし皮肉なのか、俺は比較的治安が良いはずの日本で通り魔に刺され死んでしまった。
でもこれは運命なのかもしれない。このクリスタルは俺に世界を平和にするという願いをこの世界で叶えろと言っているのかもしれない。
俺はそんな気がして、今度こそ世界を救うんだと使命感を胸に抱きながら眠りにつくのだった。
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