そういうの死亡フラグっていうんだよ

嬉野K

明日、なに食べる?

「キミは『トリあえず』という言葉を知っているかい?」


 目の前にいる彼女が、突然そんな事を言い始めた。


「とりあえず……? そりゃ、聞いたことはあるけど」

「一般的なとりあえず、じゃなくて……都市伝説としての『トリあえず』なのさ。トリの部分がカタカナで、あえずの部分がひらがな」


 トリあえず、か。


「そんな都市伝説があるの? その話をするために、わざわざ呼び出したとか?」


 ここは夜中の公園。公園の中に、人はだれもいなかった。人がいないだけで、とある生き物は見えるけれど。


「私はさぁ……都市伝説なんて信じてなかったわけだよ」僕だって信じていない。「『トリあえず』って都市伝説はね……トリの恋人の話なのさ」

「トリって……漢字で書くと、沖ノ鳥島の鳥?」

「そうそう。一石二鳥とかの鳥」今、僕たちの周りにいる鳥。「昔々……あるところにトリがいたの。それは恋するトリで、来る日も来る日もメスに対して求愛行動をしてたの」


 そこんところは人間と変わらないんだな。まぁ生殖本能か。


 彼女は続ける。


「それで、その求愛が成功して……その2羽は晴れて恋人になった。そしてその瞬間ね……」彼女は一瞬間を取ってから、「猟師に撃たれたの」

「ほう……」悲しい話だけれど……「……しょうがないね。この世は弱肉強食だ」

「そうだね。その通り」いつか人間だって食われる可能性があるのだろう。「それでね……その2羽は二度と会えなくなっちゃった」

「……それで、トリあえず?」


 鳥、会えず。


 猟師に撃たれて二度と会えなくなった鳥の話。


「そういうこと。んで本題はこれからなのさ」前置きだったらしい。「そのトリさんはねぇ……今もなお怨念として残っているようだよ」

「怨念?」

「そうそう。自分たちは恋人になった直後に撃たれた。だから……同じ苦しみを人間たちにも与えてやろうってね。カップル成立寸前の男女を取り囲んで、そのまま食い散らかしちゃうんだって」


 鳥が取り囲む。なんてしょうもないダジャレを言っている場合じゃない。


「へぇ……だったら……」僕は周囲を見回して、「今……やたらと鳥が多いのはなんでだろうね」


 僕たちの周りには、異常な数の鳥がいた。しかも種類も豊富だ。大きいのから小さいのまで、数えるのは不可能なくらいの数がいる。


 夜の公園で大量の鳥に囲まれる。それは結構恐怖だ。しかも鳥たちはとても静かに、こちらをジッと見つめている。不気味にもほどがある。


「だから言ったじゃないか。私は都市伝説なんてって」

「過去形だね」つまり、今は信じている。「つまり、そういうこと?」

「そうそう。私は今からキミに告白しようとしていて、それを邪魔しに怨念が来たわけだ」それから彼女は不敵に笑って、「怨念が邪魔しに来るってことは、返事はOKで良いのかな?」

「断ると思う?」

「思わないよ。こんな良い女からの告白、断る男がいるもんか」


 相変わらず自信家だなぁ……


 まぁ彼女が告白してくれたことは嬉しい。もう少ししたら僕から告白するつもりだったのだが、カップル成立はカップル成立だ。


 ともあれ……


「どうする、僕の恋人さん」僕は周囲の鳥を見る。「告白成功しちゃったから、この鳥さんたち戦闘態勢だよ?」


 羽の音と鳴き声がやかましくなってきた。


「そうだねぇ……さっきキミが言ったじゃないか」

「……弱肉強食?」

「そうそう」どんなときでも強気なのが、僕の恋人である。「ここで鳥さんたちにやられるようなら、それまでのカップルだったという話さ」

「それもそうだね……」それこそが弱肉強食。「ちなみに質問」

「なに?」

「明日、なに食べる?」

「そういうの死亡フラグっていうんだぞー」彼女は言ってから、「……鶏肉が食べたくなってきたな……」


 マジかこいつ。目の前の鳥たちを見て鶏肉を食べようって発想になる? たしかにニワトリもいるけど。僕だったら怖くて食べられないよ。


「さて、逃げようか」彼女は屈伸をして、「トリさんたちは会えなくなっちゃったけど、私たちは明日も会おうぜ」

「そういうの死亡フラグっていうんだよ」


 と、いうわけで……


 僕たちが怨念から逃げ切れたのかどうか、そんなことはどうでも良い話だろう。みなさんが勝手に想像してほしい。


 あえて言うことがあるならば……


 彼女と食べる親子丼はとても美味しかったということだけだ。

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