第3話 力が欲しい!
「お前ら! 人間がいるぞ!」
メイジゴブリンがすぐ近くにいた三匹に聞こえるよう大きな声で叫ぶ。
無駄にデカい声量……これはあの三匹以外にも少し離れたところに仲間がいるな。数が分からないし危険だ。
ここは強引に逃げるのがベストだな。
俺は迷いなく即座に踵を返す。
「リュージ?」
しかし走り出したすぐその先にミーアが現れ、ぶつかりそうになってしまい俺は足を止める。
「ゴブリンがいた! 詳しく説明している時間はない! 逃げるぞ!」
俺は強引に彼女の腕を掴み引っ張りこの場から再び逃げ出そうとする。
だがこの一瞬の遅れが命取りだった。メイジゴブリンから再び一発の火球が既に放たれ眼前まで迫ってきていた。
もう躱わせない。せめてミーアだけでも!
俺は彼女を突き飛ばし背中で火球を受ける。
「うぐっ!」
衝撃が体に走るのと同時に全身が凄まじい熱に包まれる。服に炎が燃え移りそれはどんどんと広がり俺の体を侵食していく。
地面に転がって……いやダメだ草木が多い。今日は乾燥しているし逆効果になるか。
身を焼かれつつも冷静に今の状況と向き合って、俺は最善の行動を取ろうとする。
まず燃えている上着をすぐさま脱いで、少々焦げた手に服を持ちゴブリン達の方へ投げる。
「今のうちに早く逃げよう!」
先程突き飛ばしてしまったミーアを起き上がらせ、炎によって一瞬怯んだ奴らの隙を突いて駆け出そうとする。
次の瞬間、鈍い痛みが生じたと思えば、いつのまにか俺の体が大きく宙を舞っていた。
「え?」
いきなりグルンと視界が一回転したかと思ったら、気づけば三メートル程の高さまで打ち上げられていた。
俺は訳も分からず地面に激突して転がり、勢いそのまま木に激突する。
「あれ……は、ゴブリンロード……!?」
俺の体を大きく吹き飛ばしたのはゴブリンロードと呼ばれる大柄のゴブリンだった。
奴は普通のメイジゴブリンのように巧みに魔法を使うことはできないが、圧倒的な巨体と身体能力でメイジと同等の脅威とされている。
メイジゴブリンと数体のゴブリンだけならまだ逃げ切れた。だが奴の登場により俺達の生還は絶望的なものとなった。
「人の気配がすると思ったら……ほほう。今回は良い女がいるな」
俺と比べ一回り大きい巨体の奴は、ミーアをいやらしい目で見下ろす。
「これは……まずいわね」
ミーアは慣れた手付きでナイフを取り出し、ゴブリン達からある程度距離を取る。
しかしもう既に集まってきたゴブリン複数体に囲まれてしまっており、ここから逃げ切るのはかなり厳しい状況になっていた。
「ミーア……せめて君だけでも逃げるんだ……!!」
俺は割れて血が滴る頭を抱えながら立ち上がり、意識が朦朧としつつもすぐ近くにあった尖った石を拾って構える。
俺が時間稼ぎすれば、俺は死んでしまうだろうけど、彼女を助けることはできる。だから戦うしかない。俺が!
「だめよ! そんなこと……できないわ!」
彼女は優しかった。出会ったばかりの人間を見捨てられない程には。
「だめ……だ。このままじゃ二人と……ゴフッ!」
地面に激突したときか内臓を損傷してしまっていたようで、俺の口から血がボトボトと垂れる。
垂れる音を合図にするようにゴブリン達がミーアに襲いかかる。
彼女のナイフ捌きは中々のものだったが、数の暴力には敵わないらしくジリジリと向こうの方へ後退していく。
「おいガキ。お前はオレと遊ぼうぜ」
メイジとその他ゴブリン達がミーアに気を取られている一方、手持ち無沙汰となったロードが俺の方に嫌な笑みを浮かべ近づいてくる。
「嫌だって言ったら?」
「お前に拒否権なんてないっ!」
奴はその巨大な棍棒を大きく振り上げ、容赦なく俺に向かって振る。
今のダメージを受けた俺の体ではその一撃は躱わせそうにもなく、俺は死を覚悟した。そう、一匹でも多くゴブリンを道連れにする覚悟を。
俺はその一撃を跳びながら左腕だけで受け吹き飛ばされる。
飛ばされ向かった先は戦闘しているミーアの方向だ。わざとそっちに飛ばされるように調整した。
左腕は完全に折れてしまってるけど、利き腕さえ無事なら大丈夫だ。
俺は魔法でミーアに対して牽制をしているメイジゴブリンの眼前に着地し、無事な右腕を振り上げ脳天に石を突き刺す。
大量の血飛沫が舞い上がり、血の量と白目になった奴の顔からこの一撃で絶命したことが分かる。
「き、貴様……よくもメイジを……お前らこいつを殺せぇ!!」
ロードは怒りを露わにし、それに突き動かされるようにミーアを襲っていたゴブリン達が向きを変え俺の方へ迫ってくる。
流石にもうこれ以上動けない……な。まぁ、俺の命で一人の命を助けられたと考えたら良い方か。逃げ切れよ。ミー……
俺が諦めその場に倒れてしまいそうになる。
だが倒れ切る前にミーアが何か小さなものを取り出し、それをとてつもない速さでこちらに向かって投げる。
その物体が額に直撃する直前、眼前まできたところでやっと俺はそれを視認することができた。
透き通るような緑色をした、小さな八角形の宝石だった。
それが俺の額に直撃するのと同時に、全身から信じられないほどの熱が吹き出し、それによって生じた衝撃波が周りのゴブリン達を吹き飛ばす。
「な、何だこの力?」
俺はこの湧き出る謎の力に疑問と困惑を抱いながらも、一筋の希望を見出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます