第4話 魔王
「リュージ! 伏せて!」
謎の力に戸惑いつつも、痛みが楽になったので戦闘を続行しようとするなり、後方でミーアが大きく声を上げる。
俺はその言葉に反射的に対応し、常人ではありえない反応速度でその場に伏せる。
「グギャ!」
俺のすぐ上を何かが高速で通り過ぎ、顔をできるだけ上げずに視線をゴブリン達の方へ移して見えたものは衝撃的なものだった。
奴らの頭が次々に飛んで宙を舞っていた。
「ウィンドカッター!!」
彼女は魔法名を叫びながら手から次々に風の刃を放ち、それらがゴブリン達の頭と胴体を切り離していっていた。
ミーアはあんな高威力の、しかも精度も高い魔法を使えたのか!? バニスでもあの威力であれだけの精度を保つことはできないぞ!?
俺が驚いている間に有象無象のゴブリン達は全滅し、残りはロードだけとなる。
「こいつ倒し終わったらポーションで治してあげるから、ちょっと離れて待っててね」
「分かった」
魔法も使えず怪我人の俺は足手纏いにしかならなそうなので、俺は言われた通り邪魔にならないように近くの木陰に身を潜める。
「誰を倒すだって? メイジを不意打ちで倒して、雑魚を蹴散らしただけで調子に乗るな!」
奴は大きく棍棒を振り下ろしてミーアを潰そうとする。
しかしほんの一瞬彼女の瞳が、先程の宝石のような緑色に発光したかと思えば、まるで彼女自身が空気と一体化したかのように、棍棒によって生じた風圧によってふわりとその攻撃を避ける。
「魔法を使うまでもないわね」
地面に棍棒が力強く叩きつけられ、大きな隙ができたロードの顔面に向かってミーアがナイフを投擲する。
空を切るように鋭く向かっていったそれは奴の右目に突き刺さり、奴は大きな悲鳴を上げその場に座り込む。
「さよなら」
彼女は容赦なく奴の首元に新しく取り出したナイフを突き立て、それを深々と押し込んで確実に奴の生命を奪う。
「ふぅ。何とかなったわね。そっちは大丈夫かしら?」
ミーアが回収したナイフの血を拭きながらボロボロの俺に話しかける。
「死んではないけど……ちょっとまずいかも」
また再び意識が朦朧としてきた俺に、彼女が腰につけていた袋から取り出した瓶の中身をかけてくれる。
「この品質のポーションなら完治すると思うわ」
みるみるうちに傷が治っていき、数秒もすれば折れた骨も擦り傷も全て治っていた。
「ありがとうミーア。まさか君がこんなに強いとは思わなかったよ」
「鍛えているからね。それより、私が投げたクリスタルがあなたの体の中に入っていったように見えたのだけれど……」
「え? クリスタル?」
不意に脈略がつながっていない単語が飛んできて頭が混乱したが、先程投げつけられた宝石のことなのかと思ったが、それだとすると体の中に入ったといった一文がおかしくなってしまう。
なので尚更訳が分からなくなってしまい、俺は首を傾げるしかなかった。
「その様子だと本当に何も知らないようね。
いいわ。じゃあまずクリスタルについて説明するわ。魔王からは基本的に言うなって言われているけど、流石にこれは例外ってやつよね」
「魔王?」
魔王。それはこの世界における魔族の王のことであり、魔族とは人間と仲が悪い角が生えた種族である。
二十年前に人間と魔族の戦争が終わってから一応は大きな争いは起こっていないらしいが、今でも人間と魔族の仲はあまり良くないらしい。
実際に俺はこっちに来て半年、人間と魔族が仲良くしているところなんて見たことがなかった。
だからこそ彼女のあたかも魔王と会ったことがあるかのような口振りに驚いてしまった。
「えぇ。みんなが知っているあの魔王よ。私は魔王が開いたあるゲームに参加しているの」
魔王が開いたゲーム。バニス達と一緒に冒険者として活動して、情報などはそこそこ入ってきていたがそんな話聞いたことすらなかった。
「さっき投げたクリスタルと呼ばれる宝石。参加者によって決められた属性のクリスタルを十個集めると、魔王にどんな願いでも叶えてもらえるの」
突拍子もない冗談のような話だったが、彼女の目は真剣そのもので、嘘をついている気配は全くなかった。
「そのゲームとやらについては大体分かったよ。それでそのクリスタルってのは一体何なんだ?
それに触れた瞬間すごい衝撃が体に走ったし、あと俺の中にクリスタルが入ったってこともどういうこと?」
「一つずつ説明するわ」
ミーアは木の棒を拾い、地面に簡易的な人間の絵を描き始める。
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